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秋陽の中 25

今日は、前置きから。 今日で『秋陽の中』も最終話になります。 読者さまへの投票アンケートで菅野&小森CPの秋の旅行に沢山票を入れていただいたので、月影寺と滝沢ファミリーも巻き込みながら25話にもなりました。色気ゼロのこもりんに色気を授けるのにかなり苦心しましたが、なんとが菅野くんの悲願を達成することが出来ほっとしました。読者さまも安堵されたのでは? では最終話です。 ****  風太の可愛い寝顔を見つめ、俺は幸せを噛みしめた。  知花ちゃんを失ってから、もうこの世では二度と恋は出来ないと思っていた。  だが風太と出逢えた。  こんなに可愛い子と一つになれた。  風太はやることをやったらスッと憑きものが落ちたかのように、いつものあどけない風太に戻ってしまった。  でもそんな所も含めて、全部可愛いよ。  額にチュッと優しいキスをして、胸に抱きしめて眠りについた。  人肌の暖かさに、ふいに泣きたくなる。  俺は昔気質な人間だから、一線を越えた相手と生涯を共に過ごしたいと願ってしまう。  そんなの風太には重くないだろうか。  いや、違うな。  きっと風太も同じ気持ちだから、身体を重ねられたのだろう。  俺もそのまま爆睡してしまった。  かなりがっついた気がするが、挿入したのは一度きりだった。  イッタの一度じゃなかったが。  風太を傷つけないように、風太に気持ち良くなってもらいたくて、必死だった。もちろんそれ以上に、俺も気持ち良かった。  とにかく全速力で走りきって無事にゴール出来た充足感で一杯だ。  俺は男を抱いたことはないので、今回の旅行前に実は宗吾さんと差しで飲んで、教えを請うた。 …… 「宗吾さんしか頼る人がいないんです。どうか教えて下さい。どうやったら風太を傷つけずに、気持ち良くなってもらえるのか。手順をご教授ください」 「ははは、もちろん教えてやるけど、なんかさ、ちょい気まずいな」  宗吾さんはジョッキビールをぐびっと飲み干して、朗らかに笑った。 「ですよね、相手は葉山だと言うのは想像しないようにしますから、何卒!」 「よし、絶対に瑞樹の顔を思い浮かべるなよ。俺が瑞樹に嫌われる」  受け入れる方は負担が大きい。  しっかり入り口は解さないと、傷つけてしまう。  男は自然には濡れないので、滑りを良くるために潤滑剤を使う。  宗吾さんは非常に懇切丁寧に、手取り足取り教えてくれた。  途中、何度か葉山が宗吾さんに組み敷かれている姿を想像しそうになり、必死に頭を横に振った。  挙動不審の俺を見て、宗吾さんは苦笑していた。 「菅野よ、脳内忙しそうだな。ここから生きて帰りたいなら余計な妄想はシャットアウトだ」 「もちろんです!」 「よし、じゃあ男の感じやすい部分を何カ所か教えてやろう」 「はいっ!」  手土産にハチミツクリームをもらった。 「携帯用のムフフだ」 「ムフフ……」  あー 思い出してもハズい会合だったな。  死んでも瑞樹ちゃんには言えないぜ。  それにしても宗吾さんの言う通りだったな。  感じやすい場所をせめてやると、風太にエロスイッチが入った。  あーあの時の顔、最高に可愛かったな。  今の俺、宗吾さんレベルのヘンタイになっている。  昨夜の情事を反芻し悶えてしまう。  ヤバいな。  頭の中の風太で抜けそうだ。  朝の気配を感じながらも思い出に浸っていると、隣で眠っていた風太がもぞもぞと動き出した。    ん? そろそろ起きるのか。  いや初めての行為の後だ。すぐに起き上がるのは無理だろう。  もう少し横になっていた方がいい。  すると風太が蚊の鳴くような声で俺を呼んだ。     「良介くぅ……ん、た……助けて下さい」 「え? ど、どうした? どこか痛いのか。まさかあそこが切れて」  慌てて飛び起きて布団を剥ぐと、風太はお腹を押さえて蹲っていた。 「ちがいますよぅ。お腹が……」 「腹が痛いのか。あ、ちゃんと処理しきれてなかったのかも! トイレで一度出した方がいい。薬、薬も一式持ってきている」  おろおろしていると、風太がはぁと溜息をついた。  溜息をつかれるほど、俺、駄目だったか。  心配になって風太を見ると、小さな口が動いた。 「お……こし……」 「おこし?」 「おこしにつけた……ようかんをくださいませんか」 「え?」 「あんこが……あんこが不足しています」  !!!  あ、そっちか。    うん、そっちだよなぁ。  風太はやっぱり風太だ。 「翠さんが持たせてくれたのだな」 「はい、毎日補充出来るように、小分けにしてくれました」 「流石だ」  風太に羊羹を渡すと、ぺろりと一口で食べてしまった。 「あぁ生き返りました」 「もっと食べるか」 「はい、もっともっともっと」 「ひぇ」 「ふふ、というのは冗談です」 「冗談!」  風太はニコニコ笑って、俺に抱きついてくれた。 「良介くん、昨日はありがとうございました。すごくすごくよかったですよぅ」 「お、おう」  デレデレだ。 「えへへ、あんこと良介くん、世の中には甘くて美味しいものが溢れていますねぇ」 「あんこより先がいい」  つい我が儘を言ってしまった。   「そうでした、良介くんとあんこです。良介くんが一番大好きです」  朝が来たら、またいつものあんこ大好き風太に戻ってしまうのでは思っていた。  それでもいいと思っていた。  常に素直に目の前のことを向き合う良い子だから、その時その時で精一杯だから、それでいいと。  だから……風太の中で、俺と一つになれたことがちゃんと認識され、記憶されていることが嬉しかった。 「さぁ、お土産を沢山買って帰ろう」 「はい、きっと皆心配しているでしょうね」 「そうだろうな」  月影寺の方でも翠さんと流さん、丈さんと洋くんがやきもきしているだろうな。  宗吾さんと葉山は、自分のことのように喜んでくれている気がする。  葉山。  俺も葉山と同じ世界を生きていくよ。  だからこれからもよろしくな。 ****  庫裡で朝飯の支度をしていると、翠がやってきた。  思い詰めたような顔をして、何を言い出すのかと思ったら…… 「流、小森くんはちゃんと歩けるだろうか」 「はぁ?」 「あ、いや……あの子はまだ幼い。だからその…あぁぁぁ何を言わせるんだ」 「ふふん、大丈夫だ。菅野は小森が絶対に傷つかないように最大限努力したはずだし、それにアレをもたせたしな」  翠が小首を傾げる。 「あれとは?」 「これさ」 「ん?」  翠を抱き寄せ、両手で尻をモミモミと揉むと怒られた。 「もう、僕は真面目に心配しているのに」 「だが桃ワセリンは便利だぞ。キスのしすぎで皮が剥けそうになったら唇にも使えるし、あっちの方はとても滑りもよくなる。俺もいつでもどこでも一緒さ」  翠が真っ赤になって、怒った。  でも満更でもなさそうだ。 「流は……はぁ、全く……確かにあれはよく潤うけど」 「翠、もしかして寂しいのか。小森が大人の階段をのぼっていくのが」 「……少しだけね。あの子が15の時から預かっているから、情が湧いてしまったよ」 「いいんじゃないか。あの子は月影寺の子だよ。ずっとこの寺にいてくれる大切な子だ。だからこうなって良かったのさ」  翠を抱きしめて、言い含めるようにキスをすると、翠も安心したように微笑んでくれた。 「あの子のために一層精進するよ。ここがあの子にとって安心できる場所であって欲しいから、結界もしっかり張ろう」 「俺も手伝うさ、その前に……こっちをもらうぞ」  翠の唇にキスをする。  約束のキスを――  その日の午後、二人が無事に戻ってきた。  秋の陽射しを浴びた二人は少し照れ臭そうに、それでいて最高に幸せな笑顔を浮かべていた。 「ただいま戻りましたぁ」 「おぉ、ちゃんと行って帰って来られてよかったな」 「はい! 流さん、僕、ちゃんとイケましたよー」 「イケ……?」 「はい、天国を見てきましたぁ」 (あぁ、そっちか) 「おお、イケたのか」 「はい、僕は一度きりでしたが、最初は良介くんは2回、3回ととめどなく……」 (おいおい、天真爛漫な顔して、言うことが小悪魔だぞ) 「ふ、風太ぁーーーー」 「小森くん、そういうことは報告しなくていいんだよ」  翠と菅野くんは真っ赤だ。  これから色づく紅葉のように真っ赤になっていた。 「そうだったんですか。流さんが逐一報告をと言っていたので」 「それは仏門のことだよ。小森くんの歩む恋路は二人だけの秘密でいいよ」 「翠は内緒が好きだもんな。俺とも沢山の秘密を共有しているよな」 「りゅ、流……!」  明るい陽射しを浴びて、俺たちは笑い合った。  円になって笑えば、縁がいっそう強まっていく。  それが俺たちの世界の鉄則だ。  秋陽の中――  愛おしい人を見つめて思うこと。                            『秋陽の中』  了

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