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第100話

「もうっ、白石さんも兄ちゃんも大っ嫌いです!」 俺が取った行動は光に対しての悪足掻きだったのだが、恥ずかしさがキャパオーバーしたらしい星は俺から離れて頬を膨らませる。 こんなに愛らしい『大嫌い』を受け入れる身の気持ちにもなってもらいたいものだけれど、それにしても今は何より悪魔が邪魔で仕方がない。 「うっわぁー、ユキちゃん速攻でフラれてるぅー!!あれだけイチャついてたのに、フラれるとかマジウケるぅー!!」 「……光、お前ホントうぜぇーんだけど」 腹を抱えて笑う悪魔と、頬を膨らませ拗ねる天使。捉え方によってはどっちも悪魔かもしれないが、星の場合は小悪魔といったところだろう。 「星、ごめんって。今度お前が食べたいものなんでも作ってやるから、嫌いとか簡単に言うな」 傷ついているわけではないし、本心から嫌いと言われているわけじゃないことを理解はしている。けれど、ご機嫌斜めの星の機嫌を真っ直ぐに整えてやるため、俺は手料理で星を誘った。 「白石さん、それ本当ですか?」 「おう、約束してやるよ」 やっぱり、コイツは料理に弱い。 膨らんでいた頬は元に戻り始め、星は俺に嫌いだと告げたことも忘れて食べたい物を考え出す。 「えっと……じゃあ、今度はナポリタンが食べたいです。下に薄焼き卵があってとっても美味しいの、です」 「あぁ、それ母さんの得意料理の1つだね。いくら料理が得意なユキちゃんでも、母さんの味に勝つのは難しいと思うけど。頑張ってね、ユキちゃん」 キラキラと輝きを取り戻していく星の瞳は、既に期待に満ちているように見える。鉄板ナポリタンのご注文を頂いたのはいいものの、俺の家には鉄板皿がない。星の望みならもちろん買い揃えるが、その前に気になることがひとつあって。 「今回は俺が強引に泊まらせたけどよ、お前んとこの親にはどう説明したらいいんだ。泊まりの度、毎回友達の家っつーのはよくねぇーだろ」 「あー、ソレは俺も思ってたとこ……せい、ユキちゃん家に泊まるのは構わないけど、母さんに嘘つくのは良くないよ。俺の友達の料理上手な人から調理実習してもらうためって、母さんには俺からも話しておくから嘘はつかないように」 気がかりなことはどうやら光も変わりなかったらしく、光は忠告とアドバイスを同時に告げていく。その言葉に頷いた星は柔らかく微笑み、目尻に溜まっていた涙をゆっくりと拭っていた。 「兄ちゃん、白石さん、ありがとう……オレ、まだよく分からないことばっかだけど、兄ちゃんと白石さんがいてくれて本当に良かった」 俺と光の賭けに巻き込まれた星だが、コイツの素直さに助けられたのは俺と光の方だろう。結果良ければ全て良し、と。そんな簡単な言葉で流してしまえるほど、俺たちの関係は容易いものではないけれど。 まだ始まったばかりの初恋は、光のとんでもないアシストで幕を開けたのだった。

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