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第14話

自分の気持ちが分からなくて黙ったまま白石さんを見入るオレと、オレから距離を置き髪をかき上げた白石さん。お互いに無言の時間が訪れると、室内に流れる沈黙が痛く感じる。 けれど、その時間はそう長くは続かなかった。 「お前さ、光に言えない想い抱えて苦しくねぇーの?」 数分前まで甘い雰囲気を漂わせていた白石さんの空気が変わり、キスしたことが嘘のように平然と話す白石さんはオレに問い掛けてきて。 「……オレは、オレは兄ちゃんの傍にいれればそれでいいと思ってます。それに、オレのこの気持ちは白石さんに関係のないことです」 白石さんが纏う不思議な空気に流されてしまうオレは、兄ちゃんが好きだって気持ちを肯定する意味の意見を述べるけれど。 「ふーん、そっか。んじゃ、関係ねぇーなら俺が光にお前の気持ちをバラしても問題ねぇーってことだ」 「え……」 白石さんから予想外過ぎる言葉が返ってきて、オレはさっきまで白石さんの唇が触れていた自分の唇をぐっと噛んでしまうけれど。 「なんてな、バラすつもりはねぇーよ。まぁ、お前がいい子にできれば、だけど」 噛んだ唇が切れないようにするためなのか、はたまた別の理由があるのかは分からない。でも、白石さんは条件付きでオレの戸惑いを緩和させるから。 「いい子って、それはどういう定義ですか?」 一人一人違う言葉の概念を明確にしてもらうために、オレは白石さんにそう問い掛けた。 「とりあえず、お前のスマホ貸して」 解答になっていない返事、差し出された白石さんの手。この場合、オレがスマホを渡さなかったらオレは悪い子になってしまうんだろうか……そんな考えを持ったオレは仕方なく、制服のポケットからスマホを取り出し白石さんに手渡した。 他人に見られて困るような情報はオレのスマホに保存されていないけれど、私物を勝手に扱われてしまうといい気分にはならない。 それでも、白石さんに逆らうことはできなくて。白石さんの手元をボーッと眺めていたら、そのうちオレの元にスマホが返ってきた。 「いい子の定義は、俺の気分次第で変わると思うけど。それだとお前が不安になるから、最低条件だけ伝えとく。1度しか言わねぇーから、よく聞けよ」 手の中にあるスマホを握り、オレがこくんと頷くと。突然スマホが振るえ、ディスプレイに知らない番号の通知が届いて。 「ソレ、俺の番号な。とりあえず俺からの連絡には必ず出ることと、電話に出られないない場合、もしくは気づかなかった場合は、必ずLINEすること。光には、俺との関係を秘密にすること。んで、俺の指示には必ず従うこと。これが最低条件」 白石さんの話を聞きつつオレがスマホを操作していくと、オレのLINEには白石さんらしき人が既に友達登録されていた。 「……本気、なんですね」 条件の説明を裏付けるような白石さんの行動に、オレの心の声が漏れてしまうから。 「もしも、守れなかった場合はどうなるんですか?」 言葉を付け加えるようにして白石さんに訊ねたオレに、白石さんはニヤリと笑ってこう言ったんだ。 「お前のことを、光に全てバラすだけ」

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