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第12話

体感時間はとてつもなく長く感じるけれど、おそらく絶対時間はまだ話し始めて10分程度。それなのに、白石さんはオレが兄ちゃんのことが好きだって気づいてしまったんだ。 誰にも知られてはならない感情を悟られて、これ以上、オレは何も言い返せないのに。白石さんはオレを真っすぐに見つめ、酷く真剣な瞳を向けてくる。白石さんの淡い色の瞳に見つめられると、オレは何故だか動けなくなり、次第に視線がぶつかっていく。 「……俺の全部、お前に教えてやるよ」 ニヤリと上がった口角と、触れそうな鼻先。 すごく整った顔が目の前にあって、その表情は真剣そのもので。 「あの、でもっ……いいなりと、兄ちゃんと何の関係があ……んっ!?」 何か言わなきゃ、と。 必死で出てきた言葉も虚しく、オレの質問は最後まで言わせてもらえなかった。 白石さんの唇が、オレの唇を塞いでしまったから。 「……んっ」 どのくらい、白石さんにキスされていたのか分からない。というよりも、これがキスだと認識されるまでに要した時間がどれほどなのか分からないんだ。 でも、ふと気づくと、オレはものすごく苦しくなってきて。オレは白石さんの肩を叩き、息をしようともがいていた。 「ふぁっ、はぁ……」 「お前、息止まってたぞ」 オレの苦しさが伝わったのか、白石さんは笑いながらもやっと唇を離してくれたけれど。失ったオレのファーストキスは、もう二度と返ってこなくて。 好きな人とするって、ずっと決めていたのに。 よりによって、兄ちゃんの友達とキスしてしまうなんて最悪だ。オレは兄ちゃんが好きなのに、兄ちゃんじゃなきゃダメなのに。 白石さんのことだって、本当は良い人なのかもって思い始めていたのに。経験したことのない体験が次から次へとやってきて、オレは無性に悲しくなって。 「……なんで、こんなこと」 泣きそうになるのを堪えながら、オレは白石さんに力なく訊ねた。それはもう、かなりの涙目で。 「んな顔すんな、さっきも言っただろ。お前が可愛いからしただけのことだ。それと、いいなりって言ってもお前を悪いようにはしねぇーよ」 「き、キス、されたもん……だから、充分、悪いようになってるもん」 白石さんに悪気がなかったとしても、受け取り手のオレが嫌な気持ちになっていたら。それは、あまりいいことではないと思うのに。 「さて、それはどうだろうな」 「……どう、いうこと?」 しょんぼりしているオレの頭の撫でながら、白石さんはオレの言葉を否定して。 「本当に嫌なら、殴るなり蹴るなり出来ただろ?」 とてつもなく強引なことをしておいて、それなのに優しく問い掛けられてしまうと、オレは反論できなくなってしまう。けれど、オレは抵抗しなかったのではなく、できなかったんだって意思を伝えるために、オレはもごもごと口を動かした。 「だって、ビックリしたから……その、初めてだったから。それに、オレは人を殴ったことなんてないし……えっと、だから、なんというか」

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