1 / 1

第1話

「あの噂って本当なのかな。」    親友からジューンブライドに結婚すると笑顔で報告された。聞いた後、笑顔を取り繕い家でこっそり泣いた。恋心を精算しようと色々やってきたが、明日の結婚式できっぱり断ち切って祝福をすると心に決めた。しかし前日になって風邪の引き始めか身体がきつい。布団に横になりながら思い出す。   「噂?」      親友の名前は暁翔悟(あかつきしょうご)。大学が同じ学部で、ある授業のグループ分けで一緒になった。人懐っこくてα特有の近寄りがたさもなかった。価値観が近く、すぐに打ち解け、よく一緒にいるようになった。俺はいつの間にか翔悟を性の対象として見てしまうようになったが、β性である自分には望みがないことは十分わかっていた。番が見つかる間だけ、想っていようと過ごしていた。  出会って4年目。就職活動真っ只中に翔悟はインターン先で番に出会った。背は小さく、栗色の髪と大きな瞳が可愛い女性だった。     「私達βがΩになっちゃうって。」      せめて、俺がΩだったら土俵に立てたのだろうか。失恋で何も考えられず、ベンチでぼーっとしていたらある男に声をかけられた。顔は見たことがある。同じ学部のαだ。特に関わりを持っていなかったため、「どうしたの?」と聞かれて「失恋。」と何も考えずに言った。男はそっかぁ辛いね、と柔らかな声でいった後、「僕が相手しようか?」と提案された。この男はΩだけではなく、αからも憧れられている存在で、美形で家系もいい最上級のαの1人だったため、からかわれただけだと思い、いいよと返事をした。しかしその後ホテルで身体を繋げた。     「ええー聞いたことない。それ怖くない?どうやったらなるの?」      君の好きな人は結婚するんだね。と事後の後言われ、また涙が出てきた。「僕は気持ちよかった。こんなに熱くなったのは初めてだ。」またしようと言われて、気持ちよかったので了承した。その後から毎日のように身体を繋げた。気持ちいい間は翔悟の事を忘れることが出来た。     「それがαの体液を毎日取り込んだらなるらしいよ。」      Ωになりたかったの?俺がぼそりと呟いた声をとり逃さずに聞いてくる。βでは恋愛対象にもならない、Ωなら対象になれるのに。もう叶わないと分かっているから夢物語をベッドの中で語ってた。 「なったらいいと思うよ。」 「え」 「Ωになったら抱き潰して孕ませてあげる。」 「は?」 「なーんてね。」 「あはは。嘘っぽい。だってαがまずβを相手する訳ないじゃん。」      就職活動をしながら気が向いたら男の家で過ごして、身体を繋げた。「君は僕を全く意識しないね。これでもモテるのに。」不貞腐れるように男が呟いたが反応するのが面倒くさくて無視した。     「そうだよねー。あ、雨上がった。よかった濡れずに帰れるね。」      大学を卒業し、中小企業の事務として働き始めた。慣れないことばかりできつかったが給料の為に働いている。男とは大学を卒業したら関係が終わると思っていたが、男はほぼ毎日訪ねてきて身体を重ねる。最近は胸だけでもイけるようになった。明日翔悟の結婚式だが、晴れるだろうか。雨の多い梅雨の時期にわざわざしなくても…と小雨を眺めながら考える。ポケットの携帯が振動し、男から今日も訪問するとメールが来た。雨で湿度が高いせいか汗でべったりとする。身体が熱く、怠い。風邪の予兆だろうか。雨も降っていたので腰かけて休む。隣に傘を持っていない女性が2人来た。何か話しているが声が遠くに聞こえる。どれぐらい休んだだろうか。雨が上がった。そろそろ家に帰ってゆっくり休もう。男には断りの連絡を…。明日は結婚式。気持ちに区切りをつけよう。     「あれ?何かいい匂いしない?甘いデザートみたいな匂い。甘いの食べたくなってきたなぁ。」

ともだちにシェアしよう!