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秋色日和 7
「これは参ったな」
そっと目頭を押さえていると、さっちゃんが心配そうに近づいてきた。
「勇大さん、もしかして泣いているの? どうしたの?」
「いや、みーくんがこんな写真を送ってくれて、一緒に見てくれないか」
「私が見てもいいの?」
「当たり前じゃないか。君はみーくんの母親だろう」
「……ありがとう」
さっちゃんを抱き寄せて、送られてきた写真を一緒に眺めた。
「まぁ! 三人ともいい笑顔ね。それに芽生くんのクローゼットに並ぶお洋服が虹に見えるわ。待って、本当に七色ありそうね」
「俺もそう思ったんだ。実はずっと昔、同じような写真を撮ろうとしたことがあったよ」
「まぁそうなの? 瑞樹はそのこと覚えているのかしら?」
「覚えてないよ。赤ん坊の頃の話だから」
「そうなのね。どんな光景だったの」
「……話してもいいのか」
「瑞樹のことなら何でも知っておきたいわ」
「ありがとう」
「みーくんが生まれる前のある日……」
****
「澄子さん、今日は何を買って来たのですか」
「ふふ、全部、出産準備品よ」
「それは分かるのですが、この布は?」
「手芸屋さんで綺麗な色のガーゼのハギレが売っていたから、つい」
赤、橙、黄、緑、青、藍色、紫
「あぁ、これってもしかして虹色ですか」
「そうなの。これで生まれてくる赤ちゃんのスタイを7枚作ってみようかなって」
「いいですね。虹は人々に幸せや希望を与えるものだから縁起がいいですしね」
雨上がりに現れることが多いので、虹が現れると人々は幸せや希望を感じる。また七色の光から構成されているので、七つの幸せや希望をもたらすとも考えられていた。
「そうなの! 昔から『虹は幸せのしるし』と言うし……私は『No rain, no rainbow』という言葉が好きよ。出産は終わりではなく始まりよ。生きていると色んな事があるでしょう。もしもこの子が困難にぶつかってしまっても、どうか希望の光を探して前に歩んで欲しくて……この子の誕生のお祝いに七色の虹のスタイを作ってあげようと思うの」
「いいですね、それぞれ違った色だが集まると虹という色になるのが俺は好きですよ」
「ふふ、勇大さん、この子は男の子かしら? 女の子かしら?」
「きっと虹が似合う子でしょう」
みーくんが生まれた時、ベビーベッドの周りにスタイをフラッグのように連ねて飾った。
その虹の下でみーくんはすやすやと眠り、そんなみーくんを守るように澄子さんが添い寝していた。
あまりに神々しい光景だったので、思わず写真を撮ろうとしたが、シャッター音で起きてしまうかもと躊躇した。
「熊田、これは目に焼き付けておこう! 俺たちの記憶に鮮明に焼き付けよう!」
大樹さんと肩を組んで静かに見守った。
天使のようなみーくんを。
……
というわけさ。
「素敵なエピソードね。ほろりとしちゃったわ。瑞樹はお母さんのお腹にいる時から周囲に愛され望まれた大切な子供だったのね。なんだか私も虹色のスタイを作りたくなっちゃったわ」
「それなら、ちょうど贈る相手がいるじゃないか」
「あ! そうね! 槙くんに作ってあげようかしら」
「喜ぶだろうな。スタイは何枚あってもいい。あれは使い倒してしまうものだから。あの虹色のスタイもみーくんのよだれまみれになって……」
赤ん坊のみーくんは、よくスタイの端をかじっていたな。
ついこの前のような、鮮明な思い出。
17年間封印してきた思い出が、また色鮮やかに蘇ってきた。
「大樹さんの言った通りだったな」
「どういう意味?」
「鮮明に脳裏に焼き付いていたのさ」
「そうね。記憶に残った思い出だもの。これからは、いつでも思い出せるわね」
「あぁ」
****
「いってきまーす」
「芽生くん、そのトレーナー似合っているよ」
「お兄ちゃん、本当にありがとう」
「どういたしまして! 気をつけて行くんだよ」
「うん。気をつけるよ」
お兄ちゃんが選んでくれたから、うれしいんだ。
このトレーナーのおかげでボクのお部屋の虹が完成して、うれしいよ。
ごきげんでボクは学校に行ったよ。
するとお友達が声をかけてくれた。
「芽生ー おはよう」
「おはよう!」
「へぇ、それ、いい色だな。オレンジはオレンジでもカッコいい色もあるんだな」
「ありがとう! 新しく買ってもらったんだ」
「よかったな」
オレンジ色なんてかっこわるいし、子供っぽくて女の子みたいって言っていたのに、かっこいい色だって!
それだけで心がカポカ。
3時間目は運動会の話し合いの続きだったよ。
「あー すまん。この前のグループ分けだが、人数が偏っているので、だれかカボチャグループに移動してくれないか」
先生の問いかけに、ボク、迷っちゃった。
皆もしーんとしているよ。
行ってあげたいけどお友達と約束しちゃったし……どうしよう、どうしたらいいのかな? ボクが手をあげたら、気を悪くするかな?
ドキドキしていると、お友達の方から声をかけてくれた。
「芽生、俺たちうつろうか」
「え……でも」
「あのさ、芽生の服を見ていたら、オレンジ色も悪くないと思えてきたんだ」
「わぁ……うん!」
ボクたちはふたり仲良く立候補したよ。
気持ちよかった!
気持ちって、ずっとカチカチに固まらせているんじゃなくて、こんな風にやわらかくしてみるといいんだね。
ボクとお友達、もっともっと仲良くなれそうだよ。
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