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第15話

こんなの、脅されているのと変わらないのに。 オレが兄ちゃんを好きなこと、白石さんにキスされたこと、何故だかオレは抵抗しなかったこと、今日起こったすべてのことを、オレは兄ちゃんに知られてはならないから。 色々と言いたいことはあるんだけれど、白石さんに反論するのは控えることにして。 「……分かり、ました」 本当は、分かりたくなんかない。 でも、今のオレは白石さんにそう伝えることしかできなかった。 せっかく、オレは新しい高校生活を手に入れたのに。高校生って自由だなって、今日感じたばかりだったのに。これからオレは、白石さんに逆らえない生活を送ることになるんだって思うと、やっぱり何も言えなくて。 この部屋に入ったときとほぼ同じ姿勢を取り、オレは膝の間に顔を埋めるけれど。 「星、お前はいい子だな」 少しの沈黙のあと、白石さんはとても優しい声でそうオレに言い残し部屋からいなくなった。でも、オレの部屋には白石さんの甘い煙草の匂いだけがいつまでも漂っているように感じて。 白石さんが部屋を出るとき、白石さんの大きな手でよしよしと髪を撫でられたことが妙に心地よく感じたオレは、ふぅーっと深く息を吐く。 少しの時間でさまざまなことが巻き起こり、そうしてオレは独り部屋に残された。 朝から兄ちゃんにからかわれ、弘樹と一緒に登下校して。弘樹の様子が気になりつつも帰宅したオレは、兄ちゃんがオレの部屋にいると思い込み自室の扉を開けたのに。 問題なのは、その後だったんだ。 兄ちゃんの部屋と、オレの部屋を間違えていた白石さんがいて。今日初めて会った白石さんに、可愛いからとキスをされて、オレが兄ちゃんを好きなことを知られて、弱味を握られて、脅されて。 ……オレ、部屋から出られない。 白石さんは兄ちゃんに用事があって、家に来たはずだから。どこへ行ったのか分からない兄ちゃんが帰宅するまで、白石さんはこの家から出ないんだろうと思うと、オレは動く気になれなかった。 兄ちゃんよりも大きく見えた白石さんはきっと、180cm以上はあるんだろう。高身長でスタイルも良くて、ふわふわした栗色の髪と淡い色の瞳。 キレイな二重まぶたがゆっくりと弧を描き、オレに微笑む表情は、爽やかだったり、甘かったり、意地悪だったりして。整った顔立ちから、いくつもの表情を見た気がするけれど、そのどれもにオレは見惚れていたように思う。 なんというか、白石さんは大人の男の人って感じがしたから。兄ちゃんと全然違うけれど、白石さんはモテる人なんだろうって。 そんなことを考えながらベッドにごろんと横になったオレは、色々ありすぎて……というより、されすぎて忘れていた事実を認識して我に返った。 ……あの人、どうして男のオレにキスしたの。 あまりに突然のことだったから、白石さんが男の人だってことをオレは忘れていたけれど。同性同士で、しかも初対面の人に平気な顔をしてキスするなんて有り得ないはずなんだ。 有り得ない、はずだから。 寝たらすべてがなかったことになっていないかと、オレはそう祈るように制服のまま深い眠りへと落ちていった。

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