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第120話

「なんで、どうしてなんだよッ……セイもアンタと同じことを俺に言ったんだ、俺には関係ないって」 「それさ、もうちょい詳しく話せるか?」 此処までの流れは、想定の範囲内で収まっていた話だったけれど。弘樹の呟きから背景を読み取ることが困難な気がした俺は、弘樹に問い掛けた。 「今日たまたま学校内で、保健室に向かう途中のセイと会って。ラッキーなことに2人きりになれたから、セイを問い詰めたんだ。そしたら、あの時一緒にいたのはアンタで間違いないって言われて」 「そんで?」 「ただ、アンタはセイの兄ちゃんの友達だから、お勧めのカフェに連れてってもらったんだって言ってた。でも、それでキスマ付けられんのはおかしいだろって話したら、セイのヤツ、俺には関係ないって言ったんッスよ」 なんの躊躇いもなく、ペラペラと話してくれた弘樹には感謝してやろう。何故アイツが保健室に用があったのかは謎のままだが、なんとなく2人の会話の流れを掴むことができた。 しかしながら、星が弘樹に説明した俺の情報は当たり障りのない話。弘樹が知りたがっている肝心な部分は、星も俺と同様に伏せていたわけで。 「なんでキスマ付けられたのか聞いた時も、セイは知らないって言うだけだった。言えない事情があるのか、アンタを庇ってんのかは知らねぇけどさ……セイに聞いても納得できない答えしか返ってこねぇから、だから俺は今日アンタに会いに来たってのに」 「直接話に来たら、目撃してた事実を告げたら、俺が怯むとでも思ったか。そんな浅知恵だけで来たんじゃ、答えてはやれねぇーな」 星にその気がないのなら、あの仔猫に何を聞いても無駄だ。無駄だと判断した上で、弘樹は俺に話を聞きに来たことは納得してやるけれど。 「俺は、セイと幼稚園から一緒だ。ずっとセイを見てきたはず……なのに、なんでアンタみたいなのが急に出てきて、セイがキスマ付けられてんのか知りたい」 「知ってどうすんだ、お前」 俺と星の関係を弘樹がどのように扱うつもりでいるのかは、俺にもまだ理解できていないから。俺が灰皿に煙草を押し付けつつ尋ねると、弘樹は少し声を荒らげてこう言った。 「俺は今日、セイに、アイツに男として好きだって伝えてきた。好きな相手のことだから、俺にだって知る権利くらいはあんだよッ!!」 「答えになってねぇーよ。権利云々の話じゃねぇーんだ、知ってどうすんのかって聞いてんの……ってかさ、お前アイツにナニした?」 好きだから知りたい、その気持ちは理解してやるとしてもだ。恋愛感情を持つ相手と保健室で2人きりの状況はコイツにとって好都合だったのではないか、と……そう思い、俺が弘樹に問い掛けた瞬間、目の前にいるガキが男の顔をして笑った。 「キスマ付いてた首筋に触れて、保健室のベッドに押し倒しただけッスよ。恥ずかしそうに染まる頬も、少しだけ漏れた吐息もすげぇ可愛いかったなぁ……まぁ、アンタには関係のない話だけど」 ……このクソガキ、ガッツリやってんじゃねぇーか。

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