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第102話

【星side】 白石さんと兄ちゃんと色々あってから、もうすぐ金曜日が過ぎようとしていた。 あの日。 いつもと違う兄ちゃんに襲われかけて、白石さんとのことを聞かれたオレは、知らない間に兄ちゃんではなく白石さんを選んでいた。 オレはずっと特別な意味で、兄ちゃんのが好きなんだって思っていたけれど。兄ちゃんにオレの好きって気持ちは違うって、とても強引に教えられてしまった。 初めて知る兄ちゃんの本性は、白石さん以上に意地悪で強引で、優しさのカケラも無くて。そこには、オレの好きな兄ちゃんは何処にもいなかった。 でも今、兄ちゃんはあの日のことが無かったかのように、いつも通り接してくれている。だからオレも、変にぎこちなく兄ちゃんと話すのはやめようと決めた。 白石さんはあの日以降、バイト続きで忙しいのに毎朝必ず連絡をくれて。兄ちゃんも白石さんも、オレのことをすごく大事にしてくれているのが分かるから。 ……なんかオレ、こんな幸せでいいのかな。 好きの意味は違っても、兄ちゃんは兄ちゃんらしくオレを大切にしてくれるし、オレのことを考えてくれたからこそ、あんなとこをしたんだって……あの時はびっくりしててそんな考えを持てなかったけれど、今ならそう思うことができる。 白石さんのことを好きだって、オレ自身まだ実感は湧かないけれど。でも、ちょっぴり強引で、とっても優しくて、料理上手な白石さんに心惹かれていることは確かだと思うんだ。 オレはまだ、白石さんのことを全然知らないから。だからオレのこの不思議な感情に、はっきりと名前を付けてあげることができないのは残念だと思う。 白石さんは、女の人といっぱい経験があるって兄ちゃんが言ってたし。寂しいような、気にしちゃいけないような、なんとも言えない複雑な気持ちが少しだけオレを悩ませている。 本当は物凄く気になっているんだけれど、触れちゃいけないことのような気がしているオレは、白石さんに色々と聞けないままで。 というより、ずっと好きな人は兄ちゃんだと思っていたオレが、いきなり白石さんを好きになってしまった……っていうのも、白石さんがオレを好きだっていうのも。今更ながらに普通じゃないって気がづいてしまうと、オレはどうしたらいいのか分からない。 白石さんの想いはなんとなく受け取ったつもりでいるけれど、よくよく思い返してみれば、オレは直接白石さんから告白されたわけじゃないんだ。 でも、白石さんってカッコイイし、オレはよく分からないけどドキドキしちゃうし……キスされても嫌じゃないし、安心するし、それから、それから。 ……あ。 そういえば、明日は白石さんと約束したナポリタンを作ってもらう日だ。楽しみにし過ぎて、日にちを忘れてしまうところだった。 手料理を作ってもらうということは、たぶんきっとオレは白石さんのお家に泊まるんだと思うけど……なんだか、とっても恥ずかしい。 オレはここが教室だってことも忘れ、白石さんのことを考えるあまり、顔がどんどん赤くなっているのに気づくことのないままだったんだ。

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