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第64話

白石さんがオレを連れて行きたいって思ってくれた場所のはずなのに、その道中で溜め息を吐く白石さんの気持ちがオレには分からない。 多少なりとも、白石さんがいい場所だって思っているからオレより先に兄ちゃんにもお店を紹介したと思うんだけれど。 白石さんはランさんって人のことを、褒めているのか、貶しているのか……そう考えた時、オレもさっき白石さんに同じ言葉を返されたことを思い出した。 貶しているわけじゃないのに、言葉は相手の受け取り方次第で良くもなるし悪くもなる。褒めているつもりでも、そう捉えてもらえないのなら意味がないから。 白石さんと一緒に居る内に、オレは普段なら当たり前過ぎて考えないようなことまで考えるようになってしまったみたいだ。 でも、それは悪いことではないような気がする。相手を知るためには、ちゃんと会話をしたり、相手の表情や仕草を気に掛けたりすることが大事なように思えて。 基本的に、誰にでも人見知りを発動してしまうオレだけれど。これから会うことになりそうなランさんって人には、白石さんと同じようにできるだけ話をしたり、相手のことを考えるようにしようってオレは思った。 「……あの、ランさんのお店って、何する所なんでしょう?」 色々考えると、沢山の疑問が浮かんでくる。 一口にお店といってもその種類は様々だし、オカマの人が店主のお店はどんなことをしているお店なんだろうって。前情報を仕入れるみたいに、オレは気になったことを白石さんに聞いてみた。 「ランの店は昼間はカフェで、夜はバーだ。格式なんてもんはない飲食店だから、行こうと思えば誰でも行ける」 飲食店、カフェ、バー、この言葉だけでテンションが上がるオレは単純かもしれないけれど。 「えっと……白石さんは、どんな経緯でランさんのお店を知ったんですか?」 未知のお店が飲食店だと分かり、興味津々なオレは白石さんに質問攻めで。 「元々は俺が中学ん時に、兄貴に連れられて入ったのがランと知り合ったキッカケ。その時に俺はランに口説かれて、よく話すようになったんだよ。変なオカマ野郎だけど、ランが作るメシは俺のより美味いから大丈夫」 「白石さんが作るのより美味いって、すごい人じゃないですか……美人で料理上手な人に、オカマ野郎なんて言っちゃダメですよ?」 「そのセリフは、そのままランに言ってやってくれ。きっと、泣いて喜ぶから」 白石さんは遠くを見つめながらオレにそう言うと、その後は無言のまま運転に集中してしまった。 機嫌が悪そうな感じはしなかったけれど、白石さんからは何処となく話しかけられない雰囲気が漂っていて。オレに見せていた表情とは違う、少し儚げな眼差しがオレを捕らえることはなかった。 年齢に差があるからか、オレと白石さんが経験している事柄が違うからか……理由は沢山あると思うけれど、この時の白石さんはオレの知らない世界を見つめているように思えたんだ。

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