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いつか来るその日まで

 ボクサーパンツを下げられると、反り返ったものが飛び出した。その下にある袋を口に含み舐め回し、溢れる唾液を見せつけるように垂らしながら、竿の部分を舐め上げられる。  物理的な刺激も勿論のこと、俺は豪の表情に釘付けになり、視覚的な刺激だけでもうノックアウトされてしまう。  抑えきれない吐息がこぼれる。  こんなこと、いつまで続けたって無意味なのに。  欲しいのは、豪の心だ。俺だけを恋い慕ってくれる気持ちが欲しい。  いつだって綺麗な女性を隣に歩いて、自慰なんて必要のない生活を送っているこいつに、男の恋人なんて要らない。  解ってる。よく解ってる。ずっと傍にいた俺自身が誰より知っている。  だからこそ、もう二度と会えなくなってもいい覚悟で気持ちを伝えたんだ。なのに。  深く咥内に迎え入れられて舌を絡めて吸われ、もう弾けそうだ。荒くなる呼吸を確認するように、艶めいた眼差しがずっと俺の顔から離れない。  絶頂が来る。そのタイミングで、ぴたりと豪が動きを止めた。 「っは……ご、う」  意志に反して腰を押しつけるような動きをしてしまう俺を見上げて、豪の表情は誇らしげだ。 「琉真、その気になっただろ」  当たり前だ。好きなんだ。どうやって誤魔化そうとしても、体は素直に反応してしまう。  口では突っぱねようとしても、流されてしまう。豪に迫られて、俺が勝てる筈がない。 「帰ったばっかで疲れてんだろ。俺が全部やるから」  ゆっくりと立ち上がった豪に誘われて、ふらふらとベッドに向かう。下げられていただけのボクサーパンツも足から抜かれて、素っ裸で仰向けに転がる。そこへ、自分も着衣を解いた豪が、ローション片手に跨って来た。  両手に広げたローションをまずは俺のものになすりつけると、滑りを確認する。くちゅくちゅとなぶられて、滲みだした先走りと混ざった液体が濁りながら垂れていく。併せてむくりと容積を増したそれに片手を添えたまま、もう片方の手は自分の背後に回した。 「ん……」  くぐもった声を漏らして、豪の手が蠢く。その白い指先がしているところは見えなくても、濡れた音に刺激されて俺の喉も鳴ってしまう。  はちきれそうに膨らんだ俺のペニスを細めた目がうっとりと見つめて、それからようやく待ち望んでいた瞬間がやってきた。  くるくると縁を先端でなぞり、口がほわりと緩むのを待って、ずぷんと豪の体が沈む。 「あ……」  少し喉を反らせて、唇が開く。殆ど一息に根本まで納めて、俺の下腹に豪の尻が乗る。体温の低いその部位が懐かしい。数ヶ月ぶりのその感触に酔いしれ、それ以上に屹立を包む柔で力強い内襞にもっていかれないように、懸命に堪える。 「久しぶり、琉真の」  俺以外のなら受け入れていたのかとぼんやりとした痛みを感じるが、今はそれもどうでもいい。豪の言葉に翻弄されていたら身が持たない。  ぐるりと腰を回してから、俺の腰骨に手を突いて、上下に動かし始める。笠の張った部分がいいところを掠める度に甘い声が落ちて、持って行かれそうになる。  豪がイイと、俺もイイ。  体だけしか繋がっていなくても、このひととき、シンクロしているという充足感。  ずっと、ずっと終わらないでいて欲しい――  けれど、溜まりに溜まった欲望をいつまでも抑えておけるはずもなく。  いつの間にか俺の方から豪の腰を支えて、がむしゃらに下から突き上げて達してしまっていた。 「あ……いい、いっぱいくれ」  その瞬間にはいつもいつも凄い締め付けが俺を離さない。最奥に突き入れたところを捕獲されて、洞窟から抜け出せなくなる。ぎゅうぎゅうに絞られる。蠕動する体内。最後の一滴まで出さないと緩んでもくれなくて、一発目なのにもうへろへろだ。 「りゅ、ま」  長い舌がもつれたかのように甘えた声で呼ばれる。とすんと胸の上に合わさってくる体温は低くて、汗に濡れた互いの肌がひたりと吸いつく。  重なる鼓動。  気持ちは重なることがなくても。 「豪」  艶やかな黒髪を撫でながらうなじに唇を寄せると、首を振って逃げていく。キスも、キスマークも嫌う豪。当然だな。俺たちは恋人同士じゃない。それなのに、誘いを掛ける時だけ、自分からしてくるんだ。俺には主導権も選択権もない。  欲しても、欲しても、手に入るのはカラダだけ。それだって全部じゃない。好きなようにはさせてくれない。ただ、豪の欲しがるものを与えるだけの、ひとときの快楽と悦楽を共有する相手でしかない。  ずっと傍にいて、喧嘩らしい喧嘩をしたことがない俺たちには、決定的な離別なんてないのかもしれない。  こうやって、気まぐれに訪れる豪とカラダを重ねて、ただ時だけが過ぎて。  どちらかが結婚すれば、終わる。  それでも、俺は――  いつかくるだろうその日まで、喉元まで上がって息が詰まるくらいの切なさを溜め込んだまま、ただ抱き続けていくしかないのか。

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