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第39話

【星side】 「あの店員さん、すごい親切だったな。カッコ良かったし、俺もあんな大人になりたい」 ショップからの帰り道、弘樹は嬉しそうに買ったシューズが入っている紙袋を眺めながら歩いているけれど。 「……弘樹が、あんな風になるの?」 「だってあの店員さん、すげぇーカッコ良くなかったか?背も高くて笑顔も爽やかでさ。俺、あの店員さんみたいな男になりたい」 いいなりの契約も、泊まりの約束も、この状況も。意味の分からないことばかりする白石さんに憧れたらしい弘樹は、キラキラと目を輝かせていて。 昨日初めて会ったオレでさえ白石さんのことを詳しく知らないのに、何も知らない弘樹が白石さんに憧れるなんてオレには意味不明な事態だから。 「弘樹、あの人のことよく知らないのに憧れたの?」 クエッションマークを沢山並べて弘樹に訊ねたオレに、弘樹は大きく頷くとこう言った。 「うん。サッカーやってたって言ってたし、男の俺が見てもカッコ良い人だったから」 ……やっぱり、白石さんって誰が見てもかっこいいんだ。 サッカーバカな弘樹から見ても、かっこよくて憧れてしまうらしい白石さんの存在。でも、オレが今日見た白石さんは弘樹に向けてとてもふんわり笑っていた。オレに笑う時は意地悪そうにニヤリって笑うのに、オレと弘樹じゃ何が違うのか分からない。 ショップ店員だったことも、サッカーをやってたことも。オレは、白石さんのことをまだ何も知らないから。 ……あの人、本当に何考えてるんだろうって。 オレが悶々と考えていたら、いつの間にか家に着いていた。 「俺のシューズ買うのに付き合ってくれてありがとな、また来週会おうぜ」 「うん、またね」 弘樹に家まで送ってもらい、帰宅したのはいいのだけれど。白石さんに言われた内容を思い返していくオレは、もうパニックで。 泊まりの準備をしなきゃいけないはずなのに、オレは自室で迷子になった。 何を持っていけばいいか分からなくて、そもそもオレはどこに泊まるのかも分からなくて。もしかしたら誘拐されてしまうんじゃないかとか、様々なことが頭に過ぎるから。 オレは何も持たずに部屋の中をウロウロと歩き回った結果、兄ちゃんに助けを求めようと思ったけれど。白石さんのことを兄ちゃんには言えないオレは、とりあえずお風呂とご飯は家で済ませていこうと思った。 それから、仕事から帰ってきた母さんに今日は弘樹の家に泊まると嘘をついてオレは泊まりの許可を得て。明日は何時に帰ってくるのと母さんに聞かれたけれど、オレは明確な返答ができなかった。 とりあえず、帰る時に連絡を入れるってことで母さんには納得してもらって。オレは母さんへの罪悪感を振り払うと身支度を整えて近くのコンビニへと向かったんだ。 なんだかんだと準備をしていたら、約束の時間はあっという間にきてしまったけれど。コンビニに着いて周りを見渡してみると、白石さんらしき姿はなくて。 オレは大人しく待つことを選択すると、イヤフォンで音楽を聴きつつ、好きな料理漫画が連載されている雑誌を読みながら白石さんを待っていた。

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