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第13話
ちゃんと説明しようと自分のなかでは健闘してみたものの、言葉にするとなかなか上手く伝えられない。白石さんに向けていた視線も、言葉とともにだんだんと逸れていくけれど。
「なら、もう一回してやっから。本当にイヤなら、しっかり抵抗してみせろ」
「あのっ、ちょっ……」
逸らしたはずの視線がオレの意思と関係なく交わったのは、白石さんがオレの顎をくっと上げさせたからで。言われた意味を理解する隙もないまま、半ば強制的に降ってきたニ回目の口付けは、さっきのものとは違っていた。
「んっ、ふぁ…」
オレが知っているキスは、唇と唇を合わせるだけのものなのに。今オレが白石さんとしているキスは、オレの知るキスじゃなくて。
「ンっ…はぁ、っ…」
鼻にかかるように洩れる声は、オレの声じゃないって全否定しても。部屋にはオレの恥ずかしい声と、くちゅっとした湿った音が響くだけ。
抵抗しなきゃって思うのに、逃げ出さなきゃって思うのに。オレが息を吸おうと僅かに口を開く度、何度も降ってくる雨のような口付けからオレは逃れられなくて。
ついさっき、オレはファーストキスを白石さん相手に済ませたばかりなのに。自分以外の人の唇の感触も、その熱さも……全てが知らないことばかりで、なんだか頭がふわふわしてくる。
「あっ、ンンっ…ん」
オレが身体を強ばらせていたのは最初の数秒だけで、どんどんオレから力が抜けていってしまうから。
絶対に抵抗しなきゃいけないはずの両手は、白石さんに縋り付くように伸ばされていく。すると、白石さんはオレの頭を優しく抱え込み、ゆっくりと唇を離して笑った。
「……これで分かったろ、お前は俺を嫌えねぇーって。悪いコトされてたヤツの表情してねぇーし、それにこの手、俺を掴んでんのはお前の方だ」
やっと離してもらえた唇は、とても意地悪に言葉を紡ぐ。知らぬ間に白石さんのTシャツをぎゅっと握っていたオレの手を取り、白石さんはその手の甲に口付けてきて。
「……っ」
白石さんが醸し出す雰囲気にまたもや見惚れてしまうオレは、思わず息を呑む。
そんなオレを見ていた白石さんはくしゃくしゃとオレの髪を撫でたあと、オレに触れていた手をそっと離してゆっくりと息を吐いた。
緊張して、安堵して、そしてまた緊張しての繰り返し。白石さんがオレに教えてくれることは全部、オレの知らないこと。
知らないことだけれど、きっとこれが現実で。
つい目で追ってしまいたくなる白石さんの仕草も、甘い香りも、何もかも。オレは白石さんに流されるまま、白石さんを受け入れてしまったんだって。
理解したときにはもうすでに遅く、白石さんのキレイな瞳には顔を赤くしたオレの姿が映る。ドキドキと高鳴る鼓動は、今までに聴いたことのない音を奏でて。
オレは、兄ちゃんが好きなのに。
白石さんにされたことのすべてが、オレの想いをゆっくりと否定していくような感覚だった。
叶うことのない恋心だけれど、オレがずっと大切にしてきた淡い想いに微かに影が伸びていく。
でも、オレの瞳は白石さんを見つめてしまうんだ。
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