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第130話

オレとステラに襲われた白石さんは、吸っていた煙草の火を消すとステラ諸共オレを強く抱き締める。 「うっ……」 「お前さ、それ反則だろ」 「ちょっ……あの、くるしぃ、です」 「ニャー、なんて言うお前が悪い」 白石さんの匂いに包まれて、苦しいけれど。 でも、すっごく幸せだって感じるのはおかしなことなのかもしれない。普通じゃない感情なのに、自然と零れ落ちそうになる言葉。 「白石、さん……オレっ」 ……白石さんのことが、好き。 そう伝えようとしたけれど、白石さんはオレがあまりの苦しさに耐えきれなくなったと思い込んだようで。ステラとオレを離してしまった白石さんは、オレの頭を撫でて笑うだけだったから。 顔を見てしまうと、途端に喉の奥に引っ込んでしまった言葉を白石さんには告げられないままオレは俯いた。 今はまだ、素直にこの気持ちを伝えられそうにない。白石さんだけに向いている感情の正体を、その名前を、オレははっきりと理解してしまったんだ。 好きだって、頭が理解するよりも先に。 白石さんに抱き締められた身体が、オレの心が、そう強く叫んでいる。 でも、だからこそ。 白石さんの顔を見て、真っ直ぐに好きだと伝えることの難しさにオレは早くも気づいてしまった。 緊張するのも、ドキドキするのも。 幸せだって感じることも、安心できるのも。 白石さんのことが好きだから、オレは白石さんの言動で一喜一憂する。 理由が分かれば酷く簡単なことなのに、その気持ちを表現するのはとてつもなく難しくて勇気がいる。想いを伝えることは、こんなにも意地らしいものなんだって。オレが悶々と考え込んでいる時、隣にいる白石さんは新しい煙草に火を点けていた。 すぐ傍で漂ってくる煙りは、少しだけ青白く見える。室内にゆっくりと溶け込んでいくみたいに、ふわりふわりと、段々に消えてく煙り。 「……あの、白石さん」 自分の気持ちに気づいたから、分かったことがあるから。オレは白石さんに、確かめなきゃならないことがある……タイミングを見計らっている暇は、もうないから。 いつの間にか、不格好になってしまっていたステラを抱え直してオレが白石さんの名を呼ぶと。白石さんは視線だけをオレに向けて、そっと問い掛けてくる。 「どうした、星」 落ち着いた声のトーンと、穏やかな瞳。 もしかしたら、白石さんはオレがこれから何を言おうとしているのか分かっているのかもしれないけれど。 「弘樹……えっと、昨日のことなんですけど。弘樹が、オレの友達が、白石さんに会いに来ませんでしたか?」 本当は、昨日からずっと気にしていたこと。 白石さんに尋ねたかったことをオレが聞くと、白石さんは煙りを吐き出して薄く笑った。 「お前のLINE通り、弘樹は俺に会いに来た。お前のことが本気で好きだから、これ以上星のことを傷つけないでくれってな……男らしく、正々堂々とそう言われた」 「あの、迷惑をかけて本当にごめんなさい。何度もやめた方がいいって伝えたんですけど、弘樹はちっともオレの言葉を聞いてくれなくて」

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