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かっちゃんと俺の事情①
教室に入ると、二人とも飛び上がって驚いていた。遠藤は俺を見て取ると、「田原く~ん!!」と、嬉しげに抱きついてくる。よく見りゃ俺のクラスのやつじゃないか。えぇい、暑っ苦しい。
「あ~!!」
かっちゃんは人を指差すな。
「オレだって、最近抱きついてないのにっ!」
いや、ツッコミ入れるのはそこじゃないだろ。ちょっ、生地のついた手で俺の制服を触るな。
「おい、貸せ」
俺はかっちゃんの手からボウルをひったくると、中の生地を手際よく混ぜ始める。
「オーブンのスイッチ入れてくれ」
指示を出しながら遠藤に目配せすると、彼は満面の笑みでぴょこんっと頭を下げて、カバンを取り上げると脱兎のごとく教室から出て行った。まぁ、今日は土曜日だしな。馬鹿につきあわせてすまん。
お菓子作りの先生が出て行ったのに気づいてるのかどうなのか、かっちゃんはオーブンまでダッシュすると、慎重な手つきで温度調節してスイッチを入れた。
その間すっかり溶けたバターやクリームチーズにため息をつきつつ、材料を混ぜ合わせる。これ、柔らかくなってるだけで傷んでないよな? どうせ食べるのはかっちゃんだからいいんだけど。
内側が溶かしバターでまだらになった型に流し込む。これも上手く塗れてるんだろうか。気にしない気にしない。
水を張ったパッドの上に置くと、余熱を帯びて熱くなったオーブンに入れる。メモリを合わせてスイッチオン。
これで待つだけだと、ひと息ついた俺は、さっきからもじもじくねくねと、悶えているかっちゃんの方を見た。
「あ、あ~、あ~」
発声練習だろうか。薄気味悪いやつだな。そんな俺の感想をよそに胸の前で手を組んだかっちゃんは、こほんっと咳をした。
「えっと、実は進路のことだけどさ――」
「あぁ、そのことなんだけど。……あのさ、俺やっぱ、普通科行こうかと思ってる」
口を開きかけたかっちゃんを制して、先に俺がそう切り出すと、彼は目を丸くした。
「菓子作りを勉強するのは、高校や大学出てからでも出来るしな。フランス語とか他にも勉強することいっぱいあるし、人生長いし、少しくらい寄り道してもいいかなって」
自分の将来を誰かに向かって話す、なんて初めてだ。それも長年つきあってきた幼馴染。視線を落とすのは、なんとなく照れ臭いからで。
食い入るように見つめてくる眼差しを感じながら、俺は頭をかいた。
「でもかっちゃんが、製菓の学校にどうしても行きたいとかってなら、まぁ、別に、付き合ってやってもいいけど、な」
ぶんぶんっと、音が聞こえるくらいに首が振られ。目が回ったのか、くるりと円を描いたかっちゃんは、慌てて手を伸ばす俺の手に捕まった。
「おっ、オレも普通科がいいっ、から」
真っ赤な顔で、ゼイゼイと、息をつく。
「……おぅ」
当てられてしまったらしい。俺の顔も熱くなった。
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