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マイ・リトル・スター 2

 4年生になった芽生くんは更にしっかりし、大体のことは一人で出来るようになったので、僕が手を貸すことがめっきり少なくなった。    以前だったら僕が毎日お迎えに行って、手をつないで帰ってきたが、そういうことも少なくなった。  夜まで小学校にいるよりも、宗吾さんのお母さんの所へ行きたいと言うので、放課後スクールの契約をアレンジして、週の半分は同級生と一緒に下校して、宗吾さんのご実家で過ごすことになった。  ちゃたの散歩も、従姉妹のあーちゃんの相手も積極的にしてくれているようで、重宝されているようだ。  芽生くんはお世話好きなのかもしれないな。  とても優しく逞しい子に成長している。    心も身体も健やかに成長している。  順調な成長が良かったと思う反面、無邪気に「おにいちゃん、だっこ」と飛びついてくれた日々が、ふと懐かしくもなる。  僕は贅沢だ。  かけがえのない思い出があるのは幸せなこと。  その思い出を日々更新できる相手と暮らせるのは、奇跡だ。  だから毎日を丁寧に大切に過ごしていきたい。  職場の時計を見ると、もう14時だった。  そろそろ時間だ。  僕は机の上を整頓をして、リーダーの元に向かった。 「あの、そろそろ、よろしいでしょうか」 「ん? 葉山か。あぁ、もうこんな時間だったのか。よし、帰っていいぞ」 「今日は早退させて下さってありがとうございます」 「これから大事な検査だろう。あれからもう1年以上経つなんて早いな。その後、大丈夫なんだよな?」 「はい、おかげさまで元気いっぱいです」 「良かったな。だが定期検診だけは怠るなよ」 「はい」  以前から申請していた通り14時で退社させてもらい、その足で芽生くんの小学校に向かった。 「お兄ちゃん!」  小学校に併設されている放課後スクールの部屋を覗くと、芽生くんとすぐに目が合った。 「芽生くん、迎えに来たよ」 「ありがとう。今、そっちに行くね」  ランドセルを軽々と担いで僕の元に走ってくる芽生くんは、うっすら額に汗をかいていた。 「サッカーしていたの?」 「さっきまでね。なんで分かるの?」 「うん、汗びっしょりだから」 「わぁ、本当だ」  ゴシゴシとタオルハンカチで髪を豪快に拭く様子は、宗吾さん本当にそっくりだ。 「へへ、サッパリしたよ」  髪の毛がボサボサになってしまったが、芽生くんの溌剌とした笑顔によく似合って、これはこれでいいのかも。  芽生くん……  大好きな人の子供なだけでも愛おしいのに、我が子のように、僕の弟のように、可愛いよ。 「行こうか」 「……うーん」  あれ、テンションが下がった?  そうだよね。  こんなに健康優良児で病気でもないのに、検査に行くのは不本意だろう。 「もしかして、行きたくない?」  寄り添うように話しかけると、芽生くんは唇をキュッと噛んだ。 「そんなことないよ」 「気持ち分かるよ。元気なのに病院行くの嫌だよね。お兄ちゃんには話していいんだよ」  芽生くんはそっと僕を見つめた。  優しく微笑むと、芽生くんは年相応の子供らしい口を聞いてくれた。 「お兄ちゃん、ボク、本当に行かないとだめ? だって、もう、こんなに元気だよ。胸もいたくならないし、どっこも悪くないよ」 「えっと……芽生くんにはいつまでも元気ですごして欲しいんだ。そのために、身体を点検してもらうんだよ。車だって定期的に点検するよね?」 「点検……そっか点検にいくんだね」 「そうだよ」  芽生くんは、去年の1月、突然川崎病を発症した。  僕も宗吾さんもかなり動揺したが、幸いなことに合併症が起こらず順調に退院出来た。その後の3か月間は薬を内服し、2、3週間に1度、外来で変わった様子はないかを診てもらった。  去年の秋、ようやく次は半年後の定期検診で良いと言われ、安堵したんだよ。  今日はちょうどその定期検診の日だ。  診察台で上半身を脱ぎ、装置をペタペタとあちこちに取り付けられ、超音波検査。  慣れない器具に、ベッドの上で、芽生くんは虚ろで怯えた表情を浮かべていた。  先生が細かく心臓に血液を供給する血管である冠動脈に瘤が出来ていないか確認してくれる。  緊張する瞬間だ。  僕をも息を潜めて、その様子を見守った。  4年生になりしっかりしたと言っても、まだたった10歳の子供だ。  芽生くん、頑張れ。  芽生くん、もう少しだよ。  心の中で必死に応援し続けた。  定期検診で問題ないと言わた途端、身体の力がふっと抜けた。  僕もよほど緊張していたようだ。  帰り道、芽生くんの方からそっと手をつないでくれた。 「ふぅー、お兄ちゃん、点検って大変だね」 「よく頑張ったね。ご褒美に何か食べていこうか」 「うーん、今日はお腹すいてないよ」 「そうか、じゃあ……そうだ、来月の芽生くんのお誕生日、お兄ちゃんもパパもお休みを取れたんだ。どこか行きたい所はあるかな?」 「あ……それなら星が綺麗に見えるところがいい! それといっくんに会いに行きたいな」  芽生くんの表情がぐんぐん明るくなったので、胸を撫で下ろした。 「帰ったら、宗吾さんと相談してみるね。芽生くんの夢が両方叶うように頑張ってみるよ」 「わぁ! やったー やった! やった! いっくんに会えるんだね」 「そうだね、会いに行こうって約束していたからね」  帰り道、少し未来の楽しみを見つけると、芽生くんは一気に元気になった。  良かった。  君の笑顔が、僕には必要なんだ。  何より……  定期検診で問題がなくて、本当に良かった。

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