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第97話

俺がどれだけ胃が痛くなるような思いを抱えていたところで、賭けの対象になった星はまだ何も知らないまま……普段通りの俺を装い、そして俺は悪足掻きするため、星の首に痕を残した。 まだ、誰のモノでもない星。 しかし、今後アイツが誰のモノになるのかを意味する赤い印。それはおそらく、すぐに光の眼に止まる。先日は待ち合わせ場所に指定したコンビニの駐車場で星を下ろした後、俺が向かった場所はアイツらの家だった。 光との打ち合わせ通りの動きだが、俺は気配だけを消し去りキッチンの奥で身を潜めることしかできない。リビングで星の帰りを待つ光は無言を貫きつつも、王子でも優しい兄貴でもない、悪魔の顔をして笑っていた。 そして。 星が帰ってくるなり、星に俺との関係を問いただした光は心底楽しそうに口角を上げる。本当は全てを知っているクセに、アイツは本当に性格が悪いと思った。 ただ、光の性格面は分かりきっていたものの、俺の想像の範囲外に飛び出ていく光の強引さと、小動物のような星の怯えように少し驚いた。 俺の過去の行いを有ること無いこと、あたかも全てが真実だと言わんばかりにペラペラと話していく光。確かに俺が適当に女を抱いてたのは認めるし、遊び人だと言われても仕方ないことは理解しているけれど。 俺は、星をセフレだなんて思ってない。 というよりも、光の言葉を素直に受け止めたらしい星の表情を見る方が辛かった。 光の発言は7割方嘘で塗り固められているのに、たった3日間しか過ごしていない俺本人の言葉より、産まれた時から傍にいる光の言葉を星は信じてしまう。これは当然の結果なんだろうが、それでもこの状況から俺は目を背けてはならない。 光は星をソファーに押し倒したままどんどん話を進めていき、その間も眼は全く笑うことのないままで。星は必死に涙を堪え、怯えていくばかりだ。 ……あぁ、もう星が可哀想。 星の気持ちを知るために、と。 ここまで我慢して光の好きにさせていたが、さすがに俺も限界で。 「光、やり過ぎ」 俺が声を出した瞬間、光の動きはピタリと止まり、俺の存在に気付いた星は、唇を噛み締めながら勢い良く俺に飛びかかってきて。自分が知らない光の姿を受け入れられなかった星は、俺に抱きつきながら泣いてしまった。 そんな星があまりに愛おしくて、俺は星をぐっと抱きしめる。ニヤリと笑った俺に、強引にいけばイケると思ったと光は笑っていた。光のサディストぶりは前から知っていたが、本当にここまで星を相手にすると思っていなかった俺は、光の悪知恵の意図を悟った。 つまりは、この賭け自体が俺に対しての嫌がらせ。 光はおそらく、最初からこの結果を見越していたのだろう。兄としての優しさは、時として恐ろしく俺に牙を剥く。 それでも、星が選んだのは。 3日間前まで好きだと言っていた光ではなく、たった3日間前に出逢った俺だ。 何はともあれ、この賭けの勝敗が決まったわけで。フリーズしている星に光はザックリと、ことの経緯を説明していった。

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