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第28話 個人より公的なものを優先
1限目が終わって、机に顔を伏せていたら、南ちゃんが、
「あ~ん」
て言うから、口を開けた。
口の中にほうり込まれた小さなキューブ。
ホワイトチョコレートがとけて甘い味がひろがった。
教室の席は離れているのに、糖分補給しに来てくれた。
リアル天使。
「足りないでしょ? ほら」
と、南ちゃん。
再度口を開けると、今度はイチゴ味。
「行儀悪い」
と、頭上で八巻の声がした。
僕はがばっと頭をあげた。
「あっぶねぇ」
と、八巻が飛びのいた。
間一髪、僕の頭突きから逃れたのだ。
八巻、近くない?
だからゴチンコしそうになったんじゃないの?
「なに?」
「昼休みに風紀委員室に来て欲しい、て」
と、八巻。
「放課後じゃだめ?」
「昼休みがむりな理由は?」
「……休み時間はゆっくり休みたい。お昼ご飯を堪能したい」
「個人的な意見より公的な手続きの方が優先するよね、間宮」
「ご、ご飯は食べていいよね?」
「うちの委員長、めんどうくさいから、飯の前に済ました方が、あとあと楽だと思うけど。決定権は間宮にあるから好きにすれば?」
「瑛ちゃんはさぁ。ご飯に時間がかかるからなぁ。でも、嫌なことは早く済ました方がよいよ? パンとか買ってから行けばいいんじゃない?」
と、南ちゃん。
「え~」
昨日もお弁当だったのに、昼も軽食。
南ちゃんが持ってきてくれたお弁当は、おいしかったよ。
でも、きちんととしたご飯が食べたい。
「晩ご飯にしっかりとしたものをたっぷり食べようね、瑛ちゃんっ」
と、南ちゃん。
僕のへの字口の前に抹茶味チョコをさしだした。
ぱっくり口を開けて、南ちゃんの指ごと口に入れた。
「朝くわないのに、意地汚い」
と、八巻。
「朝、食べてないからお腹が空くの」
と、僕。
お腹が空くというか、脳が欲しているというか。
特に甘いものが食べたくなるのだ。
「だったら朝食をちゃんととれ。昼休憩になったら即効で行くから」
と、八巻。
お母さんみたいなセリフを残して、八巻は教室を出ていった。
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