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第80話

シャワーを浴び終え部屋に戻ると、星はソファーに三角座りで座り、クッションに顔を埋めていた。 ……コイツ、パンツ履いてねぇーこと忘れてやがる。 ワンピース状態の俺の服から覗く太腿は、星が少し動くだけで尻まで見えそうな勢いなのに。そんなことを気にもせずに丸まっている星は、俺が部屋にいることに気づいていないようで。 「……星?」 「あ、白石さん……っ、ぅ」 俺がひと声掛けると、星はゆっくりと顔を上げる。けれど、その瞳は潤んでいるように見えたから。どうすることが正解なのか考える暇もなく、俺は星の隣に腰を下ろしたんだが。 「オレ……っ、どうしたらっ、いいか……わかん、ないっ」 俺がソファーに座り込んだのが先か、星が俺に抱き着いてきたのが先か。今まで堪えていた物が溢れ出すように、星は俺に勢いよく抱き着いたままポロポロと泣き始めてしまった。 「……兄ちゃんが好きなのにっ、なんでオレは……白石さんに触れられると、気持ちいいの……なんで、もっとって思うの、白石さんはっ……男なのに、なんで……オレっ、変なの……変、なんでっ」 ボソボソと鼻を啜りながら必死に喋る星の頭を撫でつつ、俺は返答に困りながらも言葉を紡ぐ。 「なんでかは俺にも分かんねぇーけど、俺もお前も同じ気持ちだ。だからお前は変じゃねぇーよ、大丈夫だ」 我ながら説得力のない台詞を吐き、俺は星をぐっと抱き締める。上手く伝えてやれる言葉があるなら楽なのに、恋愛感情に振り回される感覚を最近知ったばかりの俺にはそう言ってやるのが限界だったんだ。 「……でもっ!!」 納得出来ないとでも言いたげに、星の潤んだ瞳は真っ直ぐに俺を見て反論してきやがって。 「でも、じゃねぇーんだよ、バカ。俺が大丈夫っつったら大丈夫になんの……けど、今は泣きたいだけ泣け。何処にも行かずに傍にいてやっから、大丈夫」 「ぅ、しらっ……うぅッ」 そう言った俺に星はぎゅーっと抱きついて、声を上げて泣いてしまう。部屋の中は星の泣き声と土砂降りの雨の音が響き、泣き続ける星を俺はずっと抱き締めていた。 俺が星にしか感じることのない気持ちを、コイツも同じように持ち合わせてくれているのだろうが。急な心の変化に頭が追いつかず、気持ちを整理する暇もコイツにはなかった。 それもこれも、成り行きに任せた俺が悪い。 出逢ってからがあまりにも早足で、けれど星はそれに付き合ってくれていたから。 どんなに可愛くてエロくても、それが現在進行形だとしても。俺にもっとしてとキスを強請っていたことも、今だって自ら俺に抱き着いていることも……ついでに、パンツ履いてねぇーことも。 色々と指摘する箇所はあるけれど、星はまだ子供だ。 ……かく言う俺も、まだ19歳なんだけどよ。 何処か冷静な頭は自分自身にツッコミを入れ、己の行いを反省する。しかし、俺に抱き着き泣いている星の体温は暖かくて……そろそろ本当に限界かもしれないと、俺は途切れそうな理性を保ちながら星の髪を撫でていた。

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