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ムーンライト・セレナーデ 24 (月影寺の夏休み編)
丈と山門の下で待っていると、大きなバンが坂道をゆっくりと上がってきた。
「あれじゃないか」
「うん、そうかも」
白いバンには『Cafe&Restaurant 月湖』という文字と美しい白薔薇の絵が描かれていた。
「なるほど、今日は店の車で来てくれたようだな」
「……丈、どうしよう? 気軽に頼んでしまったが、大事になってしまった」
おばあさまにいらぬ負担をかけてしまったと、今度は違う後悔をし出す始末だ。
俺はどうして、いつもこうなのか。
素直に甘えられずに後から後悔し、ジメジメと陰気になっていく自分が嫌になる。
「洋がしたことは余計なことだったのか。本当にそう思うのか。言い出した時におばあさまはどんな反応をされた?」
「それは……とても喜んでくれたよ。とても張り切っている感じだった」
「そうだろう。おばあさまにとって洋は……もう今生では会えない娘の一粒種だ。だからもっと自分に自信を持ってくれ。そのお母さん譲りの美貌も、最近成長中の男らしい一面も大切にして欲しい。いいか、よく聞け。洋は本当に魅力溢れる男だ」
丈の言葉はいい、いつも直球で俺に届く。
バンが俺たちの前で停車し、すぐに桂人さんが運転席から下りてきた。
「洋さんお待たせ致しました。全ての準備は整いましたよ。さぁピクニックバスケットは、どちらへ運べば宜しいですか」
「桂人さん自ら、ありがとうございます」
「これは私の得意分野ですので、何なりとお申し付け下さい」
黒い執事服をシックに着こなし優美に微笑む桂人さんの美貌に、見惚れてしまった。
少しも老いを感じさせな不思議な人だ。
「桂人さんには月が似合いますね」
「え?」
「あぁ、すみません。不躾なことを」
「……月の精と……かつて言われたこともありましたよ。若かりし頃の話ですすが」
ふっと微笑む、桂人さんにまた見惚れてしまう。
いいな、俺もこんな風に歳を重ねたい。
「洋さんには特別な贈り物をご用意しました」
「え?」
「さぁ、どうぞ」
後部座席から、桂人さんにお姫様のようにエスコートされて降りてきたのは……
「お……おばあさま?」
「洋ちゃん、おばあちゃまも来ちゃった!」
「どうして?」
「あら、駄目だった? あなたに会いたくて我慢できなかったのよ」
誘えば良かったと後悔したのは、ついさっきだ。
まさか一緒にいらして下さるなんて――
「おばあさまに本当は来て欲しかったのに、口下手で上手く言えなくてごめんなさい。俺の頼みを聞いて下さり、ここに来て下さり……ありがとうございます。心から嬉しいです」
「洋ちゃんは私の可愛い孫よ。まだ、あなたのために出来ることがあって嬉しいの」
おばあさまが俺をふんわりと抱きしめてくれる。
丈とはまた違う柔らかい温もりの奥に確かな母の血を感じ、泣きそうになる。
「おばあさまもナイトピクニックに参加して欲しいです。俺の自慢のおばあさまを皆に紹介したい」
「洋ちゃんの大切なお友達、瑞樹くんにもまた会えるのね」
「はい、今回は彼の弟さんたちも来ています。そうだ、3ヶ月の赤ちゃんもいるんですよ」
「まぁ! 赤ちゃんですって! おばあちゃまも見たいわ」
「一緒に挨拶にいきましょう」
「洋ちゃん、大すき!」
少女のようにはしゃぐおばあさまの手を、今度は俺がエスコートした。
竹林を抜けて、寺の奥庭のピクニック会場へ。
桂人さんは軽々と荷物を下ろし、両手に大荷物を持ち、スタスタ歩いて行く。
華奢な身体なのに、力仕事に慣れているようだ。
「夜のピクニックにはお酒が似合う。だから会場にBARをOPENさせよう」
「流石、桂人さん、気が利くわね。あなたは本当に最高の執事さんよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
彼もまた楽しんでいるようだった。
状況を楽しむ。
俺には出来なかったこと、これからしたいこと。
****
「めーくん、まだかな~」
「まだみたいだよ」
「もうしゅぐ?」
「そうだね。きっともうすぐだよ」
ボクといっくんは小僧さんのかっこうのまま、お寺の山門の前にちょこんと座って、スイさんとリュウくんの帰りを待っていた。
わぁ……空がどんどんオレンジ色になっていくよ。
「めーくん、おそら、きれい!」
「そうだね」
「ゆうやけさん、さわってみたいなぁ」
いっくんが立ちあがって、お空に向かって手を伸ばしたよ。
「あっちもきれい」
指差す方向は、階段の下。
目の前は急な階段なので、その手をギュッとにぎってあげた。
「いっくん、階段は危ないよ。お約束したよね」
「……でも、いっくん……いってみたいな」
「おりたら、ダメだよ!」
「……」
いっくんの大きな瞳がうるうるしてきた。
どうしよう、言い方キツかったかな?
ドキドキしていたら、スイさんたちの姿が見えたよ。
「あっ! 帰ってきたよ!」
「ほんと?」
スイさんとリュウさんが戻ってきてくれた。
ボクうれしくて、手をブンブン振ったよ。
「スイさーん、リュウくーん」
いっくんも真似して
「すいしゃん、りゅーくん、おかえりなさぁい!」
そうだ『お帰りなさい』って、言ったらいいんだ。
ここはボクのお家じゃないけど、そう言いたいよ!
「お帰りなさい!」
二人はボクたちを見つけて、びっくりしたお顔になったよ。
「わわ! エンジェルズよ、危ないぞー そこから動くなよ」
「芽生くん、いっくんじっとしていておくれ」
あ……二人を驚かせちゃったみたいだ。
リュウくんがすごい勢いで階段をのぼってきたよ。
「一体どうした?」
「だいじょうぶだよ。ボクたち、お約束を守って、ここからは出ていないよ」
「それは偉かったぞ」
「えへへ」
リュウくんの手ってゴツゴツして、かっこいい。
流しそうめんやベビーベッドも作ったんだよね。
なんでもできるリュウくんってすごい! あこがれるよ。
ボクも大人になったらリュウくんみたいに、なんでも出来る人になりたいな。まだ小さいからパパとお兄ちゃんにしてもらうことが多いけど、大きくなったら、いろいろしてあげたいんだ。
お兄ちゃんにステキなおくりものも作ってあげたいな。
気がつくと、目の前にスイさんが立っていた。
お兄ちゃんみたいに優しく笑ってくれている。
「芽生くん、ありがとう。君はいいお兄さんだね」
いっくんが甘えた声をだした。
「すいしゃん、すいしゃん」
「ん? どうしたの、いっくん?」
「あのね……すいしゃん、おんぶちて?」
「え?」
そっか、いっくん、つかれていたんだね。
今日はボクと同じだけ動いていたもんね。落ち葉に夢中だったし。
「え? 僕がしてもいいの?」
「うん!」
「もちろんいいよ。こんな小さな子をおんぶするのは久しぶりで緊張するよ」
スイさんがしゃがむと、いっくんがうれしそうにぴょんと背中にくっついた。
「なるほど、芽生坊は俺がしてやろうか」
「流さん、ボクは自分で歩くよ」
「そうか、だがこの先疲れることがあったら、いつでもここに戻って来い。ここは君をいつでも歓迎するよ」
「うん、ありがとう……ここは『お帰りのお寺』なんだね」
「いいこと言うな」
『夕焼けこやけでひがくれて~ やまのお寺のかねがなる』
翠さんが優しく歌ってくれたよ。
いっくんは背中で可愛く笑っていた。
あとがき
不要な方は飛ばすようにして下さい(本文後に掲載するのは、私のいつものスタイルなのでご容赦くださいませ)
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こんにちは、志生帆 海です。
『重なる月』とのクロスオーバーの物語ですが、『重なる月』未読の方でも『重なる月』のキャラはここまで何度も登場しているので、ある程度分かるように書いているつもりですが、もし分かりにくかったらすみません。
一度7月にエブリスタからfujossyさんへの転載をお休みしてから、リアクションが減ってしまったのですが、最近では一桁にまで激減してしまいました。このままこちらへこの物語を転載する需要があるのか正直よく分からなくなっています。
実は8月にコロナにかかってしまい、その後遺症なのか、なかなか日々のモチベーションを維持するのが大変です。という理由でもしも転載が突然トップしてしまったら、本当にごめんなさい
今日はアトリエブログをアップします。エブリスタで挿絵としてあげていた『ムーライトセレナーデ』に関する(collage)をこちらでも公開しますので、よかったら見て頂けたら嬉しいです。
https://fujossy.jp/notes/34362
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