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第114話

「お前ッ、マジで1回死んでこいッ!!」 一度死んだところで、転生できる世の中ではない。死んだら二度とこの世に戻ってくることのできない世界、それは当然の理りなのだが。 「なんで俺が、お前のために死ななきゃなんねぇーんだ。コンテニューできるわけじゃねぇーんだぞ、バカも大概にしろっての」 モテない男の心を潤すために、わざわざ自分から死ぬヤツなどいない。それに、俺は星に出逢ったばかりなのだ。このタイミングで死ねと吐かす康介に、俺はもう苛立ちすら感じなかった。 そんな俺の言葉に返答をしない康介は、残り少なくなったアイスコーヒーを飲み干すと俺をまじまじと見つめてきて。 「……白石って、初めてヤったのいつ?」 いきなり意味の分からない問を俺に投げ掛けてきた康介は、酷く真剣な顔をする。 「お前さ、ソレ知ってどうすんだ?」 別に隠すようなことでもない、が。 俺の初体験を康介が知ったところで、コイツにはなんのメリットもないと思うのに。 「お前ってさ、すげぇ大人びてんじゃん。早くからヤってるヤツはガッついてないから、落ち着くのも早いのかなぁと思って……なぁ、いつ?」 引き下がる気がないらしい康介は、身を乗り出して聞いてくる。昼間っから野郎2人で、セックスの話ばかりしているのは如何なものなのだろう。周りから見たら、俺たちはド変態野郎コンビだ。 ゆったりとした時間を過ごす予定が、バカな康介の所為で騒がしい時間に変わってしまった。こうなることは薄々気が付いてたからこそ、俺はカフェをチョイスしたことを悔やんでしまうけれど。 「……中3の夏、だったか」 「おまっ、はぁ?ふざけんなよッ!!」 「ふざけてねぇーよ、たぶん中3の夏休みくらいだったと思う」 周りの目を気にするほど、俺は俺で人に興味はないから。康介の問に答えてやることにした俺は、アイスコーヒーで喉を潤していくれけど。 「あのぉー、差し支え無ければぁー、相手を教えていただけないでしょーかぁー?」 改まって敬語を使っているものの、間延びした調子で話す康介はヘラヘラしていて気色悪い。自分の初体験を話すことになんの抵抗も感じないが、易々と答えてやるつもりもない俺は条件を提示する。 「教えてやってもいいけど、ここ康介の奢りな」 「ケチ、お前どんだけ性格悪いんだよっ!!奢ってやるから、初体験、全部話せッ!!」 アイスコーヒー2杯分、千円以内の奢りで性格が悪いと吐かす康介は懐が小さい。それは心の部分ももちろんだが、コイツの金銭事情も関係していて。 バイト代を女に注ぎ込んでいる康介は、毎日が金欠なのだ。そんな康介が無い金を使ってでも知りたがっていることを教えてやるため、俺は苦笑いしつつも口を開いていく。 「相手は名前も知らない女で、たぶん当時20歳後半くらい。綺麗……だったんじゃないかと思う、おそらく。駅でフラついてたら声かけられて暇だったし、面白半分でついて行ったらラブホテルで。手取り足取りナニ取りで教えてもらいながら、色々ヤってさようなら。もう顔とかカラダとか、全く覚えてねぇーよ」

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