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第4話

新入生らしき人や、在校生らしき人。 オレは廊下で何人もの生徒とすれ違い、おそらく相手には届いてない挨拶をして。 半分、挙動不審になりつつもオレが教室へ入ると、ホワイトボードに出席番号で前から座るように指示が書かていた。様々な学科に分かれているからか、1つの学科の生徒数は少なく、1学科1クラスくらいだ。 オレは苗字が青月だからか、出席番号が1番で。 番号順があいうえお順って単純だなぁと思いつつ、オレは自分の番号が書かれている席に座る。 ……1番前の席って、なんだか恥ずかしい。 でも、授業開始のチャイムが鳴り響き、担任の先生が教室に入ってきてからはあっという間に時間が過ぎて。オレはこれからの高校生活が、とっても楽しみになったんだ。 オレが調理師を目指してこの高校を選んだのは、兄ちゃんの言葉があったから。 小さい頃から外で遊んでも、友達とは呼べない人たちから揶揄われる日々にうんざりしていたオレは、母さんの手伝いがあるからと自分に言い訳をして。夕飯の用意をする母さんの横に並び、料理をしていたんだけど。 出来た料理を美味しいと言って、兄ちゃんが食べてくれるのが嬉しくて。それだけでオレは、料理することが楽しかったんだ。兄ちゃんに喜んで欲しくて、大好きな笑顔が見たくて。 そんなある日、料理してるオレを見た兄ちゃんが言ったんだ。オレが大好きな、キラキラの笑顔で。 料理してるせいは、とても幸せそうだよ。幸せを感じてる人が作る料理だから、せいのご飯を食べると幸せになるんだねって。 この兄ちゃんの言葉が、オレに勇気をくれた。 何の取り柄もないオレだけど、兄ちゃんに褒められた料理ならオレにも何か出来るかもしれない。 そう思ったオレは、調理学科のあるこの高校の進学を決めたんだ。将来どうなりたいって、まだ明確なビジョンはないけれど。 高校卒業と同時に調理師資格が得られること、専門的な知識や技術を学ぶことのできる3年間がこれからスタートするんだって。 小さな期待を胸に、懐かしいあの日の事を思い返していたら、授業と呼べないような、ひと通りの説明をただ聞くだけの時間は終わりを告げていく。 起立して、礼をして。 着席はすることなく、クラスの生徒は勝手に動き出し帰り支度を整えて。それぞれがまだ親しい仲にはなっていないこともあってか、各々が個人行動を取り、ちらほらと教室を出て行く生徒が目立つようになった頃。 制服のポケットに入れてあったスマホが震えて、オレは弘樹からの連絡を知った。オリエンテーションが終わったから、門の前で待ってるって内容のLINEに目を通し、オレは小さく息を吐く。 学科は違っても、クラスは違っても。 弘樹が同じ高校で良かったって、オレは安堵の気持ちを隠せなかったから。 緊張で固まっていた心が和らいでいくのを感じたオレは、弘樹に今から行くとLINEを送り返し、足早に教室を後にした。

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