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Brand New Day 2

 連休明け。  芽生くんが登校するのを見送ってから、僕たちも出社の準備をした。  自室でネクタイを締めていると、宗吾さんがヒョイと顔を覗かせた。 「瑞樹、今日も頑張ろうな」 「はい! 頑張りましょう」 「あのさ連休の代休のことだが……出来たら同じ日に取れるといいな。君と休みを合わせたい」 「はい、僕もです。って……旅行の予定がなくなってしまって、すみません」  駄目だな、つい悪い癖が出てしまった。  いい加減に呆れられてしまうだろう。  だが宗吾さんは、僕の背中をゆっくり撫でてくれた。  こういう時の宗吾さんの心はとても広い。 「それも一興だ。何をするか、どこに行くかを考える所から楽しもう!」 「そうですね」 「俺たちの可能性は無限大ってことさ、ワクワクするな」 「確かに!」  好奇心の塊の宗吾さんの言葉は、いつも僕の心を軽くしてくれる。    きっちりと予定を立てなくても、なるようになるか……  いい言葉だ。自然にゆったりと任せてみたくなる。  宗吾さんに一度深く抱き締められる。 「あ、あの……」  スーツ姿の宗吾さんは一際カッコいいので、密かに胸がドキドキする。 「身体は大丈夫か。その……昨夜は無理させたな」 「大丈夫です。短い睡眠でしたが良質な睡眠だったので、ほら」  力こぶを作ってみたが、自慢するものではなかった。 「ははっ、ほんと、君は可愛いな」 「うーん、どうして僕は筋肉が付きにくいのでしょうか」 「それでいいよ。そのままでいい。体力はばっちりついているから安心しろ」 「そうですね」  ニコッと微笑みかけると、宗吾さんが顔を赤くした。 「瑞樹さぁ、あんまりその笑顔を振りまくな。みんないちころだ」 「いちころって……くすっ、宗吾さんだけですよ。僕の全てを曝け出せるのは……」  背伸びして、僕からのくちづけを届けた。  一つになれる方法が男同士にもあってよかった。  そんな風に思ってしまうほど、僕は宗吾さんと一つになれるのが嬉しい。  だから昨日も僕と何度も繋がってくれて、幸せだった。 「ありがとうな」 「僕の方こそ」  額をコツンと合わせて微笑み合う。  時が流れた先には、こんなに穏やかな日常が待っていたなんて――  今日もとても幸せな朝だ。  二人で家を出た。 「瑞樹、move onだ!」 「はい!」  先へ先へ――   進もう。  もう先へ進むのは怖くはない。  宗吾さんと芽生くんと一緒に描ける未来が待っているから。    宗吾さんといつものように有楽町、日比谷口の改札で右と左に分れ、真っ直ぐ歩きだすと、後ろから声をかけられた。   「葉山、おはよう! 連休中も出社お疲れさん」 「菅野、おはよう。連休はゆっくり出来た?」 「いやいや、大忙しだったよ。実家の店の助っ人で終わった」 「連休の江ノ島は大賑わいだったろうね」 「そうなんだよ。風太ともデート出来ず、うぉぉ、風太不足だー」 「そ、そうか、早く会えるといいな」  ポンポンと肩を叩いて慰めてやると、菅野も肩を叩いてくれた。 「葉山もおつかれさん。連休出ずっぱりで、芽生くん不足なんじゃないか」 「うん、だからこそ長崎に連れていってあげたかったんだけど……コンテスト……駄目だった。菅野はどうだった?」  今までだったら、なかなか自分から言い出せないことも、今は素直に言える。 「そうか、残念だったな。という俺も落選だったよ」 「悔しいね」 「悔しいな」  二人の悔しさが重なったので、思わず笑ってしまった。 「お、瑞樹ちゃんが笑った」 「うん、最初は落選に凹んだけど、宗吾さんに『楽しみが延期になっただけだ』と言われて目が覚めたよ」 「くぅー 流石、スパダリ宗吾さん、いいことを言うな」 「菅野も同じだよ。僕たちまた頑張ろう」 「あぁ、毎年やっているみたいだしな」  部署に着くと、リーダーに呼ばれた。  「葉山、菅野ちょっといいか」 「あ、はい」  おそらくコンテストの結果だろう。  加々美花壇からの応募だったので、もちろん上司も結果を知っている。 「コンテストの結果のことだが……聞いたよ」 「すみません。結果を出せなくて、心を引き締めて頑張ります」 「俺もすみませんでした。また頑張ります」  二人で頭を下げるとリーダーにピシッと怒られた。  怒られたというのは、頭を下げたことに対してだ。 「頭を上げろ。いいか、今は謝る所じゃないぞ。お前達はベストを尽くしたのを知っている」 「あ、ありがとうございます」 「ありがとうございます!」  リーダーに封筒を渡された。 「あの、これは?」 「先方から是非にと、次のコンテスト参加のオファーが来ている。是非君たちに参加して欲しいそうだ。直々に誘われて良かったな」 「え!」 「どうだ? またトライしてくれるか」 「あ……はい! してみたいです。何度でも」 「俺もします」  リーダーは満面の笑みを浮かべてくれた。 「頼もしいぞ。葉山、菅野よく聞け。人生には失敗がつきものだ。そして失敗から学ぶことは多い。その経験があれな成功した喜びを感じられるし、何もしないで後悔を抱き続けるより、失敗を経験した方が、人としての幅が深まり広がっていくぞ。俺はそういう人が好きだ。だが……悔しかった気持ちも分かるぞ! 二人ともお疲れさん」  リーダーが菅野と僕の肩に手をまわし、労ってくれた。  挑戦してよかった。  結果は今回は伴わなかったが、菅野とリーダーとの関係が更に深まった。  僕の人生は一度きりだが、挑戦は何度でもしてもいい。  頑張ろう!    僕には未来があるのだから。  そして母の日の翌日から、二人揃って代休を4日間取れた。  奇しくもコンテストで選ばれていたら、同日で長崎に行っていた日程だった。  今回は近場で気ままにゆったり過ごそうと、特に旅行の予定は入れなかった。ここまで慌ただしい日々だったので、ゆとりも大切だと家族で決めた。 「瑞樹、芽生、明日は弁当を持ってピクニックにでも行かないか」 「いいですね。あの公園に行きましょう」 「わー あの公園だいすき!」    三人でベッドの中で、明日の予定を一緒に立てる。  本当にそんな何気ないことが、幸せだ。 「よし、決まりだな。メニューはどうするか」 「ええっと、お兄ちゃんのたまごやきがいいなぁ」 「いいな。あとは?」 「やっぱりおにぎりが食べたいですね。函館から届いた鮭があるので」 「俺は唐揚げだ」 「わ! ハードルが上がりましたね」 「ハードルをあげた方が燃えるんだ」 「流石、宗吾さんです。僕もついていきます」 「ボクも!」  明日へのワクワクは、朝起きても続いていた。    1日の始まりに感謝して、今日も僕は動き出す。  三人で賑やかに楽しくお弁当作りを楽しんだ。 「パパ、お兄ちゃん、早く、早く行こうよ」 「おぅ、瑞樹、準備はいいか」 「はい、あっ携帯を忘れてしました」  慌てて部屋に取りに戻ったタイミングで電話が鳴った。  軽井沢の潤からだった。  同時にカレンダーを見てドキドキした。  予定日はもう一週間先のはずだが……これは、もしかして?    

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