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第1話

【星side】 暖かい春の風が、頬を撫でる4月の始め。 初めて着るブレザーの制服は、ブルーのシャツに紺のネクタイ、チェックのボトムスの三点セット。中学3年間学ランだったのと比べると、鏡越しの自分の姿にオレも少し大人になった気分になる。 制服に袖を通し、少しの不安と大きな期待を持って。オレ、青月 星(あおつき せい)はこの春から高校生になった。 「せーいー、制服着れたかなぁ?」 自室で一人、朝から制服ファンションショーをしていたオレを呼んだのは、オレの兄ちゃんだ。コンコンと軽いノックのあと、部屋のドアから顔を出した兄ちゃんの名前は、青月 光(あおつき ひかり)20歳の大学生。 大学に入って染めた髪はサラサラの金髪で、父親譲りの切れ長の瞳に整った顔立ち。175cmの身長と長く細い手足はモデルみたいで、兄弟だってことを感じさせないほど、オレの兄ちゃんは容姿端麗。 幼い頃から兄ちゃんは見た目も良くて、性格も良くて。勉強もスポーツもなんでもできて、異性にも同性にもみんなから人気がある、キラキラ輝く王子様みたいな人。 平凡を極めたようなオレとは正反対の兄ちゃんは、新しい制服を着ているオレを見てぎゅーっと勢いよく抱きしめてきた。 「せいも大きくなったんだねぇ、とっても可愛い。制服、良く似合ってるよ」 兄ちゃんにスッポリと抱きしめられてしまったオレは、自分の165cmほどしかない身長に切なくなるけれど。それと同時に香ってきた爽やかな香水の匂いが、オレの鼻を掠めていき、兄ちゃんの匂いだなぁってオレは安心する。 「……ぅ、兄ちゃん苦しいっ」 でも、息ができなくなるくらいに力強く抱きしめられていたオレは、我慢できずに兄ちゃんの身体を無意識に押してしまった。 兄弟だから、このくらいのスキンシップは毎日じゃないにしろ頻繁にあることだけれど。今日も変わらず王子様だとか、本当は抱きしめてもらえて嬉しいとか。 兄ちゃんには言えない気持ちを隠して、オレは照れながらも俯いてしまう。 「あぁ、ごめんね。せいがあまりにも可愛いかったから。強く抱きしめすぎちゃったかな?」 オレと兄ちゃんの間に小さな距離ができ、俯いているオレを心配したらしい兄ちゃんは、オレの顔を覗き込みつつ笑い掛けてくれる。 そんな兄ちゃんの些細な言動ひとつで、オレの心臓の鼓動は早くなっていくんだ。 ……オレは、小さい頃から兄ちゃんに憧れているから。 兄ちゃんとは対照的で、オレは母親譲りの大きな瞳に真っ黒な髪、体格にも恵まれず華奢な体。オレは兄ちゃんみたいに愛想も良くないし、すぐに人見知りしちゃうから……オレは周囲の人から、よく人形みたいだってからかわれたりしていたんだけど。 そんなオレを、兄ちゃんはいつでも守ってくれていて。オレはいつしかそんな優しい兄ちゃんのことが、大好きだって思うようになっていた。 その思いは、兄弟としてじゃなくて。 ……特別な意味での、好き。 オレの好きな人は、いつでも優しいオレの兄ちゃん。

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