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第6話
「…… つうかあんた、生まれ変われば?ちゃんと自分の身体で、俺に触れよ」
『生まれ変わるって…… おまえいくつだよ?二十歳 くらいか?』
「23だよ。あんたがすぐに生まれ変わったとして、24歳差?18になったら、俺は42か…… まぁ、ナシじゃねぇけど、あんまアリでもねぇなそれ」
『気の遠くなるような話だな。しかもおっさんを抱く趣味はねぇ』
「…… じゃあさ、あんた、キリンに生まれ変わって俺を抱いてよ。俺、実はキリンが性癖なんだ」
『へぇ、それは全く意外だし全然気がつかなかったな』
男はキリンの背中の柄と俺が抜き出したベタベタのキリンディルドを交互に見ながらニヤニヤと笑った。
『キリンは…… 何歳から交尾できるんだ?』
「知らねえけど。でも動物だから、3歳くらいからいけんじゃねぇの?調べとくよ」
『青姦だな』
「いんじゃね。開放的で」
『はは、わかった。じゃあ、そうするよ。…… 会いに来いよ、サバンナに』
「もちろん。キリンとやんのが、子どもの頃からの夢なんだ、俺」
『そんな夢、間違っても文集に書くなよ。みんなドン引きだろ』
「書いてねぇよ、ばぁか」
俺が呆れて言うと、『そりゃ良かった』と男は笑う。それから少し優しい顔になって、俺の顔に手を伸ばしてきた。
『……ありがとう。じゃあな』
「…… バイバイ」
頬を撫でられたような、感じがして。
幽霊のやつは、この部屋からいなくなった。
関係ないかもしれないけど、なんとなく俺はカーテンと窓を開ける。相変わらず雨は降り続いていて、こんな中を飛んで行くんならちょっと悪いことしたかなって、あいつが昇っていったかもしれない曇り空を見上げた。
「サバンナ、か…… 」
「ナ〜〜オ」
キリンが鳴きながら、足元にすり寄ってきた。
甘えてきたのかと思って抱き上げたら、伸び上がったキリンにいきなり鼻を噛まれた。
「いってえぇ!」
仰け反った俺から跳びのき、キリンは鮮やかに着地。噛まれたのは俺なのに、じとっとした目で床から見つめてくる。
俺はため息をついて、とりあえずパンツを履いた。
「あのさあ、しょうがねぇだろ?ファ○リーズでもプラズマクラスターでもダメだったんだから、ああでも言ってお引き取り願うしかないっしょ?」
そう言っても、キリンの機嫌は直らない。心当たりがありすぎてどの部分に一番怒っているのかわからないが、やっぱりサバンナのとこかなって、俺は見当をつけた。
「だいたいおまえがさぁ、キリンじゃなくてキリン柄の猫に生まれ変わったのが悪いんだろ?」
流石にこの歳になってまで本当にキリンとどうこうできるとは思ってないけど、もし先に死んだらキリンに生まれ変わるから会いに来いなんて言ったのは誰だよ。
そんでホントに、俺をおいて逝ったのは誰だよ……
俺はこの時季が嫌いなんだ。
雨が降ってると、バイクのスリップする音が聞こえる気がすんだよ……
ちょうどその時、外から甲高い自転車のブレーキ音が聞こえて、俺は慌てて窓を閉めた。床に座り、ベッドにもたれてシーツに頭を預けると、キリンが膝に乗ってきた。
濡れた鼻先を、何度も何度も頬に擦りつけてくる。俺はその金色の背中を撫でた。
「…… 嘘だよ。ありがとう、そばにいてくれて。あの時おまえが来てくれなかったら俺、多分…… 後追ってたよ…… 」
ざらついた舌で唇の端を舐められ、苦笑した。
「だーらやめろって、ツナくせぇから」
俺は携帯を手に取り、雇い主である実の父親に電話をかけた。
「…… 親父?ああ、俺。今大丈夫?うん、終わったよ、除霊。振込、いつもの口座によろ。トラブル?あぁ、大丈夫。案外素直に行ってくれたよ。一応契約通りアフターケアであと3週間住ませてもらうけど…… もう戻って来ないと思うぜ?あぁ、了解。うん、元気にやってるよ…… 」
梅雨が明ければ、本格的に夏がやってくる。
今年も暑いんだろうな……
そう思ったら、俺の頭の中に、炎天下のサバンナを俺とキリンが歩いてるイメージが湧いてきて。
いや、ないわ……
とりあえず依頼完了の祝杯をあげよう。
俺はキリンを膝から下ろし、ビールを取りに冷蔵庫に向かった。
部屋の隅を通ると、一瞬だけ、あいつのキスと同じ煙草の匂いがした。
【了】
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