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第29話

……色々悩み、数時間後。 泣きそうな大きな瞳を覗き込み、俺がわざとニヤりと笑ってやると。目の前のソイツの瞳がゆるりと潤み視線を逸らす。その仕草に俺は煽られ、堪らず細い首筋に舌を這わせていく。 「んっ、はぁ…」 吐息とともに、小さなカラダはピクンと反応して。ソレに気を良くした俺の口元は綻んでいき、なめらかな肌に口付け、痕を残して。 遠慮がちに俺の髪に伸ばされた手を握り、俺はその手をベッドへと縫い付けた。 「ぁ…もっと、して」 絡めた指先には僅かな力が入り、その言葉に誘われて俺は小さな唇を丁寧に味わってゆく。 「…ッん、ふぁ…」 開いた唇の隙間からソイツの舌を絡めてやると、なんとも甘い鳴き声が洩れてきて。 ……まだ、足りない。 もっと乱れて、俺を感じて。 「もぅ、しら…いし、さっ…」 ───って、ハァ?! 妙な夢を見て飛び起きた俺は、今が現実であることを認識するため部屋の灯りをつけた。 「……有り得ねぇーってか、ねぇーわ」 スマホで時刻を確認すると、朝4時過ぎ。 俺は、いつの間にやら寝落ちていたらしいけれど。夢の内容を鮮明に思い返して、俺はドン引きした。 夢の中で他人とキスをしていたことも、その相手が星だったことも。星の反応が可愛くて先を望んだことも、アイツがそれを受け入れたことも。全てが有り得なくて、それでいて生々しい夢だったことに。 とりあえず、今はこれが夢で良かったと思うしかないんだが……ツッコミどころ満載な内容に、俺は凹んでいくばかりだ。 夢で逢えたら、なんて。 そんなアホなことを、望んでいたわけじゃないのに。中学生のような欲望丸出しの夢を見た事実を、俺は受け入れる気になれなかった。 それにしても、なんとまぁエロい夢だった。 己の欲求不満を絵に描いたような星の反応と、それに釣られる俺。まだ誰も入れたことのないこの部屋で、なんなら俺のベッドでコトに及んでいたことが何より恐ろしい。 自分だけのプライベート空間に意図も容易く侵入され、それに違和感を覚えることなくヤることヤってた俺はなんなのだろうか。 星は男だと、分かっているのに。 男でも可愛いアイツは、俺が知らない感情を次々と俺に植え付ける。 女相手でも、俺が誰かに触れたいと思うことはないのに。アイツには、星には触れてみたいと思うことが不思議だった。 けれど。 ……たかが夢、されど夢だ。 そう自分に言い聞かせて、もう一度寝ようと部屋の灯りを消してみても。俺は上手く寝付くことができそうになく、ベッドに横たわったままスマホを弄り出す。 スケジュールアプリで明日の予定を確認し、アラームをしっかりとセットして。夢と現実の狭間に落ちそうな感情をなんとかして保つために、俺はアプリゲームで遊ぶことにしたけれど。 そのどれもこれもが、ログインボーナスだけを貰ってまったく遊んでいなかったことに気づき、俺はスマホを放り投げると無理矢理瞳を閉じていった。

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