1519 / 1740

秋色日和 2

 連日の前置き失礼します。  昨日からエッセイで、こもりんの神戸旅行アフター話を書いています。  落ちもないこぼれ話ですが、よろしければこちらからどうぞ。 (他サイトですが、誰でも読めますの)  ↓  https://estar.jp/novels/25768518/viewer?page=1051  『幸せな存在』も日常に焦点をあてた穏やかな話になっています。  大きな事件も起きないので単調かもしれませんが、和やかな毎日が幸せだと感じているので、暫くゆったり書いて行こうと思います。 **** 「ママ、パパ、まだぁ?」 「もうすぐかえってくるわよ」 「それまできてていーい?」 「気に入ってくれたのね」 「いっくん、かっこいい? かわいい?」 「かっこ可愛いわ、いっくん、だーいすき」 「わぁ、いっくんもママだーいすき」  せのびして、まどにくっついたよ。  パパにもだいすきって、はやくいいたいな。  パパにおようふく、みてもらいたいよ。  パパにはやくあいたいよぅ。  いっくんのパパぁ……  あ! パパがはしってかえってくるのがみえたよ。 「まぁ、潤くんってば、あんなに走って」 「どうしてはしっているの?」 「それはいっくんにはやくあいたいからよ」 「ママとまきくんにもあいたいんだよ。かぞくにあいたいんだよ」 「まぁ、いっくんってば……本当に優しい子」 「えへへ」  パパはかぞくがだいじだよ。    いっくんはそんなパパがだいしゅき!  まどガラスにうつるいっくん。    おようふく、とってもかっこかわいいんだって。  えへへ、うれちいな、うれちいな。  ママがこんなにしてくれて、とってもうれちい。  これなら、きっとだいじょうぶだね。 …… 「いっくん、芽生くんが着ていたお洋服を、また送ってくれたわよ」 「わぁ、こんどはどんなの? どんなの?」 「これと、これよ。んー ちょっとまだ大きいかな? でもいっくんもこれから成長するから大丈夫よ」  ママがいっくんにおようふくをみせてくれたよ。  あれれ?   まっくろなおようふくばかりだよ。 「いっくん、どうしたの?」 「え? ううん……えっと、これ、きてみる?」 「そうねぇ……今日じゃなくていいわ。もう少し待ってね」 「うん」 ……  いっくんがいること。  いっくんがまってること。  パパにもちゃんとみえるかな?  よるみたいにくろいおようふくだと、みえなくなっちゃうかも?  だからね、ほんとうは、ちょっとしんぱいだったの。  でもね、ママがしろいかざりいっぱいつけてくれたの。  だから、うれちい!  ママ、やさしいなぁ。  ママぁ、ありがとう。 「あ、パパがみてくれた」 「うんうん、遠くからもいっくんが見えるのよ」    わぁ、やっぱりママがかざりつけてくれたからだね。  よかったぁ。 「うん! パパぁー パパぁー」  パパもブンブンおててをふってくれたよ。 **** 「潤、こんな時間までいたのか。もう上がっていいぞ」 「でも、まだ作業が終わっていません」 「いいから上がれ。あとはやっておくから」 「そんなの申し訳ないです」  オレは甘え上手でないので、こんな風に気を遣われると困惑してしまう。 「家でおちびちゃんと赤ちゃんが待っているのだろう。子供が小さい時期は一瞬だ。だから今この一瞬を大切にしろよ」 「あ……はい」  函館の工事現場で働いていた頃は、適当に生きていた。  人生に何も目標もなく、正直、遊ぶ金欲しさのためだけに金を稼いでいた。  だが今は違う。  可愛い嫁さん、そして二人の息子がいる。  オレを待っていてくれる家族がいる。  そう思うと、ペコッとお辞儀をして、着替えもせずに飛び出した。  我慢していた「会いたい」という気持ちが溢れてくる。  家路に就こう。  オレの家族の元に帰ろう。  自然と走り出していた。  会いたさが、オレをプッシュする。  やがて見えてくる古いアパートの2階には、キャンドルのような優しい灯が。  あたたかい色だ。  あそこはオレの家だ。  小さな窓に人影が見える。  いっくんだ!  オレにはシルエットで分かるよ。  オレの子だからな。  でも今日はいつもよりくっきり見えるぞ。  あぁ、なるほど!  いっくんの洋服が白く光って見えるのか。  ん? あんな服、持っていたか。  ようし、早く戻ろう。  手をブンブン振って、更にスピードを上げた。 「ただいま!」 「パパぁ、パパぁ」  飛びついてくるいっくんを見て、笑顔が零れた。 「どこの王子様かと思ったよ。かっこ可愛い洋服だな」 「これぇ、ママがつけてくれたの」 「よかったな」  先日宗吾さんが送ってくれた芽生坊のお下がりは、黒い服ばかりだった。  兄さんからの手紙にそっと書かれていたのは「潤の奥さんは手先が器用だから、サイズを調整したり飾りをつけてあげるといいかもしれないよ」  菫もその手紙に笑顔を浮かべ「アレンジなら任せて! 得意中の得意よ」といっくんが保育園に行っている間に、張り切って針仕事をしていた。  それが完成したらしい。    いっくんらしい可愛さと、男の子らしいかっこよさ。  さすがママだな。 「すみれ、ありがとうな」 「どういたしまして。私もいっくんに似合いそうなデザインを考える機会が持てて幸せだったわ」  幸せは、心が作り出すものだ。  すみれといっくんと過ごしていると、色んな事を知る。  気付きは大切だ。  そうやって人は成長していく。  オレはもっともっと成長したい。  自分を磨いていきたいよ。 「パパ、あいたかったよぅ」 「いっくん、パパもあいたかった」  オレたちの合い言葉は、今日も笑顔と共にここにある。 ****  白金の薔薇フェスタに引き続き、僕は秋薔薇を英国風に仕立て来月催される『英国展』で提供する仕事を任されることになった。  最近こういったイベントを任されることが多い。  イベントの仕事は宗吾さんの仕事に歩み寄れるので、やり甲斐がある。  外に出る機会を与えてくれるリーダーには、深く感謝している。  今日はリーダーに同行し、銀座のデパートに打ち合わせに来ていた。  仕事を終えエスカレーターで降りていると、途中でリーダーがUターンしてしまった。 「葉山、悪いが、ここで待っていてくれ。屋上に忘れ物をしてしまったよ」 「はい、畏まりました」  ぽつんと残され手持ち無沙汰だったので、辺りを見回すと、そこは子供服売り場だった。    滅多に来ない売り場なので興味を持って眺めていると、芽生くんに似合いそうなオレンジ色のトレーナーを見つけた。  秋らしい、少しくすんだ可愛い色だな。  これは、かぼちゃ色というのかな?  目を細めて眺めていると、店員さんに話しかけられた。 「息子さんにですか」 「あ……」  どうしよう、どう答えたらいいのかな? 「えっと……はい、息子に似合いそうだなと……」  心に従うと、そう答えていた。 「まぁお目が高いですね。カラフルな色は子供の元気を引き立ててくれますよね。ハロウィンの頃に着るのもオススメですよ。よろしければサイズをお手伝いしましょうか」 「あ、はい。今小学校3年生で背は……」 「まぁ、お客様はとてもお若いのに、そんなに大きなお子様がいらっしゃるのですね。きっと喜んでくれますよ」 「そうでしょうか」  話せば話すほど、緊張してきた。  やっぱり厚かましいかも……  一緒に選んだ方がいいかな?  先に宗吾さんの許可を取った方が……  頭の中が不安で一杯になっていく。  こんな時、僕はいつもとても臆病になってしまう。  出しゃばり過ぎてないかと、急ブレーキをかけてしまう。 「やっぱり……」  断ろうとした瞬間、背後から声がした。 「へぇ、君の可愛い息子さんに似合いそうだな」 「リーダー!」 「どうした? それ、買うんだろう?」 「あ、あの……」 「俺はいいと思うぞ」 「あの、ありがとうございます」  背中を押して下さってありがとうございます。    そう心の中で一礼した。  全員が全員、なんでもテキパキと決断出来るわけではない。  迷って迷って、選んでもいい。  背中を押してもらって決めてもいい。  リーダーからは多くのことを学んでいる。  薔薇フェスタの時、宗吾さんと芽生くんと睦まじく話す僕を、リーダーが温かい眼差しで見守ってくれていた。  その眼差しが、全てを物語っている気がした。  同性を愛していること。  多くを語ったことはないが、受け入れてもらえている気がした。 「葉山、気のせいじゃないさ」 「え?」 「いや、こっちの台詞だ。今日はいいお土産が出来たな」 「はい、あの……ありがとうございます」 「大丈夫だから、もう安心しろ」  心からの感謝をリーダーに。  僕は人に恵まれている。 「葉山の誠実な人柄……君が真面目にコツコツ生きているのに好感が持てるんだ。心から応援したくなる」  僕の上司は最高だ。 「それに俺の息子はもう大きいから羨ましいよ。なぁ……今を大切にしろ。子供の成長は駆け足だから、しっかり見てやれ」 「はい!」 「葉山は明るく前向きになったな。ここ数年で見違えるようだ」 「そうでしょうか」 「そうだ!」  僕も周囲の人に支えられ、少しずつ成長しているのだろうか。  芽生くんが真っ直ぐに成長していく様子を見守りながら、僕もそうでありたいと願っている。  

ともだちにシェアしよう!