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新緑の輝き 5
僕の書いた手紙と宗吾さんの書いた手紙は、全く同じ内容だった。
それはとてもシンプルな愛の言葉。
いつも胸の奥に大切にしまっては、何度もリフレインしている台詞を文字にしたものだった。
「これってさ、つまりラブレターだよな」
「はい、そうだと思います」
「おぉ! 俺、実は自分から書いたの初めてだ」
「あ……僕もですよ」
宗吾さんのことだから、きっと沢山ラブレターをもらっただろう。
少しだけ……ほんの少しだけ妬いた。
でも書いたのは初めてだと聞いて、じわりと嬉しかった。
「瑞樹も沢山もらっただろう。君は昔から王子様タイプだから、高校でも大学でも、さぞかしモテただろう?」
「そ、それは……」
目立つことが嫌で引っ込んでいたのに……
確かにそういうシチュエーションは、何度もあった。
その度に、僕は身を隠したくなった。
でも今は違う。
宗吾さんとの恋愛に、どこまでも前向きだ。
再び生きることに積極的になれるなんて、宗吾さんと出会うまでは想像していなかった。
「僕もこんな風に手紙に気持ちをしたためるのは、初めてです」
「そうか!」
自然と抱擁しあった。
手紙をお互い握りしめ、温もりを確かめ合った。
一歩踏み出して良かった。
僕からの一歩が大切だったんだ。
ふと一馬のことを思い出した。
別れたのが春だったせいか……ほろ苦い思い出が転がってくる。
……アイツには悪いことをした。
付き合っている間、僕からは一歩も踏み出さないで、お前からの愛だけを受けるだけだった。
一馬が離れていくのも仕方がないことをした。
今、一馬が幸せなのを知っているから、そして今、僕も幸せだから、素直な気持ちで当時を振り返ることが出来た。
僕は宗吾さんと生きて行く。
そう思うと、気持ちが一段と高揚してきた。
「ん? 鼓動が随分早いな」
「宗吾さんこそ」
「普段しないことをしたからな」
「僕も同じです。でもこれからは、もっともっと……今まで出来なかったことに挑戦したいです。その、一緒に歩みたい人が出来たので」
「君は最近いい表情をするようになったな。いい眼差しだ」
宗吾さんに顎を掬われたので、静かに目を閉じた。
優しく重なる温もりは、どこまでも温かかった。
「君とのキスが好きだ」
「どうしてですか」
「とてもいい香りがするし、優しさが沁み入ってくる」
「それは僕もです。宗吾さんの力強さ逞しさを分けてもらえます」
その晩は、何度も何度も、互いの唇を啄みあった。
翌朝――
「いってきまーす!」
「芽生、今日も楽しんで来い」
「うん!」
「芽生くん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん! パパもお兄ちゃんも仲良くがんばってね」
「サンキュ!」
「あ、ありがとう」
芽生くんってば、僕たちのことまで応援してくれるなんて。
最近、日常の小さなシーンで、芽生くんの成長を沢山感じているよ。
スクスク大きくなれ!
一晩眠ると芽生くんの気持ちも落ち着いたのか、いつもの笑顔でランドセルを元気に揺らして登校していった。その後ろ姿を宗吾さんと見送って、顔を見合わせて微笑んだ。
「さーてと、芽生、大丈夫そうだな。俺も今日から忙しくなりそうだ。薔薇のフェスティバル準備でさ」
「頑張って下さい。僕も母の日に向けての企画が目白押しです」
「新年度だもんな。お互い頑張ろう! おっともうこんな時間だ。駅まで走るか」
「いえ……1本遅らせて行きましょう。焦らずに一呼吸置いて……」
僕はいつも焦りそうな場面では、あえて一呼吸置くようにしている。
雨が降りそうだと焦ったあの日から、僕の時計は慎重に動いているから。
僕の瞳が少し陰ったのを察したのか、宗吾さんが気持ちを押し上げてくれる。
「そうだな、君との時間が5分出来て嬉しいよ」
玄関先で宗吾さんに、肩を掴まれ熱く見つめられる。
ずるい人だ。
朝からそんな眼差しをするなんて。
「瑞樹、言葉でも手紙でも行動でも、俺は君への愛を表現することを惜しまないよ」
僕の寂しさは、いつも宗吾さんが埋めてくれる。
全方向から愛してもらっている。
「僕もまた手紙を出します。言葉でも伝えます。僕も愛を惜しみません」
僕からの一歩は、全部宗吾さんに向けていく。
****
3年生になった芽生の学校生活も順調に動き出した。
仕事は相変わらず忙しいが、溌剌とした日々が続いていた。
それは『白金薔薇フェスティバル』を目前に控えた4月下旬のことだった。
『カフェ月湖』のオーナーである雪也さんからの電話を受けて、俺は白金の館に駆けつけた。
「滝沢さん?」
「雪也さん!」
助っ人に入った『白金薔薇フェスティバル』企画。
交渉の末、雪也さんの庭に咲く『柊雪』という品種の生花をフェスティバルに提供してもらえることになっていたのに、一体どういう心境の変化だろうか。
(どうして急に生花の取り扱いを中止にすると? フェスティバルの段取りが出来上がっているのに困ります!)
今すぐ、そう詰め寄りたい気分だった。
(宗吾さん、焦っては駄目です! どうか深呼吸して下さい)
瑞樹の言葉を思い出し「ふぅー」と息を吐き出し、一呼吸置くことにした。
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