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第126話

「今日はわざわざ俺のために時間とってくれて、ありがとうございましたっ!!」 ある程度、お互いが納得できる形で話し終えた後、俺たちはファミレスを出た。 「お前のためじゃなくて、アイツのためだけどな。それより、本当に夕飯食っていかなくて良かったのか?」 ファミレスに入店する前は無言で歩いていた地下街を、今は弘樹と話しながら歩いている。たったの数時間で、他人だった野郎が知人に変わるのだから人の縁とは不思議なものだ。 「すげぇ食いたかったんッスけど、家に帰ると飯があるんで……俺の母ちゃん、完食しないと怒るんですよ。育ち盛りだから、なんとかぁ、かんとかぁ……っつって」 時間も時間だったため、ファミレスに居座っている間、俺は弘樹に食事をしていくか尋ねたのだが。弘樹はドリンクバーだけでいいと言い張りながらも、フードメニューを見つめて思い切り腹を鳴らしていたから。 そのことが気になって俺が問い掛けると、弘樹は母親のことを愚痴り始めてしまうけれど。 「サッカーやってんなら体作りは基本だろ、文句言わずにしっかり食えよ。飯作ってもらえんのが当たり前じゃねぇーからな、たまには母親に礼でも言ってやれ」 「なんつーか、感謝してないわけじゃないんッスけどね。面と向かって言おうと思うと、素直に伝えられない子供心というか」 感謝の気持ちを持ち合わせているらしい弘樹は、照れ臭そうに笑う。思春期真っ只中の高校男子は、親に反抗しつつも成長していくものなのだろうと思った。 「お前があの場で食うっつったら、飯代まで俺が出してやったんだけど……まぁ、それはまたの機会があったらだな」 「マジッスか、無理矢理でも食っときゃ良かった……でも、もう白石サンの連絡先知ってるんで、腹減った時は白石サンに連絡します」 「ふざけんな。用もねぇーのに連絡してくんなよ、俺もそこまで暇じゃねぇーから」 「冗談ッスよ、冗談」 星に何かあった時のため、弘樹と俺は連絡先を交換した。もちろん、何もないことに越したことはないのだが。俺が弘樹の行動をある程度把握する意味でも、電話番号とLINEは教えてやることにした。 補導される時間になる前には家に帰してやろうと思っていたのだが、思っていたより弘樹がお喋りで。ファミレスでの滞在時間は二時間近くに及び、最寄り駅の改札の前に着いた時には22時近くになっていて。 「夜遅せぇーし、気を付けて帰れ」 「はいっ!! お疲れッス」 俺に頭を下げ、改札を通り抜けていった弘樹の顔は清々しかった。 星のことを思い、弘樹のために費やした時間。 それが蓋を開ければ自分のためになったような気がしてならないが、ある意味俺は良い経験をしたのだろう。 長いようで短い一日、明日になれば俺はようやく星に会えるから。明日の迎えの時刻を何時に設定するか考えつつ、買い物にも行かなきゃならないことを思い出した俺は、星との約束をしっかりと果たせるのか少々不安になったのだった。

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