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第142話

中断を繰り返した告白は結局形にならずに終わって、星と2人でのんびりとした時間を過ごした後。 「白石さんっ、すごい美味しいっ!!」 ご希望のナポリタンを一口頬張り、正に感激だと言わんばりに星は声を上げた。本当に美味そうに食べている星を見て、俺からも自然と笑みがこぼれていく。 今日一日中、食ってばっかりな気がしなくもないが……いや、星といると食事が中心なのは間違いないんだが。それでもいいと思えるほど、星はにっこり笑って幸せに満ちている表情をする。 「……母さんの味とはまた違う美味しさで、ケチャップの酸味も少なくて風味もあって、卵も半熟でとってもまろやかで本当に美味しいっ!」 「まろやかさは生クリーム、風味はバターだろうな。お前が満足出来たなら、俺はそんで充分」 「白石さんっ、ありがとうございます」 男を惚れさせるならまずは胃袋を掴め、と。 誰が言ったか知らないが、その説は間違っていないのかもしれない。女の手料理に憧れる男は少なくないし、実際ここに虜になってくれてるヤツがいる。 ……まぁ、俺は女じゃねぇーんだけど。 上辺だけじゃなく心から美味しさを表現するような星の食べっぷりは、とても気持ちのいいものだ。一口食べては、ルンルン、キラキラ、と……目には見えないオーラを放ちながら、仔猫は食事を進めていった。 ……が、しかし。 「はぁ……なんか、寂しい」 ついさっきまで美味しいと、ずっと笑顔でナポリタンを食べていた星だったが。ご馳走様でしたと丁寧に両手を合わせた途端に、溜め息を吐き哀しそうな顔をした。 「本当にね、とっても美味しかったんですよ。すごく幸せなのに、食べたら無くなっちゃうんです……哀しい、ですね」 空っぽのスキレットをぼーっと見つめる瞳は、うるうると潤み始めてしまう。 「そりゃさ、食べたらなくなるだろ。そんな哀しそうな顔すんな、また作ってやっから」 食べたら、なくなる。 それが当たり前過ぎて、俺はそこに感情など持ち合わせたことがない。けれど、どうやら星は違うらしい。 「絶対、また作ってください」 付き合っていないのに、告白すらまだなのに。 星のひと言で、俺達の関係が終わらないことや次があることを知った俺はこう言った。 「ん、約束してやる。さて、泡風呂入るか?」 「あ、入りたいですっ!!」 俺のひと言で、パアッと笑顔になった星。 ……さっきまでの哀しさは、一体何処いったんだよ。 ショッピングモールの雑貨屋で、星がたまたま見つけたバブルバスのコーナー。バブルバスが憧れだと言った星に、俺は家で試してみるかと話し、一緒に風呂に入る為の丁度良い口実を手に入れていた。 「星、先にシャワーだけ浴びといてくれ。俺が洗い物片付けたら、バブルバスやってやるから」 「あの、洗い物オレがやりますよ?」 「ありがてぇーけど、スキレットはシーズニングっていって、きれいに洗った後に火にかけて乾かして油塗らなきゃいけねぇーから俺が片付けとく。バブルバス楽しみにしとけ」 俺はそう言って、星を風呂場に押し込んだ。

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