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秋陽の中 22

 夕食はフランス料理にした。 『星屑 ~ほしくず~』という名前に惹かれて選んだコースだ。 前菜   地元の旬の野菜と魚介のサラダ 温菜   ハマグリと蕪 ポルチーニ茸の香りを添えて スープ  白菜とベーコンの六甲山牧場ミルクスープ 魚料理  鰆のロースト、かぼちゃソース 肉料理  神戸牛のステーキ ワインソース パン   六甲山牧場バターを添えて デザート 丹波栗を使ったモンブラン 飲み物  六甲山麓ホテル特製焙煎珈琲  せっかく神戸まで来たのだから、風太に地元の美味しい食材をたっぷり食べさせてやりたかった。  あんこ以外の味も堪能して欲しくて。    それにしても風太と正式な晩餐は初めてだ。  いつもと違う雰囲気の食事に、俺たちのテンションも上がりっぱなしだ。  いよいよ特別な夜を迎える。  そのプレリュード。  うぉ~ 柄にもなくキザな台詞が出てくるよ! 「菅野、六甲山では『星屑の宝探し』というイベントをやっているらしいよ。参加して気分を盛り上げるのはどうだろう? そして、そのまま……」  食後の珈琲を飲んでいると、ふと葉山との会話を思い出した。  そのまま……  ごっくん。  さっきから生唾を飲み込んでばかりだ、俺。  こっくん。  俺の前で、スーツ姿の風太も喉を鳴らしていた。  もしかして俺たち同じ気持ちなのか。    目が合うと、風太は恥ずかしそうに笑ってくれた。    愛くるしい表情に、胸が高鳴っていく。  こんなに君を丸ごと欲しくなるなんて―― 「良介くん、ご馳走様でした。こんな正式なフランス料理は初めてなので緊張しましたよ。あの、僕、大丈夫でしたか」 「あぁ、バッチリだったよ」 「よかったです。実は流さんにテーブルマナーの特訓も受けました」 「へぇ、流さんはフランス料理も作れるのか」 「世界中のお料理を作れますよぅ。なんなら『あんこフルコース』もいけるそうです」  いやいや、そっちにはいかなくてもいい。  あ、でも無事一つになれた暁には、ご褒美で『あんこフルコース』も食べさせてあげたい。  結局、俺は風太の笑顔が一番大事なんだ。  きっとそれはすぐに実現するだろう。 「帰ったらお願いしてみよう。その時は一緒に食べよう」 「わぁ、うれしいです」 「それにしても、風太は月影寺の皆さんに本当に可愛がってもらっているんだな」 「有り難いことですよ。僕は中学卒業後すぐに入門したので高校生活を知りません。だから高校で体験するはずだったことを何も知らないのです。でもそれに匹敵する経験を月影寺で積ませてもらっています。皆さんから高校のお勉強も教えていただきましたよ。流さんからは恋のイロハも……だから……その……今日はお任せください。バッチリです」  ドンッと胸を叩く風太の健気さが愛おしい。  『恋のイロハもばっちり』という言葉に背中を大きく押された。  さっきから『OKサイン』が、ずっと点灯している。 「す、少し散歩するか」 「そうですね」  食後、葉山が勧めてくれた『光の森~星屑の宝探し~』というイベントに参加してみた。  夜の六甲山は閑散としていた。  少し冷えてきたので、そっと手を繋いで肩を寄せ合った。 「光の森で星屑を探そう! 7個集めると夢が叶うそうだ」 「わぁ、一緒に探しましょう」  風太があんこ以外のことに、目を輝かせている。  よし、いい感じだ。  このまま、きっと俺たちは一つになれる。  森の中の光源は、あたたかい光だった。  点在する光。  それは俺たちが出逢ってから過ごした日々のようだ。  夏のある日、月影寺の階段で突然降ってきた饅頭と風太。  衝撃的な出会いから、江の島の岩場でのキス。  月影寺に報告をして大爆笑!    そこまでは早かった。  だがあまりに初心過ぎるあどけない風太に、慎重になってしまった。  あんこに負けることも数知れず……    男同士は初めてだから勝手が分からなく、身体の距離はなかなか進まなかった。だが1年以上かけて知識も身につけ(宗吾さんに感謝)、ようやく時が満ちた。  今日は朝からおやつまであんこ尽くしで、風太の腹は満ちたりている。非常食に羊羹もあることだし……いやいや、あんこはちょっと置いておこう。あんこ脳はここで一旦封印するぞ! 「良介くん、あそこも光っていますよ」 「高い場所だな、届くか」 「僕、挑戦してみます」 「あぁ」  風太が岩場で精一杯背伸びをして、手を伸ばす。  俺はそっと支えてやると、無事に届いた。  光源を抱きしめ、風太が微笑む。 「綺麗ですね。これで7個集まりましたよ。夢が叶うのですね」 「風太の夢ってなんだ?」 「僕の夢はこれから二人で叶えるものですよ。あの……そろそろお部屋に戻りましょうか」 「お、おう」  風太の覚悟が伝わる台詞だった。  いいんだな、このまま今日は最後までしても。  俺たちは、そのまま客室に戻った。 「ええっと、まずシャワーを浴びるか」 「ああああ、は、はい。そうしましょう」  お互い声が上擦っているが、風太も恋のイロハを学んだようで、流れは掴んでいるようだった。 「先に浴びておいで」 「あ、はい」  ギクシャクした会話も微笑ましい。  シャワーの水音に興奮が先走ってしまう。  おいおい、がっつきすぎだ。  一度クールダウンせねば。  深呼吸しながら、大きな窓から星空を仰ぎ見た。  そっと……そっと、久しぶりにその名を呼んでみる。 「知花ちゃん、そこにいるのか」    俺、今から風太と一つになるよ。  女性は知花ちゃんしか知らない。  あれから風太と出会うまで、結局誰とも付き合わなかった。  女性は知花ちゃんだけがいい。  ……この先は風太とだけだ。  そうしてもいいか。    そうさせて欲しい。  耳を澄ませば、優しい声が届く。  星屑からの贈りものなのか…… 「良介くん、もちろんよ、それでいいのよ。どうか幸せになって! 風太くんって、最高に可愛い若い男の子ね。彼は健康で丈夫で長生きするわ。大事に大事に幸せにしてあげて」  ありがとう。   「良介くん、私と最後に交わした言葉を覚えてる?」 「あぁ」 ―― 良介くん……どうかまた恋をしてね。私が終わりなんて嫌よ ―― 「あれは本心だったの。でも女の子だったら少し妬いちゃったかも。良介くんが可愛い男の子に恋をしたのは意外だったけど嬉しかった。それに風太くんには、私が見えたの。そのことも嬉しかったわ。私が良介くんに届けきれなかった愛も全部預けるわ。もうこれで……暫く会えなくなるわ」  知花ちゃんの声が遠くなっていく。 「良介くん、あの日私が将来の夢を語った日を覚えている? あの時お花ともう一つ好きなものをあげたわ」 「覚えているよ。お花見をしながら、あんこの匂いも好きだって」 「ふふ、あんこ好きな風太くん、私も好きよ。あんこちゃん、可愛いね。あっ、いかないと……」  夜空に流れる星は、知花ちゃんがまた一段と高い場所に昇った合図だ。  無性に胸が切なくなり、シーツをギュッと握りしめると、そっと俺の手に触れてくれる温もりと出逢った。 「良介くん? 僕はここにいますよ」 「風太!」  風呂上がりのポカポカな身体を抱きしめると、風太も俺にもたれてくれた。 「知花さん……いらしていたのですね」 「あぁ、風太と一つになること報告した」 「良かったです」    ううう、流行る気持ちを必死に抑えこんで、スクッと立ち上がった。 「お、俺もシャワー浴びてくるよ」 「浴びなくてもいいですよ」 「いや、すぐに戻ってくる」 「はい、ちゃんとここにいますよ。ずっとそばにいます」  人生でこんなに速攻でシャワーを浴びたことはない。  それほどに俺の心は急いていた。  風太、風太、風太が消えていませんように――  身体を拭くのもそこそこに飛び出ると、風太は同じ場所でちゃんと待っていてくれた。  ホテルのパジャマは風太にはダボッと大きくて可愛らしい。 「良介くん、早かったですね」 「風太、抱いてもいいか」 「はい、そうして下さい」  風太は優しく俺を抱きしめてくれた。 「僕も大好きな人とひとつになってみたいです。あの……あの……僕も普通の男の子だったようです。少し前からそわそわしていました」 「ありがとう」  そっと誓いのキスをした。  俺の愛、受け取ってくれるか。    はい、僕の愛も受け取って下さい。  お互いの心を込めてキスをした。  ありったけの愛を込めて届けると、風太も同じだけの愛を届けてくれる。  愛し愛される喜びに、泣いてしまいそうだ。  そのままそっと風太の身体をシーツに沈めて、パジャマのボタンを一つ一つ外していく。風太は大人しくされるがままだ。 「恥ずかしいです。僕……子供みたいですよね」 「そんなことない。子供はこんなことしないよ」  そっと舌先で胸のつぶらな突起を舐めてみると、細い身体がピクンと震えた。  もっともっと欲しい……  舐めたり吸ったりしてみると、ビクビクと跳ねた。  そのまま身体をずらして、そっと風太の下半身に下着の上から触れてみた。  膨らみを感じて笑みが漏れた。  そっとパンツをずらすと、可愛く勃ちあがったものが見えた。    その先っぽもペロッと舐めてみた。  あ……甘い!  苦いと思ったのに、甘かった。 「どこもかしこも甘いんだな」 「愛が溢れてきます……どうしよう」  あぁ……ヤバい。可愛い。しんどい。  

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