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第47話

【雪夜side】 成り行き任せとは、おそらく今の俺のことをいうんだろう。他人を上げたことのない家に星を連れ込み、俺だけ食事をしてシャワーを浴びているのだから。 家に連れ込んだはいいものの、俺はこれからどうするつもりなんだろうか。 そんなことを思いつつ、温かな湯を全身に浴びていく俺はカルボナーラを頬張った時の星の笑顔を思い出していく。 星が料理好きって情報は、光から聞いていたけれど。まさかここまでの反応が返ってくるなんて、俺は思っていなかった。 ……メシ食ってあんだけテンション上がるヤツ、初めて見たかもしんねぇーわ。 確かに、今日のカルボナーラは上出来だった気がするが。それにしても、たったひと口頬張っただけでアイツは心底幸せそうな表情をしていた。 笑顔の花が咲いたような、とても可愛らしい表情を俺に向けてくれた星。その笑顔に誘われ、俺も自然と笑っていたように思う。 俺がそれなりに料理をするのは、高校の時バイトしてたカフェのマスターに教えてもらったからなんだが。そんな俺が調理する過程をじっと見つめていた星の瞳は、キラキラと輝いていた。 料理人になりたいって、自分の夢をちゃんと持ってて。恥ずかしそうに、照れくさそうに、でも真剣に話すアイツは一生懸命ですげぇー可愛くて。 あの表情をこれからも見てみたいと、そう思った俺は星と2人でメシを作る提案をしていた。 正直、ワンルームマンションのキッチンは狭いし、やりづらいことこの上ないけれど。それでも、嬉しそうに笑ってひとつ返事で頷いてくれたアイツの笑顔には敵わなくて。 前言撤回することもなく、俺はどうやらアイツと2人でなんちゃって料理教室をするつもりでいるらしい。 かなり強引に泊まりの約束をさせて連行してまったが、アイツが意外にも楽しそうで何よりだと思う。 コンビニから俺の自宅まで、かなりの遠回りをして星と話す時間を設けてみたけれど。ゆっくり話すアイツの声をこっちがしっかりと聞いてやれば、星は思いの外ちゃんと受け答えしてくれることを知った。 俺が俺様とかなんとか言っていた気がするし、免許も料理も部屋の綺麗さも意外とか……アイツの中の俺のイメージは、きっと酷いものだったのだろう。 全く面識のないヤツが、上半身裸で煙草を咥えて自分の部屋にいたら。俺なら有無を言わさず殴り飛ばすだろうし、変人だと捉えられても仕方のない話だ。 けれど、どうやらそのイメージは薄まったようで。星が俺を警戒することはなく、昨日よりも今日の方が表情豊かになっている気さえする。 俺が車内で光のことについて訊ねた時、星はあからさまに寂しそうな顔をしていた。届かない想いに困惑している様子だったが、光への気持ちはきっと尊敬と憧れが拗れたようなものなのだろうと俺は思った。 恋と呼ぶにはまだ早い感情を抱えて、誰にも言えない気持ちを話してくれたアイツ。今日ショップに現れた弘樹ってヤツは、ただの幼馴染みで星は眼中にないらしい。

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