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新緑の輝き 7
今日は前置きをさせて下さいね。雪也と瑞樹の出会いのシーンは以前『紫陽花の咲く道』で書きました。随分前のことなので、おさらいでURLを貼っておきますね~💕
https://fujossy.jp/books/11954/stories/346488
それでは本文です
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机の上に差し出された名刺を見て、ハッと息を呑んだ。
ガラスの花瓶と白い花が描かれた水色の台紙には、青い文字で愛しい人の名前が印字されていた。
『加々美花壇 Flower Artist 葉山瑞樹』
まさかここで瑞樹の名刺を見るとは、想定していなかった。
「僕はこの方になら『柊雪』を全面的に任せられるのですが」
「同感です! すぐに上司に交渉してきます」
「えぇ、是非。白薔薇のフェスティバルはGW期間の開催ですよね?」
「そうです。5月1日から7日までの1週間です」
「では時期的にも、丁度良いですね」
「え?」
「僕の兄たちは、いつも記念日を大切にしていましたよ」
「あの……」
「交渉が上手く行くといいですね」
雪也さんは、楽しそうにウィンクした。
茶目っ気のある方だな。
まさか俺個人の事情を見越して、瑞樹を指名してくれたのか。
5月2日は瑞樹の誕生日なので、1日中一緒に過ごしたかったが、今年は急に『白金薔薇フェスティバル』の仕事が入ったので、GWは休みなしになってしまった。だからもしも瑞樹がこのイベントを手伝えることになったら、俺たち一時的にだが同じ職場で働くことが出来る。誕生日も1日一緒にいられる。
そう思うと、テンションが上がった。
「では、社に戻ります。すぐに結果をご報告します」
「えぇ、急な話なので、僕の方からもしっかり推しておきます」
どういうルートでだろう?
踏み込んでは聞けないが、雪也さんの提案は上手く運びそうだ。
「大丈夫ですよ。滝沢さんの夢はきっと叶いますよ。あ、これ兄さまの口癖でした」
「ありがとうございます」
社に戻ると、部下が青い顔ですっ飛んできた。
「滝沢さん、申し訳ありませんでした! 冬郷さんの白薔薇に対して余計な提案をしたのはオレです」
青インクのことか。
昔の俺だったら頭ごなしに怒鳴っていただろう。
(ふざけんな! お前の浅はかな思いつきで、全てが台無しになる所だったぞ!)
だが、その言葉は呑み込んで深呼吸と共に吐き捨てた。
俺の若い頃とよく似ているよ。いつも俺も人より目立つことばかり考えていた。話題性、目新しさのためなら古き伝統など斬り捨てて構わないと驕り高ぶっていた。
「あの、オレ……チームから降ります。先方を怒らせてしまったのですから責任を取って」
「いや、少し待て」
全ては瑞樹がこの仕事を引き受けられるかに掛かっている。
彼には彼の仕事のスケジュールがあるのは重々承知で、俺はまず上司に事の成り行きを話し、それから瑞樹の名刺を差し出した。
まさか、俺の職場でこんな展開になるとは、驚きだ。
「なるほど、話は分かった。若い人は目先の話題性に飛びつくが、今回のフェスティバルの土地柄や白薔薇の提供者の年代を全く考慮出来ていなかったようだな」
「はい、白金は古き良き屋敷が建ち並ぶ地区です。また『Made in白金』ブランドの『柊雪』の提供者の思いを確認していなかったようです。いずれにせよ、全て俺の指導不足です」
「……滝沢くん自ら真っ先に冬郷様の元へ駆けつけてくれてよかったよ。真摯な気持ちは届くものだ。さぁ早速私は加々美花壇に電話して、この葉山瑞樹というフラワーアーティストに参加してもらえるように交渉してみるよ」
「是非、是非! 宜しくお願いします!」
思いっきり力が入ってしまった。
「張り切っているな」
「あ、いや……その……『白金薔薇フェスティバル』を成功させたいので」
「ありがとう。滝沢くんに助っ人に入ってもらって正解だな。まさに君はカンフル剤だな」
さぁ、ここからは上司に任せよう。
雪也さんの謎の推しもあるから、きっと夢は叶うだろう。
明るい希望に包まれていた。
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いっくんと一緒に、潤くんを見送った。
季節はもう4月下旬。
この前まで雪がチラつく日もあったのに、すっかり暖かくなってきたわ。
春の兆しが見える清らかな朝ね。
こんなにのどかな気持ちで過ごせる日が、私たちに来るなんて。
「ママぁ、だいじょうぶ?」
「いっくん、大丈夫よ」
いっくんがいつまでも窓辺に立っている私の手を、きゅっと優しく握ってくれた。
「ママ、おねんねする? いっくん、おへやからでないよ。いいこにしてるよ」
いっくんがお布団を敷こうとしたので、慌てて止めた。
「いっくん、大丈夫よ。今はもう寝ていなくていいの。少しお散歩した方がいいのよ」
「おさんぽ?」
いっくんの手が止って、キョトンとした表情で私を見上げた。
こんな日が来たら、息子としたいことがあった。
「もちろんよ。ママ、今日はいっくんとデートしたいな。ようし! スーパーのおもちゃ売り場に行ってみる? 何か買ってあげるわよ。その後ファミレスでお子様ランチを食べようか」
いっくんは優しく微笑んでいるけど、首を静かに横に振った。
「ううん……いいよ」
おもちゃやお子様ランチ、きっと喜ぶと思ったのに、どうしたのかな?
「あ、あのね……ママぁ……それよりねぇ……」
「ん?」
いっくんが私の足にくっついてきた。
お腹の赤ちゃんにぶつからないように、そっとそっと。
「あかちゃんのときみたいに……いっしょにねんねしたいなぁ」
そうか……いっくんのして欲しいことは、まずは、そこからだったのね。
なんだか泣けちゃう。
健気で優しいいっくんは、天国に逝ってしまったあの人の忘れ形見。
「ママ、やっぱり眠くなっちゃった」
「ほんと? いっくんね、おふとん ちゃんとじゅんびできるよ」
小さな身体でお布団を敷いてくれたの、そっと横になった。
臨月のお腹なので、横向きで抱きしめてあげることは出来ないけれども、私は精一杯いっくんを抱き寄せ、頭や背中を撫でて、しっかり手をつないであげた。
「ママぁ、ママぁ……」
いっくんも私の手に頬をすり寄せて、心の底から嬉しそうに微笑んで、私の名を呼んでくれる。
あなたがいつも「ママ」と呼んでくれたから、私は頑張れたのよ。
一人でも頑張れた。
「ママぁ、よかったねぇ。ママぁ、パパがきてくれてよかったね」
「うん、パパ、かっこいいね」
「うん! いっくん、パパにもうあいたくなっちゃった」
いっくんってば……
「そうだ、葉っぱさんを見に行こうか。昔のように二人で」
「え? はっぱしゃんって、パパのいるところ?」
「そうよ、イングリッシュガーデンでママとデートしよう」
「いく! パパにあえるの、うれちい!」
そうだった。
いっくんはおもちゃやお子様ランチも人並みに好きだけど、それよりも葉っぱが大好きだったのよね。
まぁ……今は葉っぱよりも、パパだけど!
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