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カワルハナシ
私は、傲慢で強欲だ。
何もかもを自分の手から生み出しその世界の創造主である事と同時にその登場人物でもありたいそんな欲求はいつも覚めて止まない。
紙の上で字を連なれているだけじゃ主人公の感情はつかめなかった。
こういう展開ならこう思い行動するであろうという予測はできる。だけどそんなのはやっぱり憶測で。完璧でわない。
実際に感じなければわからないのだ。
知りたい。それが私の最大欲求であり行動源だ。人間の一番の快楽は知識。知ることにある。
それを得るためなら何でもする。どんな犠牲を伴っても…
人の感情は目まぐるしく変わる季節と同じように。
梅雨
小雨が降ったり止んだりしている間 私の視界には紫陽花が咲き並んでいた。
「移り気」「高慢」「辛抱強い愛情」「冷淡」
「自慢家」「変節」「あなたは冷たい」
高慢とは人より優れていると思い上がってる様
そして自慢家であり。辛抱強い愛情の上に冷淡かつ冷静に変節的に物事を見据え作品を仕上げていかなければならない
という時ほど筆は走らず、気持ちは他のまだ買ったまま読んでいない漫画の方へ移ってしまい気が散ってしまいがちになる。
そんな時間に追われた執筆中の私の心理状況に似ている花言葉をもつ花の名前を容易たペンネームで私わ今官脳小説を書いている。
いや、実際書いてはいない。
頭を詰まらせ点滅するカーソルだけが真っ白な画面に浮いているのをボーっと眺めるだけで刻々と時計の針だけが進んでいる
私に残されてる時間はあと数日もない所まで来ているという状況下の中、担当編集に筆を放り置いて床に寝転がり
漫画をひろげて笑い転げてるところを発見され監禁され筆と椅子に縄でくくりつけられ三日三晩寝ずの24時間態勢で監視された。
いくら締切が近いとわいえこんな拷問紛いな事をされていては書けるものも書けないとなんとか
自力で縄から抜け出し監視の眼をくぐりぬけ脱獄した。
どうにかインスピレーションが沸かないものかと今見頃であろう紫陽花の咲く通り道へ来て見ていた。
「鮮やかだな。」
赤紫や青紫や薄い青藤色やらが絵の具を垂らして滲み広がった染め物のような色合いで
大きく存在感溢れ静かに佇み雨にうたれ雫を受けている姿わなんとも大らかで風上的で美しくその大きさからも力強さを感じた。
この花の土に埋もれ根に絡まれば私も花になれるだろうか。
赤い紫陽花を咲かせられるだろうか。と、この間読んだ推理小説の主人公が自害する前に妻につぶやいた一言を思い出した。
紫陽花の咲く土の下に自ら穴を掘り自ら土を被りその穴の中で動脈を切り裂いて死んだという。
それから毎年その辺り一帯の花は赤色しか咲かなくなった。
下巻でわその夫を精神的に追い込んだ組織グループの関係者を一人ずつ見つけ出しては社会的に抹殺していくという
妻の復讐劇があるのだが、その本もサンプルをもらってからまだ封を開けて読んでいないのを思い出したところで携帯が鳴った。
携帯画面には担当さんという文字が映りバイブレーションで持つ手が震えている。callでわなくmailだった。
すでに着信履歴が100件を優に超しているもちろん担当さんという文字で埋め尽くされているだろうから開いていない
そろそろ電源を切ろうかと考えていたところでメールに切り替えられた。とうとう諦めてくれたのかなと気になり受信箱を開きメールを開いてみた。
「見つけました。」
その一文だけが画面に浮かんでいた。
スクロールして見るとまだ文字があった
「そこを動かないでください。俺は今貴方の半径10メートル以内にいてあなたの後姿から目を離さずにいます。
大人しく捕まってください。逃げた場合わ貴方の読んでいる漫画を全て焼却処分させていただきます。先生、もう日が無いんですよ!」
頭の中の天秤が揺れる。
素直に捕まり監禁強要されるか、このまま逃げて漫画を犠牲に作品の質を高めるための素材を探しにいくか。
私は、
後者を選んだ。
走り出す足が地面を叩く度浅い水たまりは水しぶきをあげた。
今書こうとしている物語のあらすじはこうだ。
美人は三日で飽きるブスは三日で慣れるという言葉がある
若く美人で完璧な奥様は夫の浮気に心を痛めていた。
専業主婦である彼女は、家から出ることも少なく結婚してから地元を離れ知らぬ土地で友人も作れずただただ夫の帰りを待つだけの籠の鳥
そんな孤独である彼女の毎日の楽しみは人間観察、ストーキングだった。
見ているだけで寂しさが紛れた優越感さえ感じた。
いまあなたを見ているのは私だけよと一人で歩いている男性の背後にいることに存在意義まで感じてしまっていた。
そんなとき夫の浮気相手を目撃してしまうその相手は自分とは正反対の顔つき、体つきをしていた。
もう夫の愛は私にはないと悟った彼女は家を飛び出し土砂降りの雨の中走り出すと人にぶつかってしまう。
その人は彼女のストーキング相手だった。夫とは年も顔つき体つきも違う好青年で…彼女は初めて会ったふりをしてこう言う。
「あなたには、私がどう見えていますか?」
そう問われた好青年はなんて答えるのか、この場合は優しく彼女を心配する反応が返ってくるのであればその後は少女漫画のような展開になってしまうんだろう、そうじゃない。
彼女は夫の浮気相手が自分以下の顔立ちであることにショックを受けそれでも愛されない自分の容姿にコンプレックスを抱いているありのままの自分を受け止めて欲しいそう思うはずだ
ドカッ
そんな物語の行き筋を考えながら走っていたら誰かにぶつかってしまった。
右肩に衝撃があり視界が揺らぐ、気がついた時には私の上半身は
紫陽花の咲く垣根に埋もれ地を這っていた。
「い゙ってぇなこのやろッ….」
これは、チャンスだと思った。この展開はまさしく自分が想い描いていた展開そのものだ自分が主人公を演じる自信は十分に有る。
あとはこの物語の配役である素材になる人が必要だ…。
「…..お、おい。大丈夫か….」
素材が私に声をかけている、これはもう主人公として受答えをしなければならないと私の中の創造欲が言った。
小説家になる前の舞台演劇で獲得した俳優スキルを久し振りに発揮することにした。
女性を演じる時はできるだけ、か細く気弱な心持ちでしなやかな動きをしろとかつての演技指導者に教えられた。
演者の中でも女性役を演じるのは得意で、男を誘うような思わせ振りな仕草をとっては男性客のファンが増えた。
それでも女の皮を脱げば私はただのボンクラな男なので、私の正体を知った者はがっかりしてファンを辞めて男姿の私に野次を飛ばしたりと失望
の声があがる事もあったが、舞台上にしか存在しない女に夢を抱き愛でられる事の方が圧倒的に多く その女の役名とヒスミステリアスな演技をすることから
「嘆きの翔子。」という異名で名を轟かせていた。
が、その時の私はそんな演技しかできない自分に歯痒さを感じていたし男役が少ないという
のも自分のモラルに反していて演技にはやりがいを感じなくなっており脱力していた。今思えばそのやる気の無い態度がうまく、か弱い女役を演じ
られていた原因だったのかもしれない。
そんな私は演技の方でわなく脚本の方へ興味が湧いていた。私が演じている物語の脚本家とは友人でいつも彼にどういう話を作ろうかと
相談受けていた。友人曰く私のセンスは素晴らしく自分が想像もできない話を振ってくれる事を糧に筆がノると息まいていた。
試しに自分で書いてみてわどうだ?と友人に誘われ書いた脚本の舞台演劇は連日満員御礼という快挙を成し遂げ
私は、自分の話がヒットしている事よりも私の話をここまで理解されていることに大変喜びを感じた。もっと色んな沢山の話が書いてみたいと
その時演じていた名前を入れ。 紫陽花 翔という名前で小説家になった。
小説家になってからわ自分で作った物語の登場人を演じその行動、心情、感覚をそのまま文章にするというスタイルで執筆している。
いつもは担当編集だけを観客に自分の物語を自分で演じてきたが。
それ以外の相手とは舞台を降りたあの日以来だ。
主人公は容姿にコンプレックスを抱いていて男に飽きられ孤独を感じている。
寂しく哀れな自分をだれかに理解して欲しい私を認識してくれればそれだけでいい…こんな私を見て欲しい。
私は紫陽花の群れから1輪摘み取り地面にへたり込みながらも上半身を起こして花を自分自身に見立ててゆっくりと振り返る。
「あなたにはこの花、どう見えますか?」
そう、問いかけると突然雨が降りだし空気に間が空いた
「大ジョブそっすね頭以外、それじゃ。」
真顔で言い返されたと思ったら私の前からそそくさと去ってゆく
「ま、まって!」
ここで逃がしてしまったら物語が終わってしまう。それはなんとしても避せねばと素材となるこの人の腰にがしっと必死にしがみついた
「なんだお前?!離せ!!」
「ひ、人に追われてるんだ!少しの間だけでいい匿ってはもえないだろうか?」
「は?知るか、匿ってほしいなら警察かなんかにでも行けよ」
「…警察じゃ駄目なんだ」
叩きつけるような雨の中正直もう演技でもなんでもない。とにかく捕まえた。
このチャンスにすがり原稿真っ白という現状打破をしたいという強い信念のもと、私のこの危機的状況から身体は強張り必死に彼にしがみつく。
しばらく沈黙が続きその間はほんの数秒だが素材の姿をやっとはっきり認識できた
私とさほど変わらない身長で濃い赤髪短髪が雨に打ち付けられていて、髪が額やこめかみに張り付いて乱れている。怪訝な顔で私を見おろして
いて睨みを利かせているんだろう、その顔はどこか引きつっていてたがそのするどい眼光や凛々しい眉を見て男らしさを感じた。
そんな容姿にスカジャンGパンというラフな恰好をしている彼はまさしくTHE・青年という感じでしがみ付いている私を暴行しないということは不良っ
てわけでもないのでわないかと思う。
耳には銀のピアスが光り胸の刺繍には蓮の花が描かれていた
「…わかったから、ちょっと離れて」
口が開いたと思ったらそんなような事を言われたので素直に手を離した瞬間
「逃げるが勝ち!」
「あ!!」
案の定逃げられてしまった。ドサッと彼が持っていた鞄が私の目の前に落ちる
走り出した瞬間腕から滑り落ちたんだろうか小さいボストンバックの様だった。
私わ、その鞄を抱え彼の後を全力で追いかけた。
****
四年同棲していた彼女にフラれた。
金遣い荒くて仲間とちょっとセコいことしてカネ稼いでたらサツにバレて1年ちょっとムショ入りしてた。
その間も懸命に面会きてくれて励ましてくれててさ、高校の時から付き合ってた彼女何だけどムショ出て速効プロポーズしてさお前の為頑張るって
本気で思って伝えたわけ
そしたら私もって言ってくれてすっげー嬉しかった。抱きしめながら泣いたしムショ前で。
それから彼女の金でアパート借りて一緒住みはじめて四年、フラれた。
あっさり別れたふつーに俺に飽きて男つくって出ていった。
浮気はしたくないからごめんって律儀に男の写メ見せてきたそいつはそりゃもう俺と真反対な公務員様で理由は安定しない生活に疲れたんだと。
安定してる生活ってなんだよそれなりの収入があって3食うまいメシ食えてベットで寝て日曜日にはお出掛けとかそんなん?
俺なりに頑張ってたつもりだった一応職にもついたし収入少ないくせにスロットとかパチンコですったりするから貯金とかないけどそれでも仕事で
疲れても彼女と一緒にいる時間ふやしたりさ、でもそれがうざいんだってならもうしかたねーよな。俺の愛より金になびいたあいつは悪くない
俺だってこんなろくでなしが彼氏とか絶対無いわカッコいい金持ち探すわ
でも俺には愛くらいしかあげられるものなかったからさ
でもそれも拒まれたらもうおしまいだよな。
彼女が出て行ったのは1ヶ月前電話があったのは昨日
部屋をかたずけておけ一週間後荷物を取りにいく部屋ひきはらうなら言って家賃はもう払わないから
俺はここに残るそう返答すると電話はぶちっと音を立てて切れた
溜息をつくとまだ彼女と俺のモノで散乱し溢れかえっている空間で、彼女の残り香が鼻をかすめると部屋の真ん中で転がり咽び泣いた。
「いい趣味なさってますねー…」
だが、なぜか今わ部屋の真ん中には見知らぬ男が座っている。
そいつは、いつも彼女が座っていた俺と向かいあって座れる特等席に風呂上りの格好でハート型のクッションを揉みながら居座っている。
逃げ切れなかった。急にぶつかって来たと思ったらしがみかれて正直きもくて手出せなかったんだが全力で逃げた拍子に全財産入ってる
鞄落としてそれでも逃げたが余裕で追いつかれた
んで、仕方なく鞄と引き換えにほんの少しの間この見ず知らずの怪しさ満点な男を匿うことになった。
「それ、元カノの物。服乾いたら出ていって下さいよ。」
「嫌よ。」
「はぁ?」
タバコを吹かしながらそいつに目をやると元カノが使っていたヘアアイロンを片手でかちかちと、もてあそんでいた。
その手首にわ見たことのあるブランドマークが小さくポイントされた小柄な腕時計が光っていた。
サイズと色合いからして女物だろうか…この男からはじめて金目の物を伺えたそして俺の悪い癖がその時計から目をそらさず口からでた。
「…なあ、だったら勝負しないか?」
「勝負、ですか?」
「ああ、ちょっとした賭けしようぜ。あんたが勝ったらいくらでもここに居すわってもらって構わねえ
だが俺が勝ったらまあ迷惑料として金目のもの例えばその腕に付けてるやつとか置いて速やかに出ていってもらういいな?」
「これを?はあ、なるほど…いいでしょう。負けませんよー」
まあ半分脅しに近いが、なんかそれくらい言わないと出ていきそうにないような気がしたから。
それにこんな幸薄そうなもやし野郎なんかに負ける気がしなかったのもある。得意のインチキゲームで負かすと思ってはじめた結果は
全敗。
「なんでだ?!」
「私の勝ちですね、でわしばらくの間ここにお世話になります」
「チッ…くそ、嗚呼、わかった!けど一週間だけだからな!その代わりまた面倒起こすようなら速攻出ていってもらうから」
「はい、あ、私がここにいる事は他言無用でお願いします」
「ああ、誰にも言わねーよ」
「それと、迷惑料にと賭けていた時計ですがよかったら差し上げます。事情はお互い暗黙の了解ということで」
目が合うとおやすみなさいという言葉を投げかけられ
男はのそりと押入れの奥に身を隠した。部屋わ狭く男二人で寝るにはきついと勝負の前に話していたのを思い出した。
「よっしゃああ!」
喜びのあまり出た声を慌てて塞ぎ、勝者の景品といわんばかりに散らかった机にトランプがちらばっているその上で、一際輝きを放っているそれを手にした。
何桁になるだろうかと換金する自分が脳裏に浮かびながらもよだれがでてくる。
その反面これからあの得体の知れない男としばらく同居しなければならないという事実も頭に浮く。
「うーん…」
この高価なものを与えた見返りに何をされるかわからない、闇金や利子の怖さを知っている俺はその時計を大事にハンカチでつつみジップロック
に入れ煎餅の箱缶に入れ厳重に台所の下収納奥へとしまった。
同居3日目。
時間が経てばこいつがいる事にも慣れた。正体、職業、は話せないそうで身元不明のぼさぼさ頭で不健康体なのか肌は白く目元は青い。
年齢は俺と同じ位か、半日は押入れから出てこない。が、俺が仕事から帰ってくれば手料理を勝手に食材(自費)で買ってきては料理をし振舞ってくる。
正直、元カノの手料理よりオイシイ。ただ元カノが使っていたフリルエプロン借りて使っているあいつの姿はいただけない。なんか女みたいな素振りしてくるしきしょい。
笑っているときもくすくすと口元を両手で隠して小さく笑うなんでそんな笑い方すんだって聞いたら自分の笑い方がコンプレックスなのだといった。
互いに暇してる事が少なくあいつはこもってばかりだけど部屋のかたずけも少しずつだけど手伝ってもらっている。まあそれでも生活してれば勝手に散らかるんだけど。
この前部屋においてあるギャル系のファッション誌を読みながらなんかメモとかしてた、まさか女装癖あるとかじゃないよな?
そうだったらとんでもない変態を家に入れてしまったことになるがそこはただの俺の行き過ぎた被害妄想だと信じ目をつぶった。
風呂上りは人格がかわったような、というよりはなんかのモノマネをしてるかのように勇ましいしゃべり方で絡んでくるもやし野郎かと思ったけど
程よく筋肉もついているようだったなんかスポーツでもやっていたのかと聞くと
「愚問よの、俺はただの演技派な舞踏家さ!だっははは貴様もさっさと風呂入れ冷めるぞ?」
と、ワケわかんないこと言い出してうざいのでもう話しかけるのをやめた。
漫画を読んでいる時に突然泣き出したかと思えば漫画に出てくる脇役の台詞を叫びはじめた。
感情移入激しくて真似したくなっちゃうイタイタイプの人なんだなと思った。じゃあいままでの変な行動は漫画のキャラクターかなんかの真似だったのかと勝手に理解する。
まあ、それ俺の好きな漫画だし好きな作品だし共感はできるし情熱も伝わってくる。まあ泣けるよなあのシーン
「ふぁあ、私は眠りにつくぞ中尉」
「フッ…そのキャラ、まだ漫画のテイションなのかよ飽きねえな」
「ああ、良い作品であった。」
「ふーん、そうかよ」
「おやすみなさいである。」
「ん、おやすみ大佐」
短くなったタバコを灰皿に押し消して照明を落とす。物が散乱した床の上の散らばったモノを退けて寝るスペースを作り
布団を敷き入った。押入れの方を見る、かすかに物音がする。あの顔だどうせ今日も遅くまで起きているんだろう
なにも知らない相手を、知りたいと思うのきっかけってなんだろうか。
それなりに好意あってこそなのだろうかと、疑問に思うとまだ何も知らなかった彼女と出会った時の事を思い出しながら押入れのほうを見つめる。
知りたい事が沢山あった。ケー番、好きなタイプ、彼氏の有無とか色々、会ってすぐ聞き出してたな。
それにくらべて、あいつの事は3日たった今でも何も名前さえ知らずにへーきで過ごしているし特に知りたいと思わない。
まあ赤の他人だし男だし聞いてもしゃーないだろ。あと少しもしたら出て行くんだろうしな……。
そんなことを頭の中で言いながら脳内は彼女との思い出事でいっぱいになった苦しくなってきた
胸を抑えつつ無理やりに目をつぶりあきらめ切れていない未練たらしな自分に嫌悪した。こんなに想う人はもう戻ってこない確証されている。
「そっちにはもう戻らないから。」これが彼女が送られたメールの最後の文章だから。
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フード付きロングコートは軽く薄い生地で裏地は好きな紫色。ポリエステル100%で撥水製のいい優れもの梅雨にぴったりの服である。
この服には沢山の内ポケットが付属している。たとえばこんな小型ノートPCとか文庫本やハードカバーの本なんかも楽々に収まる。
狭い押入れの中でパソコンの光が私をまぶしく照らし小さくタイピング音を響かせる
まずは、PCを無線でネットに繋ぐとネットを開いたどうやら私の居どころはまだ誰にも知られていないらしい。
とにかく何時も通り、脳内で演じていた主人公と素材の反応を物語りに合うよう調整をかけながら原稿に書き出していく彼のおかげでここ数日筆がすらすら動く
まるで監禁され締め切りが迫っていることなんて嘘だったかのようにすらすらと
ひと区切りつくと休息にと手は本の方へ向かってしまう。
【絡まる指と蜜】 紫陽花 翔
官能小説のデビュー作だ。推理ものからまさかのジャンル変更に読者から驚愕されながらもかなりの反響を得られた
この作品で私の名前は売れたといってもいいくらいか。
これは、女子高校生が援助交際相手に本気で恋をし葛藤しながらも純粋に相手を想い合い紛い物の愛欲に溺れてしまう そんなお話。
主人公である女子高生の相手は中年男性のサラリーマン、妻子持ち、娘は女子高生と同い年で、オチを言ってしまえば
父親のエンコウを知った娘が父親を殺そうとするが、主人公がそれをかばい死亡してしまう。死体を遠くの山に埋め数年後
死んだ主人公の妹が高校生に進学した。死体は未だ発見されず、エンコウしていた父親の家族は誰に罪を囚われることなく悠々と日々を過ごしていた。
そんな時、そんな父親の前に数年前、あの時恋に落ちたセーラー服のあの子にそっくりな人が通り過ぎるのを見て不敵の笑みを浮かべ そこで物語りは終わる。
これを書こうと決めたとき。援助交際なんて経験は当然無いわけで知識が無いものは演じられないし想像も知りえないと
出会いサイトを漁り実際に援助交際してみようと試みたが担当さんに全力でたこ殴りにされながら止められた。
そんな時にもらった資料はまさにエンコウもののAVやJKの実体験などが書かれている実録本やエロ雑誌漫画 ネット検索にまでかけ
実際エンコウ体験のある元女子高生や中年男性に取材を撮りに行ったりと忙しかったのを覚えている。
疲労感が増し追い込まれている時ほど、焦燥感から性欲は膨れ上がり自慰行為は辞さなかった。
そんなことを思い出しながら本をめくっては襖の隔てた向こう側から聞こえてくる、いびきと本の内容とその時に得た知識と主人公の思考が混ざって
自分の奥底が熱くなった。
「….はぁっ」
こんなときも主人公の目線は欠かさない。好みの人を目の前にしても実際興奮しているのは私の演じている主人公で
私自身は、本に関わる全ての人を素材としか見ていないのでそこに私の感情はなく自慰行為も主人公の気持ちを理解するためのステータスとして行っている
小説を片手で持ち利き手で膨れ上がったそれを慰めるように撫でる
今頭の中で書いている文章はこうだ
熱くなる体をよじり興奮を紛わせながら彼の寝ている隣で股を摺り寄せると湿っている感覚が内股に伝わった
「んっ…..」
夫は今頃、血眼で私を探している着信が夫の名前で埋まっているだけで優越感を得た
夫の知らない男の背中を見ながら私は興奮してあなた以外で致してしまいそうですと実況メールでも送りつけてやろうかと
考えそれを見た夫の表情が歪むのを想像してわ肌が上気し息が上がった。
彼は、私を嫌々ながらも受け入れつつある少しずつ私を知って欲しい私はあなたを後ろからずっと見てきた
今度はあなたから私を理解して前から見つめていて離さないで
受け入れて
甘い声が口から漏れては口を塞ぐが絶頂に近くどうしても抑えきれない声は卑猥に空気を震わせた。
「あ….くっ」
果てた瞬間思考は止まり脳はスパークする。少し休憩をし息を整えるとすぐさま脳内で打ち込んだ文章をそのまま原稿に写した。
気がつくと、もう夜明けなってる事はざらにある。
襖を明けると淡い光が薄く広がり部屋の輪郭をぼんやり浮かべた。
「6時か、そろそろ支度を…..ん?」
初めて家に上がったときはそこかしこにインスタント類が転がっていた。かろうじて本の知識で知った
簡単な料理だが私が作ってあげようと主人公の主婦になりきり食材を買いこんでは毎日3食作っている。
「……..泣いている」
ふと素材の顔を見てみると、仰向けで大の字なのだが左手は胸の上に力なく置かれていて眉間にしわを寄せ
静かな寝息を立てているかと思いきや閉じているまぶたからは濡れて光っている雫の筋が頬に伝っていた。
虎宮蓮介、とび職、年下、賭博屋、恋人なし。
今のところこの素材の情報はこれくらいしか知らない。
部屋の感じからして長く同棲していたのだろう。まだ彼の傷は深いようだ。
こんな彼を見て主人公はどう思うのかな?私の好奇心は主人公の彼女に委ねられた。
寝ている彼の額に指先を触れさせ眉間のしわをゆっくり親指でさする
そのまま手のひらを濡れている頬にスライドさせ優しく撫でる。
「….大丈夫、もう大丈夫」
すると、私が触れている手にすり寄るように素材の顔が左右に揺れた
「……….んっ…….アキ」
アキ?元彼女の名前だろうか、素材の顔は安堵したのか優しく幼い顔つきになった。
触れている手を離し視界を広げると彼の吸っていた吸殻が灰皿にたまっているのが目に入る
そこから一本拝借しもう半分しか減っていないそれに火をつけると浅く吸った。
疲れた体には魅惑的な感覚で考えて硬くなっていた頭や体の中がほぐれていくようで
苦い煙の匂いを鼻腔に通すだけで高揚感溢れた。
「….お気の毒に。」
彼の寝顔を見ながら出た言葉は紛れもなく私自身の言葉であり本音であり直感的に思った感想だった。
****
インターホンが鳴り響くと同時に目が覚めた。
何度も鳴らされるので何事かとドアを開けるとそこは大家さんが居た。また家賃催促かと思いきやちょっとした注意を受けた
「盛りのついた猫のような声が聞こえると隣人から苦情がきている」
と、このアパートはペット禁止だし猫なんて飼う余裕もないと伝えるとあっさりその場は注意だけで済んだ。
確かに、拾ってきた居候はいるが押入れにいる間はとくに何も言葉を発したところは聞いたことが無い。
「俺が寝ている間に、何かしているのか?」
そんな事を思ったことすら忘れて、夜はさっさと寝てしまう俺だった。
「ぐおー…..」
ガタンッ
「んがっ」
夜中。何かの物音によって目が覚めてしまった。
「何だ?….あいつが居る方から聞こえたような……」
カタッ
また、襖がさっきよりは少し小さく音を立てて揺れた。
「何だ?なにしてんだあいつ?」
部屋の電気をつけ
そっと押入れの方に近づき耳を当てると
荒い息づかいの中にかすかに女のような喘ぎ声が聞こえた
まさかと、思い襖に手をかけ思い切り開けるとスパンッと限界まで開いた瞬間中で籠っていた声がクリアになり
「んっあぁっ! 」
押し入れの中で全裸の男が一人、腹を白い液で汚していた
ばさっ
何かが床の上に落下した
驚く間もなく手に取り拾い上げて見ると
本のようだった
「ナニこれ….」
「か、官脳小説です。それは紫陽花 翔
先生のデビュー作品で、今わ官能ものしか持ち合わせていませんが、他にも恋愛、ホラー、推理物など様々なジャンルを色々と出していまして」
「人ん家の押し入れで…..何勝手に全裸で抜いてんだ!!」
「ぐふっ!」
持っていたハードカバーのエロ小説をこいつの頬にフルスイングし見事にヒットした ばちんっという皮膚が平たい物に強打する鈍い音が耳に心地よかった。
「…いってて……あははっ…..すみま、せん。読んでいたらつい興奮してしまいました。」
自傷的な笑みを浮かべたと思ったら目元のシワが目立った一際クマを深くしているようだった
そして思春期のクソ餓鬼みたいな中身のない言訳され尚更、腹立つというか呆れる。
「ひっでぇ顔、ヌかなきゃ寝れないってなら、しょーがねぇから許してやる。ただし、声出すな気色ワリーから。な?」
「…..へ?あ、はい。…..わかり、ました。気を付けます。」
「じゃあ、俺もっかい寝るから、お前も静かにぐっすり寝ろよ」
「えっ….でも」
「でも、なんだよ。まだヤリ足らないってか?ん?」
「おはよう、ございます。」
「は?」
何言ってんだと思ったらテレビ上に置いてあるダサいハート形の小さいデジタル時計を見ると06:05と表示されていた。
「….お、……..おはよう。」
何気ない挨拶をすると無言で出勤の準備し無言で家を出た。
「…..あいつ、まじで追い出すか。でもなー、飯代とか正直いろいろ助かってんだよなー、なんかもう、おうち帰りたくない」
正直最初は、全力で引いた。でもなんか顔見た瞬間あーこいつにとってはもうしょうがないことなんじゃないかと思って呆れたと同時に同情したっていうの?
人に追われてて、毎日眠れなくて、アホみたいに情緒不安定だしな。でも毎日うぜえくらい挨拶欠かさないし料理してる時、超真剣だし、根は真面目なんだろう。
そりゃー色々溜まるのか。文章読んだだけでイけるってすげーなって逆に感心したし
頭ちんちくりんで何考えてるかわかんねーけど
別に悪いやつじゃねーしなぁ….時計くれたし、まだびびって換金してないけど
仕事帰りにぐちゃぐちゃ考えてると、近くに小さい本屋が目に入った。
昨日、あいつがなんか色々言っていていたなと思い出し少し寄ってみることにした。
「あじ、さい…アジサイ…紫陽花、あ、これか。」
あいつが読んでいた小説作家の名前をきまぐれにも覚えていたので本棚の前を歩きながらそれらしい名前を指で辿ると発見した。
「ふーん、本当にエロ以外も書いてんだ…ラブコメ?」
手に取りパラパラめくっても字が連なってあるだけで内容は把握できない。
普段漫画しか読まないし、小説の表紙が少年漫画のような絵でかっこよかったので手にとって見た。
読んでいる途中に飽きて寝てしまわないか不安だが試しに一冊買って休日にでも暇潰しに読んでみることにした。
【fantastic ★destiny】 紫陽花 翔
王道の学園ラブコメなのだがなんせヒロインが主人公よりバカみたいに勇ましく強い。
逆に主人公は病弱でひ弱な少年でそいつに片想いをしているヒロインは全力で主人公をあらゆる外敵守っていた。
喧嘩バトルなどもあったりして熱い展開の中あまずっぱい恋愛もようも描かれていたり度胸と根性が座ったヒロインが敵に囚われた主人公を助けるべく
女子力と同時に戦闘力もあげて色濃い敵と戦い時には絆を深めたりと面白要素が満載だった
読み進めて、もう3時間はたっただろうか 今だ手はとまらずページをめくっている。
「あ!それは….紫陽花 翔の学園恋愛もの、購入したんですか?」
寝転がりながら本を掲げている姿勢で少し本をずらすと頭上に居候の顔が見えた。
「お、なんだ居たのか。最初はどんなもんかと思ったんだけどよ、ふつーに面白いなこれ。」
「え?」
まだ、半分しか読み進めていないがこのあとの気になる展開予測と面白いシーンをいくつか話始めると
居候も話に共感したのか熱くなり小説の中のキャラクターと同じ仕草をとっては台詞を真似てわ
いつのまにか顔が近い。
不意に顔をそらすと楽しそうに話すアホ面が残像に浮かび吹き出してしまう。
「ぶふっ…へんな顔すんな、おもしれーから」
「….す、みません」
「はぁ、なあ。お前いつまでここに居んの?出ていくなら、早めに言ってくれ」
「…..はい、わかりました。」
そう言うと、読み進めたページにしおり代わりにとそのへんに転がっていた紙切れを挟み本を閉じた。
これ以上、あいつに関心を持ちたくなかった。
突然降りかかった災難、面倒ごとで、何も知らないのに普通に一緒に過ごせていて、趣味の好みも同じなんだ。
それにあいつが傍にいることで一人で居るよりは気が紛れて退屈しないので過去を振り返る暇も後悔する暇もないつか….
まあそんなのは今だけでまた一人になればまた落ち込み始めるんだと思う。
とにかく、あいつを自分の心の拠り所にしてしまわないよう情が深まらない内に信用してしまわぬ内に他人のまま早くここから去って行って欲しかった。
人恋しい奴の意地なんてもろくて意思なんて弱い。
どんなやつも一緒にいて自分が寂しいと嫌いだと退屈だと孤独だと思わなければ基本誰と居てもそれだけで満足してしまう
だから人は平気で裏切るし簡単に信用する。そこに利益を見出すならそれは大人だろう。
でも、知るたび共に過ごす時間も増えれば自然と感情も深まるそのたびそいつとの記憶と知識は頭に刻まれる
だから、どうでもいいやつの事で頭をいっぱいにしたくなかった。
「くっ….あっ…んっ」
深夜、3時。
「寝付けないでいたら、おっぱじまりやがったー!!(小声)」
布団を被ると蒸し暑くてしぬので耳を塞いで押入れに背を向け寝転がるがその聞こえてくる嬌声は余裕で指の隙間から滑り込み鼓膜に届く。
盛りのついた猫まさにそんな感じのような泣き声で何の前触れもなく開始された。
おやすみと寝る前の挨拶を交わした3時間前までわ普通な態度で普通に顔を合わせていた相手が
今、隣で息をあげて自分を慰めている。俺にその声を聞かれているとも知らずに、薄闇の中、襖越しからこもった喘ぎ声が聞こえるたび頭でわ聴かない様にしようとしていても
全神経は耳や背中に集中していて鳥肌が立っていた。
また、エロ小説を読みながらしているのだろうか…全裸で。あの時はいきなりおれが襖を開けたから驚いた顔していたけど、今わ…どんな顔しているのか。あまり、想像がつかない
いつもへらへらしていて表情も豊かな方だなと思って見ていたが
今聞こえている声とあいつの顔が一致しない。
声だけ聞いているとやはりそれは女の悲鳴ようで、自分の雄の部分がその声に少しずつ反応していく。
理性は違うと言っていても腹底からじわじわとせり上がってくる熱には逆らえなかった。
「…くそ、ちげーって」
女の声というワードにイコールしたのは元恋人の顔だった。
まだ、覚えている感覚も感触も彼女の熱も顔も声も忘られるものなら忘れたい今の俺にはそんな記憶でさえ苦しみでしか無い。
せっかく塞がりつつあるかさぶたが痒くなり自らかきむしって結果また痛みが走り血が滲んだ。
そんな喪失感と胸の痛みによって少し腹の熱が治まった。
外から、しとしと雨の音が聞こえ始めた。俺はその雨の音に耳の注意を向け無理矢理目をつぶる。
「……大丈夫よ大丈夫」
静かな雨音の中に交じって脳内に声が聞こえた
ああ、前にもこんな夢を見た気がする。胸が引き裂かれそうに痛くてそれを癒してくれるみたいに優しい声で慰めるように頬を撫でられた優しい感触だった。
「ああぁっ!!」ガタガタッ
けたたましく襖が揺れる物音に目を覚ました。
「…おわったのか?、ッんの野郎、襖壊れるわ」
これはさすがに一言、言わなきゃ気が済まないと半分脱力しながらも一服おいてから押入に向かい襖に手をかける。
「ひッ」
ゆっくり10センチほど開けると情けない声が小さく聞こえた。
顔は見えない。もう10センチほど開けてそこにティッシュ箱を突っ込んだ。
「…あのなぁ、もうちょい、声抑えろ、うるさい。」
「す、すみません!」
震えた声で返事が返ってきたが姿は見せない。
少し除いてみると指先だけ見えた。薄闇でも少し濡れてテカっているのがわかった。
うわあ、見なくていいもの見てしまったと思ったかが、むしろどきりとしてしまった。
もう、知ったことか。と布団に戻ろうと思った瞬間、声をかけられる。
「…あ、あの、その、…..ありがとう。」
今、御礼のような言葉が聞こえた気がするのだが気のせいか。
少し振り返るともう襖は閉じられいた。
放心し口にくわえていたタバコを指ではさみ口から離すとその場にヘタリこんだ。
しゃがんだ際自分のソコが熱く滾っているのをみて深く深くため息をついた。
顔を片手で覆い隠しがくりと首を落とす。
「はぁあ….勃った。」
あいつが女みたいな声だすから。そう思った
いや違う、こんなことになった要因は最後の決め手のあいつがさっき漏らした言葉にやられた
言い方がやばかった、切羽詰った感じでかすれ声でいつもの敬語じゃねーし
ありがとうってなんだよ。
「意味わかんねえ。」
あんな奴相手にいきり立った俺も相当キテるなとげんなりし便所で処理をしてその晩はやり過ごした。
後輩に彼女ができてたのを思い出しその彼女つてに女でも紹介してもらうかと考えたが
やはり、もうしばらく、女と付き合うのはやめておきたい。
****
今朝は、曇天が広がり、少し強めの雨が地面や窓を叩いていた。
私は、いつものように彼のお弁当を用意する。
玄関の方まで見送ると彼の様子を伺う
「少し、顔色悪いですね?大丈夫ですか?」
そういいながら彼が靴を履き終えたと同時に彼の鞄を差し出した。
「誰かさんの、喘ぎ声のおかげで寝不足なんで大丈夫じゃないっす」
ぎくりと肩をすくめ、顔が茹で上がるような熱を感じていると急に顔を覗き込まれる。
耐えかねず目をそらしとにかく口を動かした。
「そ、それは….ご、ごめんなさい…き、気をつけて行ってきて下さい。」
「フッ…..ん、行ってくる」
少し、笑われたような気がした。
彼が仕事に向かいドアが閉まると部屋には私一人、外で降り続いている雨音だけが静かに響いていた。
【肉欲と哀情】 紫陽花 翔
昨晩、読んでいた本だ。官能物の2作目である。
内容は、なんだったか…..あ、そうだ、小学校の女教師が家庭訪問先の生徒の父親に手を出して一晩の過ちを犯してしまうというそんな話だったような気がする。
ああ、そうそう、思い出した。生徒の父親は最終的に女教師と駆け落ちするがその旅先で病により命を落としてしまう。
数年後、その父親の息子であった元生徒でもある青年が女教師の前に現れ告白を受ける大きくなった青年はあのとき愛していた父親に似ていて
女教師はまた昔のような過ちを犯してしまうのだった。
この本を書いた時は、実際に私が小学生の時に恋をしていた女教師がいて私の父親といちゃいちゃ話をしていたという実体験を元にし話を膨らまして執筆をした。
執筆時は、もちろん主人公の女教師目線で感性を高め書いていたが私も男であり女教師に恋をしていたという事実を元に書いているので
女教師に恋をする父親と息子目線の方が繊細に書かれている。
書いているときも小学校の卒アルを引っ張り出してはもんもんとしていた危ない時期があったが。
昨晩は、あまり筆が進まず。なんというか、その。私は、完全に女教師というか女になりきっていた。
父親と息子役は、虎宮蓮介の姿に置き換え本を読み進めているうちに興奮していた。
今、書き進めている官能物の素材でもある彼なので容易に想像できた。
最初に、押入れを無理やりこじ開けられた時にはびっくりしたが
2回目は、期待さえしていた。
小説のシーンで二度目の家庭訪問の際、父親と女教師が息子の遊んでいる部屋の隣で情事に挑みその様子を部屋の隙間から覗き込んでしまう息子という場面があるのだが
私が押入れにいて隣には人が居るという状況は小説の内容とあまり大差なく相まって欲情をさらに掻き立てられた。
これでこの間のように襖を開けてくれれば完璧だ。
この間のように、という言葉が何か頭に引っかかった。
「最初はどんなもんかと思ったんだけどよ、ふつーに面白いなこれ。」
私の小説を購入し読んでいた、虎宮蓮介を思い出した。
あれには、驚いた。彼には私の素性を教えていない。彼には私が紫陽花 翔のファンであるような素振りを見せてその場をしのいだ。
優秀な編集担当さんは今、ネットやSNSを使い私を探し回っている。私もずっとこの押入れにこもっているわけではない
料理をするための食材を近くのスーパーに買いに行ったりとちょっとした外出をしているのだが変装はしていないため徐々にこの場所の辺りにも担当さんの手が回っている。
その時の通行人やらにも情報を聞き出しているらしい。もうすぐこの場所も嗅ぎ付けるに違いない。
だから、彼の前でもその小説の作者の熱狂的ファンだと演じ共感を得ていた。
正直、すごく嬉しかった。
私の存在は、理解されなくとも、私の作品がザ・一般人である彼にも理解されたのだと。私は胸を躍らせた。
私の読者はマイナー層が基本多い。ファンレターやアンケートなど少し歪んだ思考の持ち主が多く見られるそれでも私はその内容を寛容に理解し把握するのだが。
あんな、普通の感想を頂いたのは。初めてだった。さらに言うと、直接、読者と向かい合って感想を言われるのもはじめてであった。
いつもの、紙や画面越しの意見ではなく。純粋で単純なあの一言が私の心を奮わせた。
なにより、楽しそうに私の書いた話を私に笑顔で聞かせてくれたあの顔が今でも忘れられない。
そんな事もあり昨晩は、慣れていない環境や執筆量をこなしながら主人公や自分のファンを演じ時間や編集に追い詰められ結構疲労していた。
精神負担を抱えた体は快楽を与えようと性欲の部分を際立たせる。
小説の内容と素材の顔と虎宮蓮介の言葉が交互に浮かぶ。
どうして、私の本に興味を示したのか、どうしてこんな見ず知らずの私を匿ってくれたんだろうか、どうして私が居るとき意外は寂しそうなのか
そんな事を考えていると、たちまち小説の主人公は私の姿に成り代わり虎宮蓮介に犯されていた。
「……思ったより、沢山、出てしまった。…………………..ひっ」
襖がゆっくり開くと虎宮蓮介の声がしてその隙間からティシュ箱が渡された
少し驚きながらそれを受け取り数秒、慌ててお礼の言葉を言うと襖を閉めた。
「ん?」
散らかったテーブルを見ると 四角く布に包まれて結び目の端がぴんっとウサ耳のように立っている。
「お弁当、忘れている。」
というより、私が渡し逃した方が正しいか。私が勝手に好意で作っているので渡せば普通に受け取ってくれるがいらない時はいらないと言ってくる。
「…..渡しに、行こうか。」
つづく
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