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第1話 「こわいのどっち」
*こわいのどっち
渉の一日は今日も幸せだった。
話したことも無い、名前だけを知っている。そんなクラスメイトの武内が、恋人である男に抱かれて喜ぶ渉の姿を、隠し撮りしていたと知るまでは。
「バラされたくなかったら分かるよな?」
それが脅しであると理解するのにどれだけの時間を要したことか。
ただただ頷くしかない渉の頭の中には、男女問わず人気があり、同じ学校に通う一つ年上の恋人を守ることでいっぱいだった。
こんなものが出回ってしまったら、渉も恋人も平穏から弾き出されてしまうだろう。
ざっと音を立てて体中から血の気が引いていく。
まるで世界の終わりのように、莫大な孤独に突き落とされ、思考を止めた渉を引き戻したのは、聞き慣れた男の悲鳴にも似た叫びだった。
「──なんで」
掠れた声音で零れ落ちた言葉を拾い、武内が嗤う。
「言うこと聞いたら解放してやるよ」
そう言った武内が目線を投げた先には、両手足を縛られて木にもたれかかっている恋人がいた。
猿轡を嵌められてくぐもった声で何かを叫ぶ恋人の姿に、渉は取り乱して元凶である武内に縋り付いた。
「やめてっ、なんでもするから、殺さないでっ、やだぁっ」
「殺す……? 大丈夫だって、オレもお前も楽しむだけだから」
「──え?」
縋り付いた渉の華奢な背中を抱きしめて、武内が粘つくような口調で言った。
涙を流す渉が、ゾッと身を襲った性的な嫌悪感に離れようと顔を上げた時だった。
制服のスラックスの上から、小ぶりなお尻を大きな手で包み込むように揉みしだかれる。
柔らかな肉は武内の乱暴な手つきに形を変えて、吸い付くようにその節くれだつ指を包んだ。
「な、なに……? なんで、や、やだ……っ」
「やめていいのか? 殺して欲しくないんだろ? それとも、お前だけ逃げて彼氏のこと見捨てるか?」
「〜ッ」
耳朶をぺちゃぺちゃと舐めながら、武内が囁く。
告げられた恐怖と、この先に待ち受ける悲劇に、渉はぎゅうっと瞼を閉じて打ち震えるしかなかった。
「……っ、ん……っぁ」
渉が諦めて大人しくなったと知るなり、武内は自分のモノだとでも言うかのように、怯えている体をまさぐる。
ベルトが緩まり、スラックスと下着が細い足を撫でるように滑り、地面に落ちた。
彼氏には顔を見せまいと、懸命に下を向き小さく喘いでいる姿に劣情を掻き立てられる。
渉の素肌は真っ白で、まるで闇の中で淡く発光しているかのように見え、一際美しい。
むっちりと吸い付く尻を夢中で揉みしだき、いやらしく、見せつけるように、尻の肉を両手で割り開いた。
縛られた彼氏の目には、くぱくぱと開閉するいやらしい穴が全て余すことなく見えただろう。
眦を赤く染めた彼氏は唸り、悔しそうに目を逸らした。
「お前のいやらしいところ、丸見えなようだぞ」
「っ! やだっ、やめてよ!」
「……うるせえ、黙ってお前は尻を犯されてりゃあいいんだよっ」
「うぐ、ァアッ」
暴れた渉の頬を、武内が叩く。
その衝撃によろめいた渉は後ろによろめき尻もちをついた。
起き上がろうとする渉の肩を靴のまま踏みつけて、武内は命じる。
「いいか、次、反抗したらお前じゃなくてあの男を殴る」
「〜っ、ぅぅ……ゆ、許して、くださいっ」
グリグリと踏み躙られるように肩を踏まれた渉は、泣き喘ぎながらその場で土下座をした。
何をされるか分からない。
生きて帰れるのかも分からない。
武内の目に宿る恐ろしいほどの醜悪な狂気に、渉は反抗する力を失った。
「あんっ、んっ! は、ぁッ、ぅ」
ガツガツと飢えた獣のように、四つん這いになった渉を、背後から武内が覆いかぶさり腰を振る。
誰も寄り付かない廃神社には、肌を打ち付ける音と水音に混じり渉の嬌声が響いていた。
「おら、ここがいいんだろうがよッ」
「ァァッ! んう、っふ、んっ」
「すげえな。オレのちんこの形に広がって、抜くと中が盛り上がってピンク色の中が丸見えだ。えっろいなお前のケツマンコ」
「ひ、ぃ、見な、ぃでえっ」
感じたくないと抗っても、教え込まれた体は快楽を拾ってしまう。
刺激に悶えて揺れる細い腰は、まるで続きを促すようだった。中で出された時に、これで開放されると思った。
だがそこからがこの狂った宴の始まりで、本当に開放される時が来るのかと、揺さぶられながら絶望を味わう。
ずっとこちらを見つめる彼氏の瞳は暗く淀み、地面には渉が達した証である白濁液がぶちまけられていた。
合わす顔がなくて目を逸らしても、武内がそれを許さない。
髪を鷲掴みにされ、無理矢理に彼氏の方へと顔を向かされる。
いやだと言えない代わりに、気持ちいいと言えと告げられた渉は、震える唇で口にした。
「んっぁん……! き、もちぃっから、もう、あっん」
「気持ちいいんだろ?」
「ぁッ、あっ、あっ! きもちぃっ、たけうちの、きもちぃ」
「そうか、じゃあお前の彼氏も混ぜてやらなきゃな」
「?!」
こくこくと頷いていた渉の目が大きく見開く。
泣いて赤く腫れた瞼が痙攣した。
「──ひっ、やぁ! ゃだ、やだっ、いやだよぉっ」
「あーあ、お約束破っちゃったな?」
「それだけはいやなのっ、ぁっ、あぅっ、やぁ」
ジタバタと暴れる渉の両膝の裏に、背後から手を回した武内が立ち上がる。
バックから駅弁へと体位を変えた状態で、あろう事か武内は、渉の尻を犯しながら彼氏の目前へと歩き出した。
「あんっ!」
歩く度に、より深いところを、太くて長いちんこが犯すのだ。
頭を振り乱して、哀願する姿に、加虐心が煽られる。
「あぁっ、先輩、見ないでぇッ」
ぐちゅっ、ぐちゅっと、頭上で響く淫猥な音。
彼氏の目前では赤黒いちんこが、小さな穴をこれでもかと拡げて出入りする光景が、繰り広げられていた。
そのちんこが奥へ奥へと押し進むと、M字に開脚することを強いられた渉の小さな性器が、ぷるんぷるんと震えて先走りを飛ばす。
ヒクヒクと収縮する穴が忙しなく蠢き、武内のちんこに吸い付いた時だった。
「──ァァッ!」
きゅうっとつま先を丸めて、武内の腕に爪を立てた渉は、下唇を噛み締めて絶頂する。
ビクンっ、ビクンっと、メスイキをした渉は視界を白く染める波が去るのを必死に耐えた。
喉を反らして真っ白な首元が露わになる。
ゴクリと上下する喉元が艶かしくて、つたい落ちる汗を、武内の赤い舌が舐めとった。
「……ゆるして、ごめんなさいっ」
その言葉は一体どちらに向けられたものなのだろうか。
呟いた本人でさえ、分からなかった。
地面に下ろされた渉の腰を掴んで、再び武内のちんこが侵入してくる。
ぐぷぷ、と精液を溢れさせながら腹の奥まで突き上げられて、渉は反射的に彼氏が背中を預けている木に手を伸ばした。
「あんっ、ぁんッ、は、ぁあッ」
ぷるぷると太腿が震えている。
長いあいだ四つん這いになり、激しく犯されていた渉の体力はもう限界だった。
前立腺をグリグリと押し潰されるだけで、壊れてしまったかのように快楽が押し寄せてくる。
背中が粟立ち、甲高く艶かしい嬌声が上がった。
「ァァ! とま、ってぇ、ぁっ、あっ」
ズルズルと力が抜けて、膝が折れそうになる。
すぐ目の前には彼氏の顔があり、大きく開いた両足の間では、緩く立ちあがったちんこが震えていた。
それだけは絶対に嫌だと、必死に木にしがみついた時だった。
距離が縮まり、呆然とする彼氏の唇に、揺れるちんこの先端が触れてしまう。
「あうっ」
甘い疼きと罪悪感が襲いかかった。
急いで腰を引くも、彼氏の血の気のない唇に先走りがついて、粘着質な糸を引く。
その光景に、我慢の決壊を超えた渉は、いやいやと首を横に振り懇願した。
「いやだぁっ、ゆるして、もうやだよぅ」
「許して欲しいか?」
「ぅ、ん、ひっ」
こくんと小さく頷くと、ぐっと先程よりも奥に武内のちんこが侵入してくる。
ぐちゅんっと音をたてて結腸を初めて犯された渉は女のような悲鳴をあげた。
「やぁぁっ、やらぁっ、ひッ、しょこ、もうやらぁっ」
逃げ惑う腰を捕まれて全てを咥え込んだ状態で、擦り付けるように細やかに動かれる。
すると、前立腺もその奥の内壁も、そして結腸さえも全てを嬲られて、渉は惚けた顔をして喘いだ。
緩んだ唇から涎が零れ落ちる。
泣いてるのか、喜んでるのか、絶望しているのか──
自分の心が行方不明になるほど善がり、淫らに腰を揺らすと渉は勢いよく射精をした。
「ああっ、あっ、ひぅっ」
飛び出た白濁が彼氏の顔にかかり、ねちゃりと零れて唇を汚す。
ズルズルと内股になり力なく崩れ落ちる最中、射精したばかりの性器を執拗に擦られながら前立腺を押し潰された渉は、ぷしゃっと潮を吹き彼氏に縋り付いた。
「ぁ〜……っ、……ッ、ぁ……ぅ……」
はくはくと息を繰り返し、開いた唇から赤い舌を覗かせて、渉が言葉もなく喘ぐ。
びくんっ、びくんっ、と揺れる尻に、アナルからちんこを抜いた武内が大量の精液を放った。
清廉さを感じさせるほど美しく綺麗だった渉のアナルから、ごぽりと中出しされた精液が溢れて、内股を伝う。
潮を吹き辺り一面を濡らした渉は、気が触れたように遠くを見つめ、甘く痙攣する体の愉悦に浸った。
そのあられもない様子を見て、男がにたりと静かに笑んだ。
*
「こ、これでいいんだよな?! オレのそれ消してくれんだろっ」
「ああ。君が万引きしてるところの動画か」
「そうだよ……協力したんだからお前も約束守れよっ」
「勿論だとも。ごくろーさま武内君、これで君もいい思いができて、未来も守られた。よかったね?」
青ざめた武内の肩を優しく叩いたのは、あの日、手足を縛られていた渉の彼氏だった。
「あ、そうだ。君のおかげで思ったよりも良いものが撮れたから、これご褒美にあげるよ」
「い、要らねえっ」
「へえ? いいのかい?」
「……っ」
突き返された金の入った封筒に唇をそうっと近づけて、男が笑う。
すると、怯えた武内はひったくるように男の手から封筒を奪い、教室を飛び出した。
足を縺れさせて逃げ出す姿を見つめていると、笑いがこみあげてくる。
喉奥でくつくつと笑っていた時だった。
着信音がなり、名前を確認することなく男は電話に出る。
『……先輩? いま、どこ? ひとりで何処にも行かないで……』
「ああ、ごめん先生に呼ばれてしまってね。今すぐむかえにいくよ。教室にいてくれ、いいね?」
『うん、うんっ。待ってるからね、早く来てね?』
電話口の向こうから、怯えた声音で幼子のようにそう言ったのは、渉だった。
あの事件を境に、渉の精神は不安定で、どこに居ても男の傍を離れない。
ほんの少しだけ連絡が取れなくなっただけでも、泣いて取り乱してしまうほど、渉は男に依存した。
「あーあ、可愛いなぁ」
馬鹿な渉。
付き合う男は選ばないと痛い目にあうよって忠告したのになぁ。
仄暗い声音で愉悦混じりに囁いた男は、子猫のように怯えて待つ恋人の元に向かったのだった。
END
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