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第16話

【雪夜side】 星を残して部屋を出た俺は、本来訪れるべきであった部屋のドアを開ける。ついさっきまでいた星の部屋とは異なり、光の部屋はどこか殺風景に感じた。 光のプライベート空間に文句を言うつもりはないが、それにしても生活感のない部屋だ。そんなくだらない感想を持ちつつも、俺は唇に残る感触を思い出し溜め息を零す。 ……こんなにも、自分が衝動的だとは思っていなかった。 昔から人に興味がない俺は、他人がどこで何をしていようがどうでもいいと思う性格だ。まぁ、こっちに興味がなくても結果的には勝手に向こうから寄ってくるんだが。 皆が興味があるのは俺の外見だけで、栗色の髪も目の色も、ただ色素が薄く生まれつきなのに。俺はよくハーフなのではないかと勘違いされ、その度に寄ってくるヤツらを適当にあしらって。 思春期になればクソアマどもは俺をブランド品のように扱い、俺はソイツらが友達へマウントを取るための材料となった。自慢出来るから雪夜と付き合ったとか、顔がいいからとか、アホらしい理由で。 そんなクソアマどもは俺の外面ばかりに気を取られて、内面なんてどうでもよかったんだろう。俺は俺で、穴があるならなんでもよかったから。ちゃんと相手をみていなかったのは、お互い様だと思うけれど。 成長するに連れて人付き合いをそれなりに学んだ俺は、自分の内面を無理に見せる必要性を感じず、そうして他人への興味を持たない人間と化したのだ。 けれど、俺はついさっき初めて他人に興味を持った。それが、腐れ縁のダチの弟なのはどうかと思うんだが……しかしながら、光が弟を大事にしてる理由を俺はようやく理解した。 光は、ブラコンだ。 昔から俺との話の大半が、5つ下の弟の話。 七夕の日の夜に産まれてきたから、ホシが良いと言った光の意見が採用されて星になったと、光が自慢げに話していた。 他にも、星は昔から家族以外には極度の人見知りで他人には愛想がないこと。母親似の大きな目と、真っ黒な髪がとても愛らしいこと。それなのにも関わらず、基本的に無口で表情がないから人形だと揶揄われていたこと。 そんな星を、いつも光が庇って慰めてきたこと。星には幼馴染みがいて、そいつが星にちょっかい出していること。料理をするのが好きで、よく母親と一緒に夕飯を作っていること。 それはもう、上げたらキリがないくらいだ。 適当に付き合った女の名前すら覚えない俺が、光から弟の話を聞かされ過ぎて星の名前は覚えたくらいだから。 まぁ、だからといって星本人に会うつもりなどなかったんだが。星に説明した通り、俺は単純に光と星の部屋を間違えただけにすぎなかった。 けれど、百聞は一見にしかずだったのだ。 弟が可愛く思えるのは、どうせ身内贔屓なのだろうと。そう思っていた俺の前に現れた噂の弟は、話で聞いていた以上に愛らしかった。 自分の部屋に見ず知らずの他人がいたら、誰だって驚くだろうが。叫ぶことも喚くこともなく、静かにその場から立ち去ろうとした星の反応が面白くて。 内心、自分の間違えに恥を感じつつも俺はそのことを棚に上げることにした。

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