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第62話

白石さんと視線を合わせたら緊張で息ができなくなりそうなオレは、ぎゅっと目を瞑り小さい声で呟いた。 ドキドキと高鳴る心音が頭の中に響いて、オレはそれだけで恥ずかしくなって。段々と頬が染まっていく感覚がするけれど、オレは目を開けることができないのに。 「……料理してる俺って、具体的にどんな風にかっこいいワケ?」 白石さんの甘く響く声がして、オレは不覚にも目を開けてしまったんだ。 整った顔が目の前にあって、白石さんの瞳の中には顔を真っ赤にしているオレがいて。 「あ、あのっ……髪、結んでるとこ」 どうにかして白石さんから視線を逸らさなきゃって考えたオレは、目に付いた白石さんの髪を具体例としてあげていた。 「あぁ、これか」 すると、白石さんの髪がふわりとオレの頬を撫でていき、白石さんは結んだ髪をオレに向けてくれる。 ハーフアップになっている髪はヘアゴムでしっかりと結ばれていて、動物の尻尾のように思えたオレは無意識に白石さんの髪に触れていた。 「……ふわふわだぁ、気持ちいい」 白石さんの髪はオレが思っていた以上に柔らかい髪質で、とても気持ちがいい。くしゅくしゅと触れてみたり、少し長い襟足の髪をくるくる指に巻きつけてみたり。オレが髪で遊んでる間、白石さんは抵抗しなかった。 「白石さんの髪って、地毛ですか?」 「地毛だ、よく染めてるって勘違いされるけどな」 やっぱり、地毛なんだ。 染めてるのかなって思ってたけど、染めてたらこんなにふわふわな髪質はキープできないと思うから。 「いいなぁ、オレの髪は真っ黒だから羨ましいです」 そう言いながらも、ちょっだけ悔しく思えたオレは白石さんの髪を引っ張っていたみたいで。 「いてぇーよ、バカ」 怒られるかなって思ったけど、白石さんはそう言って笑っていた。 しばらくの間、2人で色んな話をして。 「そういやさ、お前まだ時間ある?」 白石さんにそう言われて、オレは少し考えた。 弘樹の家に泊まる時は、そのまま夜ご飯もご馳走になって帰ることが多いから。21時くらいまでなら、オレの時間は自由だけれど。 「今日は家に帰るつもりでいるので、夜21時くらいまでなら時間ありますよ。帰る前に、母さんに連絡すれば大丈夫です」 「そっか。ならさ、連れてきたい場所があんだけど」 自由な時間があるとはいえ、その時間をどう使うかの権限はオレにないから。 「基本的に、オレに拒否権ないんですよね?それに、一緒にオムレツ作ってくれましたし、髪もいっぱい触らせてもらっちゃったので……オレで良ければ、お伴します」 何処に連れられるのか分からない不安はあるけれど、オレに拒否権はないわけで。不意にドキドキさせられたり、オレばかりが戸惑ってしまうこともある……でも、白石さんは優しい人なのかもしれないって。 そう感じ始めているオレは、お昼過ぎになって出掛ける支度を始めた白石さんの後を追うように、オレも着替えをして荷物をまとめて車に乗ったんだ。

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