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月曜日(2)
「また、アヤトさんの弟のナギサハルトさん、23歳は意識不明の重体で、現在も搬送された病院で治療を受けています。」
どこかワイドショーのスタジオではないところから報道しているらしい。警察署か、病院の前だろうか、キャスターの背後にグレーの建物が見える。その画面を凝視しながら、和臣の脳はその情報を処理できていなかった。
――何の話だ?
今なんて言った?
「今回の事故はナギサさんを含めて3人が亡くなり、11人が重軽傷を負う惨事となりました。トラックの運転手も負傷し現在治療を受けておりますが、回復を待って事情を聴き、業務上過失致死傷の疑いで逮捕される見込みです。県警前からお伝えしました。」
中継が切れると、画面には綾人の顔写真が映し出された。高校の卒業アルバムからのものか、ブレザーにネクタイ姿で、和臣の知っている綾人より少し幼い。いずれにしても遺族が提供したのであれば、最近のものではないだろう。
そして、その下に。
名木佐綾人 さん(24)
そう字幕がついていた。
いろいろな疑問が、和臣の頭の中で渦巻いた。訳が分からなくて、めまいを覚えるほどだ。
テレビ画面は再びワイドショーのスタジオに戻った。並んで座る司会の男女が、沈痛な表情を浮かべている。
「今回、残念ながら死亡が確認された名木佐綾人さんは、当番組を協賛しているナギサグループの社長、名木佐総一郎氏のご長男ということです。番組では、およそ15年前に綾人さんご本人が出演されたテレビコマーシャルの映像を入手いたしました。」
女性司会者がそう言うと、画面が少し古そうな映像に切り替わる。
小学生の綾人が映し出された。白い子犬と笑いながら芝生を走りまわり、それを見守る両親が微笑みあう。母親の腕には赤ん坊が抱かれていて、その小さな手が空をつかむように高く持ち上げられたところに、ナギサグループのロゴが重なる。
絵に描いたような、平凡だけれど幸せな人生の一幕だ。
綾人がコマーシャルに出演していたなんて知らなかったが、15年前の映像でも、それが綾人本人であることは間違いなかった。
VTRが終わるとまたスタジオの映像になり、コメンテーターが一人ずつ、スポンサーにおもねるような無難なコメントをした。
「また、今回の事故でご長男を亡くされた名木佐総一郎氏より、メールでメッセージをいただいております。」
今度は男性司会の方が、そのメッセージを読み上げた。
「深い悲しみ」、「ただ茫然と」、「次男の回復を祈り」、「二度とこのような」、悲痛な父親の心境がつづられているのだが、整然とまとまりすぎている。
和臣の頭が混乱しているせいで感覚がマヒしているわけではないことは、喫煙室の他の社員の反応を見ればよく分かった。
「あのおっさん、ほんとえげつないよなぁ。」
「息子の死もイメージ戦略に利用ってとこですか。」
「無料 で生CMしてもらっちゃって、なかなかやり手じゃないか。」
「つーかあのCM、なんですか。かゆいなー。15年前とはいえ、うちが作ったのじゃないですよね。」
「ナギサのは今でもあんな感じだよ。ちょっとクサいくらいでちょうどいいんだよ。顧客層 は浪花節世代なんだから。」
喫煙室の中は、煙としらけた空気でいっぱいだった。
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