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新緑の輝き 9

 先日応募した『フェアリーランド』のコンテスト結果が、気になる。  きっと、そろそろ出るはずだ。  あの日偶然にも雪也さんが来てくれ『柊雪』を僕に贈ってくれた。そしてコンテストに『柊雪』で応募することも許してもらえた。  僕は雪也さんに対して深く強い縁を感じていた。  夏樹に会いたい自然に沸き上がる気持ちを込めた僕の『心の旅』  夏樹も一緒に長崎に行こう。  夏樹は九州に行ったことはないから、お兄ちゃんが連れて行ってあげるよ。  花に姿を変えて、夏樹は僕の心の中にいる。 「葉山、おはよう!」 「菅野、ごきげんだね」 「まぁな、こもりんが可愛くてさ」 「くすっ、うん、彼はとっても可愛いよ」 「なぁ、桜色の小坊主姿、見る?」 「うん!」  菅野のスマホの中で明るく可愛く笑う小森くんは、健全そのもの。 「うん。とっても可愛い。ええっと桜餅みたいだね」 「だろ! 可愛くて食べちゃいたくなる」 「ふふ、もう食べたの?」 「いや……桜餅をいっぱい食わされて腹一杯で……」 「桜餅?」 「まぁ……その、瑞樹ちゃん、俺、まだまだ頑張るよ!」 「う、うん。頑張って」  この分だと、まだまだなのか。  でも菅野と小森くんが幸せそうなので、それでいいと思った。  思い返せば、僕も宗吾さんと身体を繋げるまで、丸一年かかった。  散々焦らして、焦らされて……  あぁ、今となっては懐かしい過去だ。  って、僕……朝から何を思いだしているんだ!    ここは神聖な職場なのに。  僕がコンテストに応募したことは、宗吾さんと芽生くんには内緒にしてある。もしも選ばれたら、長崎への招待券と一緒に報告したいから。  嬉しいサプライズを起こしてみたくなった。  大切な人の笑顔を見たい。  だから僕は願っている。  どうかコンテストに入選しますように。  こんなにも自分の欲があるなんて、驚いた。  PCで5月のスケジュールを確認していると、リーダーに呼ばれた。 「葉山、ちょっといいか」  来た!  コンテストの結果が来たと思った。会社単位で応募したので、リーダーの方に結果が来るとのことだったので。 「はい、何でしょうか」 「うーん、君のGWの予定を全て覆してもいいか」 「え? どういう意味でしょうか」  GWは、宗吾さんが全て仕事不在なので、芽生くんと二人でゆっくり過ごそうと休みを多めに取得していた。  それを取り消されるということなのか。  心臓がドキドキした。 「実は助っ人でぜひ来てくれと、君直々にオファーがあって」 「僕を指名ですか」  一体誰だろう?  何の仕事だろう? 「取り合えず、今から、この会社に行って詳細を打ち合わせして来てくれ」 「……はい」  リーダーがくれたミーティング資料を見て、ハッとした。 『GW特別企画・白金薔薇フェスティバル』  これは宗吾さんの会社の企画だ。  しかもこの企画には、宗吾さんが思いっきり携わっている! 「このフェスティバルで取り扱うの白薔薇は少し訳ありで、葉山が適任らしいんだ」 「白薔薇ですか」 「ほら、葉山がこの前扱っていた『柊雪』という品種だ。社長直々のお達しだなんて、葉山、どこかで見込まれたのか。GW全部出勤になってしまうが、やり甲斐がある仕事だ。頑張ってこい! その代わり、連休明けに代休を取っていいからな」 「はい!」  芽生くんのことが気がかりだが、またとないチャンスだと思った。  つまり僕は、宗吾さんと仕事で対等に渡り合える! ****  瑞樹は無事にここにやってくるだろうか。  打ち合わせコーナーで、俺は書類の角をトントンと机で整え、深呼吸した。  いいか宗吾、よく聞けよ。  ここは俺が勤める会社の中だ。  瑞樹が来たからと言って、絶対に鼻の下を伸ばさないこと。  けっしてデレるなよ~ 「ちょっと滝沢さん、何を気張ってるんですか」 「え?」 「滝沢さんって黙っていればイケメンなのに……実に勿体ない」 「おいおい、俺はいたって真面目だよ!」 「そうですかぁ」    白金薔薇フェスティバルの企画チームの同僚は30代独身女性だ。  細いフレームの眼鏡を指先で上下に動かして、ルージュを引いた唇をニッと吊り上げた。  君こそ、間違っても瑞樹を色眼鏡で見るなよー!   「なんか私を見る目が殺気立ってますよ」 「そ、そんなことない。おい、そろそろ時間だ。君こそ邪念を払え」 「ふふ、楽しみです。加々美花壇の若手フラワーアーティストが満を持して登場ですもの~ フフン!」  おいっ、女のくせに鼻息が荒いぞ!  残念だが、今からやって来る葉山瑞樹は俺の恋人だ。  心の中でブツブツ唱えてしまった。  どうか……どうか、瑞樹に悪い虫がつきませんように――  部屋の扉が慎重にノックされる。  この控えめで丁寧なノックの仕方は、瑞樹、君だ! **** 「潤、入場門の植栽が枯れているから、手直し頼む」 「はい!」 「……」 「どうしました?」     上司がオレの顔をじっと見つめたままなので、首を傾げた。 「いや、お前、いい顔になったなぁ。父親らしい包容力の塊だ。まだ若いのに気合い入ってるな」 「家族がいるので」 「なるほど、家族が仕事の励みになっているのか」 「はい!」  自信を持って、胸を張って答えられる。  すみれといっくんのお陰で、オレは居場所を見つけられた。  オレらしい生き方を見つけた。  ずっと宙ぶらりんだったオレを、つなぎとめてくれた家族。  生まれてくる子供を、みんなで愛そう。  いっくん……  やべーな。  オレ、相当な子煩悩だったみたいだ。  もういっくんに会いたいなんて。  入場門に向かうと、ハンギングバスケットのパンジーが枯れそうになっていた。  オレは一度地上にバスケットを降ろし、丁寧に枯れた部分を取り除き、肥料を注入して、作業に没頭した。  パンジーは、スミレ科スミレ属に属する野生のスミレを品種改良して作り出した品種で、花が大きく、丈夫で美しい。 「よしよし、これでどうだ? 居心地良くなったか」  つい植物に話しかけてしまう。  天職だと思えるほど、オレはガーデナーの仕事が好きになった。  切り花もいいが、土に根ざす草花が好きだ!  花のような可憐な奥さん、すみれが好きだ!  小さな楓の葉っぱのように優しいて可愛らしい、いっくんが好きだ!  心の中で、愛を叫んだ。    

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