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ハートフルクリスマスⅡ・8
「瑞樹、おはよ!」
「あっ……もう起きていたんですか」
「少し前にな、瑞樹が可愛くて眺めていた」
布団の中で腰をグイッと抱きしめられると、下半身が擦り合わされる感覚にぶるっと震えてしまった。
あっ、まずい。
今日の僕はマント姿だから、足元がスースーして心許ない。だから宗吾さんの指先が意味ありげに下半身を辿り出すと、すぐに吐息に熱を帯びてしまった。
「ミニスカじゃなくても色っぽいな」
「えっ……あっ……」
慌てて口を塞いだ。
「色っぽい声だな」
「し、静かにしてください。芽生くんがいるのに」
「分かっているよ。だがそそる声を出したのは瑞樹の方だぞ」
「も、もう」
「ごめん、ごめん。もうしないよ」
宗吾さんが、今度は優しくキスをしてくる。
おはようのキスは、いつもより長かった。
「えらく可憐なサンタさんだな」
「そ、宗吾さんはカッコいいサンタさんですよ」
いつものように額をコツンと合わせて微笑むと、僕の背中にくっ付いていた芽生くんがもぞもぞと動き出した。
「ん……パパ……それは……ダメです」
寝言かな?
まるで宗吾さんのお母さんのような口調に吹いてしまった。
「クスっ」
「うーむ、母さんに見張られている気がするぞ」
「えぇ、全くその通りです」
その後、芽生くんが目を覚ました。
クリスマスの朝は、小さな子供にとって魔法の時間だ。
「パパ、お兄ちゃん、サンタさんが来てくれたよ! すごい! すごい!」
「わーお! パパもサンタになったぞ~ やった!」
宗吾さんがノリノリで対応すると、芽生くんも大喜びだった。
親子で同じ笑顔、無邪気な笑顔が溢れているね。
小学2年生には、まだまだサンタさんは実在するんだね。
なんだか懐かしいな。
「お兄ちゃんとボクは、おそろいのマントだね。すごく気持ちいいよ。ふっくらしてあたたかいよ。これってホンモノのサンタさんのおようふくだよね」
「はは、そうだぞ。芽生、これはホンモノだ」
宗吾さんが更に暗示をかければ、芽生くんの瞳がますます輝く!
「お兄ちゃん、ねぇねぇ早くおきて、プレゼントをとどけにいこうよ」
「そうだね」
「あれ? こんなところに何かあるよ」
ベッドから抜けて出た芽生くんが、足下に何か見つけたようだ。
一体何だろう?
「わぁ~ サンタさんから『たきざわサンタぞく』にプレゼントだって!」
「なんだろう?」
「開けてみていい?」
「おー、芽生、開けてみようぜ」
サプライズを置いてくれたのは、もしかして宗吾さんですか。
箱に中から出てきたのは……
「わぁ! これって、とけい?」
「そうみたいだね」
白い壁に赤い屋根の現代風のかっこう時計が出てきた。
「宗吾さん……これって」
「俺たちがいつか建てる家みたいだな」
宗吾さんに肩を力強く抱かれた。
「赤い屋根ですね」
胸が一杯になった。
「すごい! お家にことりさんがすんでいるみたい!」
なんて幸せで、なんて和やかな朝なのだろう。
赤いマントを着て迎えたクリスマスの朝は、最高だった。
クリスマスの朝、世界には沢山の笑顔が溢れている。
ギフトを贈る人も、受け取る人も、笑顔の花を咲かせているから。
ふと軽井沢の潤のことが気になった。
今、潤はどうしている?
僕はサンタクロースの一員になって、プレゼントをもらったよ。
潤は、いっくんのサンタさんに無事になれたか。
****
「パパ、パパぁ、おきてぇ」
無事に真夜中にサンタの任務を終えた途端に脱力し、うっかり寝坊してしまった。
「う……ん、どうした?」
「あ、あのね、たいへんなの。ぐすっ……」
「どうして泣いているんだ? ちゃんと『ようせい』になれただろう?」
黄緑色の愛くるしいエルフ姿のいっくんが、小さな手を目にあててメソメソ泣いている。てっきり大喜びかと思ったのにどうした?
「いっくん『ようせいしゃん』じゃなくて『えるふしゃん』だよぅ」
「あ! そうだったな」
いっくんが俺の身体によじ登ってくる。
「パパぁ……あのね……パパがサンタさんだったの?」
この発言には、ギョッとした!
「どどどど、どうしてそんな風に思うんだ?」
しまった! しくじったか。
焦って棚の上を見上げると、サンタの赤い衣装はた箱の中に見えないようにしっかりと入っていた。そこは抜かりなかったはずだが。
「だってぇパパのおひげ……しろいから」
「えっ」
慌てて顎を撫でると、昨日両面テープで綿をつけた名残が少し残っていた。ヤバいぞ、これはなんとか誤魔化さないと!
「これ? これは埃だよ」
「そうなの? よかったぁ」
いっくんがほっとした表情で、やっとにっこり笑ってくれた。
「いっくん、どうしてそんなに泣いたんだ? パパに話してくれないか」
いっくんの悲しみや悩みは、なんでも受け止めてやりたい。
「あのねぇ、いっくん……よなかにサンタさんにあったんだよ」
「お、おう、そうなのか」
「……サンタさん……パパにちょっとにてた」
「お、おう……」
ううう、心臓が痛い。
「でもちがってよかったぁ……だってねぇ、もしもパパがサンタさんだったら、クリスマスのひにしかあえないよって、いっくんさみしくなって、えーんえーんしちゃったの」
なんと! そんなことを思っていたのか!
「いっくん、パパはサンタさんじゃないよ。いっくんのパパだ。ずっと一緒にいような」
「うん! いっくん……きょうだけ……えるふしゃんだけど、ずっとずっとパパのこだよ」
「あぁ、その通りだ。いっくんはオレの子だ!」
ヤバい、また泣きそうだ。
全力でオレをパパだと慕ってくれるいっくんが可愛すぎて。
「ぐすっ……」
隣で菫さんが堪えきれずに泣いていた。
「菫さん、メリークリスマス!」
「潤くん、メリークリスマス、本当にありがとう」
結婚して初めて迎えるクリスマスの朝は、少し切なくも温もりのある日差しに包まれていた。
「ママぁ、びっくりしないでね。いっくんえるふしゃんになっちゃった」
「いっくん、よかったわね」
「きょうだけ、いっくん『はやまえるふしゃん』だよ。せんせいにもおしえてあげるんだ」
「あら、いっくん、今日は保育園に行かなくてもいいのよ」
「えー どうして?」
「パパもママも特別にお休みをもらえたの」
「じゃあ、ずっといっしょなの? サンタさんは、どこ? なにをしたらいいのか、おしえてもらわないとだめだめ」
「え? えっと……」
また困ってしまった。
そうだった。妖精になるだけでなく、サンタさんのお手伝いをしたいという願いもあったんだ。
「あーん、サンタしゃんのおてつだいしたいよぅ」
「うーん、困ったわね。潤くんどうしよう?」
「そうだ! 芽生くんがサンタさんになったらしいから相談の電話をしてみるか」
「わぁ、めーくんはサンタさんになれたの? すごい! めーくんのことなら、ちゃーんときくよ。だっていっくんのおにいちゃんだもん!」
エルフ姿のいっくんは、まるでスズランの妖精みたいで可愛かった。
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