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2022年 特別番外編🎃ハロウィン 宗吾&瑞樹&芽生

「瑞樹、頼む! 急な欠員だ、ヘルプ・ミー!」 「くすっ。僕でいいんですか。お役に立てるかな? 僕が出しゃばって……宗吾さんの会社に迷惑かけません?」 「大丈夫だ、社内の人間は今日は俺だけで、あとは商店街連合のおっさんだけだ」 「……分かりました、やります」  そんなわけで、俺は土曜日の真っ昼間に、瑞樹と東京の外れの小さな町にある商店街にやってきた。 「じゃあ、これを着てくれ」 「わ、どんな仮装をするのかと思ったらカボチャおばけですか。随分と直球なんですね」 「うん、分かりやすいのがいいんだよ、ハロウィンにまだ馴染みがない場所では」 「確かに! じゃあ僕もオバケになりきりますね」  素直な返事だ。  可憐な瑞樹はオバケにはなれないと思うが、一生懸命なのが可愛くて目を細めてしまう。  今日は、それでいい。  下手に外で可愛い仮装をしたら、目立って危ないからな。 「宗吾さん、どうです?」 「おぉ! コロコロして可愛いな」 「ふふ、宗吾さんもですね」  商店街でハロウィン仮装行列のイベントチラシを配って誘導する。  瑞樹と汗水垂らして同じ作業するのは滅多にないことなので、嬉しかった。 「宗吾さん、このカボチャ結構腰に負担がきますね」 「これさ真面目に作っているから、2-3kgあるらしいぞ」 「あぁ、そうか。あれみたいですね」 「ん?」 「ほら妊婦体験ベスト……」 「どうして、そんなの知っているんだ?」 「あ……同僚がそんな話をしていて」 「実はさ……潤に送ったカボチャのおばけの仮装に砂袋を入れて送ったんだ」 「え! ふふ、それ、いいですね。潤は菫さんの苦労を知りたがっていたし」  こんな風に俺たちに縁のない妊娠出産の話題も明るく話せるのは、二人の関係が充実しているからだ。  今が大切なんだ。  俺たちはもう過去から、切り離されている。 「宗吾さん、僕……潤にも、もっともっと幸せになって欲しいんです」 「分かるよ。潤にも過去を乗り越えて欲しいんだな」 「はい……僕はもう幸せなんです。それをいつも伝えているのですが……潤は時々引き返してしまうんです。それは僕も人の事を言えませんが」 「瑞樹、根気よく行こう。幸せの種をお裾分けして」 「はい!」  しかし、今年のハロウィンは何だか物足りないぞ。  このまま可愛いカボチャで終わっていいのか。 「あ……宗吾さん、お疲れなんですね。少し眠っていいですよ」 「あぁ、悪いな」  実は連日のイベント対応で、ヘトヘトだったので、急に睡魔が……以前だったら、こんな風に瑞樹に甘えられなかったのに、今の俺は君にもたれて眠ってしまうよ。 「夜は芽生くんとハロウィンパーティーですし、少し休んでくださいね」 「あぁそうだ……芽生の衣装を取りに行かないと」 「お母さんの力作、楽しみですね」  そのまま、うとうとと帰りの電車の中で寝てしまい、楽しいハロウィンの夢を見た。 …… 「えぇ? 宗吾さん、僕が赤ずきんちゃんなんですか」 「可愛いだろ? 名付けて『みずきんちゃん』だよ」 「な、何ですか。それは」 「俺の赤ずきんちゃん! たべちゃいたいな、ガォー」  瑞樹が真っ赤になる。赤ずきんの頭巾と同じくらいに。  いつの間にか狼の姿に変身した俺が瑞樹に覆い被さろうとすると、芽生も狼の格好で急いでやってくる。 「パパだけずるいよー」  負けじと「ガォー」 「わぁ~ 食べられる」  瑞樹が逃げれば、追うだけなのに。 「待て待て、ガォー」 「食べちゃうぞ」  芽生も俺もノリノリで追いかけ回すという、実に煩悩に溢れた夢だった。 「宗吾さん、いい夢見ていたんですね。涎……垂らしていましたよ。どんなご馳走を?」 「あぁ、旨そうだった。そうだ、芽生が狼だと俺と瑞樹を取り合うから、アイツは羊か山羊にしよう」 「くすっ、それ何の話ですか。でも……僕も実は楽しい夢を見ていました」 「どんな?」 「……あの、怒りません?」 「あぁ」  瑞樹の夢は、瑞樹と芽生が可愛い妖キツネになって、そこに鬼のパンツを忘れた俺が飛び込んで来るという突拍子もない内容だった。 「なぁ、それで俺の衣装は?」 「くすっ、それがいっくんがトコトコやってきて、葉っぱを1枚くれたんですよ」 「な……ぬ……う? まさかすっぽんぽんに葉っぱか!」 「はい、でもそれって、ちょっと外を歩けないやつですよね」  瑞樹が肩を揺らして笑っている。  その笑顔は可愛いが、脳内は駄目だ。 「俺はもっとカッコいいのがいい! 芽生が母さんに作ってもらうのを奪うか」 「宗吾さん、大人げないですよ」  学校に芽生を迎えに行き、そのまま母さんの元へ、衣装を取りに行った。 「わぁぁ、かっこいい! かっこいい! おばあちゃん、ありがとう」  それは、白い羽が生えた執事風衣装だった。 「芽生のリクエストなのよ。でも、よくこんなデザインを思いついたわね」 「イギリスであったんだ。しつじのルイさんかっこよかったから」 「まぁ、またその夢の話なの?」 「夢じゃないよ。本当だもん!」 「そうね。どこかで不思議な世界と今は繋がっているのかもしれないわね」 「だから羽を生やしてもらったの。ボク、夢の世界に飛んで、しつじさんのおしごとならってくるね」  子供の発想は可愛いな。 「で、何を習うんだ?」 「お紅茶のいれかた! イギリスのお紅茶ってすごくおいしいんだよ。パパとお兄ちゃんにいれてあげたいんだもん」 「そうなんだね。芽生くん、楽しみにしているね」 「お兄ちゃんはココアを上手にいれてくれるから、ボクはお紅茶をいれられるようになりたいんだ」  子供の成長は早い。  いつもしてもらうばかりの芽生が、誰かに何かをしてあげたいという気持ちを芽生えさせたのか。 「芽生くん、ありがとう。うれしいよ」 「うん。でもね……早く、トリックオアトリート! したいな」 「そうだね、さぁお菓子をもらいに行こうか」 「うん!」  今年もマンションのイベントで、各フロアの決められた部屋を子供たちがお菓子をもらいに回る。 「宗吾さん、子供達が来る前に僕たちも早くパンプキンになりましょう」 「やっぱり、また、それか」 「今年は可愛い路線ですよ」 「夜は? 夜も……可愛いだけの路線か」  真剣な目で訴えると……瑞樹が狼狽えた。 「知ってますよ……宗吾さん、また新しい衣装手に入れたの……ベッドの下に隠していますよね?」 「ははっ、なぁ、俺、今はいい子にカボチャのおばけになるから、あとであれを着てくれるか」 「う…………分かりました」  そんな話をしていると、子供達の足音が聞こえてくる。 「トリックオアトリート!」  「おお! さぁ、もってけもってけ」 「宗吾さん、それじゃ泥棒みたいですよ」 「みんな、よく来たね。Happy Halloween!!」  ん? 瑞樹、君はこんなに明るかったか。 「あ、順番を守ろうね」 「君はこっち、そういい子だね」  瑞樹が子供達を仕切って並ばせている。  おぉ! お兄ちゃんだった瑞樹に会えた。  芽生がそんな瑞樹を眩しく見つめている。  誇らしげに……  芽生、よかったな。  もう瑞樹は完璧に俺たちの家族だ。  Happy Halloween!  子供も大人も楽しもう!  今、生きて、ここにいることに感謝を。   あとがき **** 🎃Happy Halloween👻 今日は読者さまにアンケートしたカップルハロウィンコーデのアイデアを盛り込んだ 番外編でした。少し本編にも被っています。 アトリエブログにかわいい、滝沢ファミリーのぬいをアップしますので、よかったら覗いてくださいね。           

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