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第2話

彼は僕に近づいてくると、まるで何も無かったかのような、昔のままの表情を向けてくる。 「...……久しぶり、アユミ。………10年ぶりかな」 ふわりと全身の感覚をもっていくようなフェロモンに僕は口元を押さえる。 彼はまったくなんでもないようだが、兄には抑制剤が効かないのだ。 ヒートに比べたら運命の相手のフェロモンくらいなんともないのかもしれない。 「...……お久しぶりです。統久兄様。施設に行かれてからお会いしていなかったので、てっきりご結婚でもなさっているのかと思ってました」 結婚するなら呼ばれないわけはないので、単なる皮肉だが、兄は困ったような顔をして僕を見下ろした。 「あ、ああ。……施設は1年経たずに追い出されてな。辺境警備隊に志願して、そっちで働きながら見合いしてたりしたんだが、中々貰い手がいなくてなあ。まあ、親父の見栄かしらねえけど、イイトコのαの坊やばかりで、30連敗。俺もイイ男だと思うんだけどね」 昔とは違う口調。あれから10年も経っている。 近親交配は遺伝子に歪みが生じるので、特にΩには禁じられている。 あらかじめ、運命だとしても変えられぬ宿命だ。 だけど、僕はもう…………彼以外のΩを受け入れられないのだ。 「それは、大変でしたね。資料を見ると辺境警備隊で大活躍だったようですね。今回、本部に戻ってきたのはどういうことです?」 今更戻ってこられても、困る。 先日僕は父の勧めでα型の女性と婚約したばかりだ。だからこそ父は兄を呼び戻し、兄もそれに応じたのだろう。父は兄の居所を、僕には一切言わなかった。 兄が、父に自分の運命の番が僕であることを告げていたのかもしれない。 「海運捜査局は、エリートのαばかりだろ?親父がさ、種馬探してこいってね。神聖な職場でそういうことって、乗り気じゃなかったんだけどさ、たったいまさっき気が変わったかな」 彼は、僕の横に立っていた桑嶋の腕をぐいと引き寄せる。 「俺の本能が、オマエが俺の運命のなんちゃらだと言っている。とりあえず今日からオマエは俺のバディだ」 そう決めつけた言葉を吐いて、桑嶋の肩をつかむ。 そんなはずはないのだ。 彼の運命は、僕なのだ。 僕が分かっているのだから、彼にも分かっているはずなのだ。だから、父に僕には会わないようにさせたんじゃないのか。 「兄様、それは本当ですか」 「本当だよ。だから、コイツとバディにしてよ。局長さん」 目の奥は僕との運命は、勘違いだと言わんばかりである。 自分は大丈夫だから、と必死でそう叫んでいるように思えた。 それはあの時、自分をセーブできずに僕と交わったことへの償いなのか。 「あとアユミ、来月オマエは結婚式なんだろ。端っこでいいから、呼んでくれよな」 運命の人は、絶対に僕には届かないひとだ……。 僕はその日、大量の抑制剤を買って毎日飲むことにした。

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