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第64話

「オレ、こんな格好で大丈夫ですか?」 ブラックのスキニーに真っ白のプルパーカー、赤いスニーカーはオレのお気に入り、でも……オレ、パーカーじゃない方が良かったかもしれない。 どこに行くのかは分からないままだけれど、白石さんはジャケットを着てカジュアルなスタイルで纏めているから。 場に合った服装じゃなかったらどうしようって、そう思ったオレは運転中の白石さんに問い掛けた。 「そんなお高い店じゃねぇーし、それにその服よく似合ってから気にすんな」 白石さんは前だけを見て運転しているはずなのに、オレは知らない間にファッションチェックされていたみたいで。 「あ、ありがとうございます。オレ、ファッションにあんまり興味なくって……オレの服は、いつも兄ちゃんが選んでくれるんです」 「さすが光だな。パーカーのサイズが大きめなのも、光の見立て通りってことか」 この場合、オレが褒められているのか、兄ちゃんが褒められているのか分からない。でも、白石さんはそう言いながら煙草を咥えていて。 ……白石さんって、モデルみたい。 メンズ雑誌に掲載されていても違和感がなさそうとか、何を着てても本当に似合ってるとか。部屋で着てたパーカーも、初めて会った時のTシャツ姿も、今のジャケットも全部。 白石さんに憧れると言っていた弘樹の気持ちが、オレも今ならよく分かるけれど。 「今から行くとこって、どんな所なんですか?」 知らぬ間に白石さんを凝視していることに気づいたオレは、急に恥ずかしくなって話題を切り替えた。すると、白石さんは少しだけ躊躇しながら声を出す。 「……うるさいオカマ野郎の店、だな」 オカマ野郎って……オレ、不安になってきた。 白石さんが躊躇った理由はすぐに理解できたけれど、如何にも怪しい雰囲気がオレと白石さんを包んでいくから。 「あの、それって変なお店じゃないですよね?」 身の安全を確保するようにオレが白石さんに尋ねると、白石さんは思いの外すぐに答えてくれた。 「変な店じゃねぇーけど、ランっていう変なオカマ野郎が経営してる店。光も行ったことある店だから、心配はいらねぇーよ」 「え、兄ちゃんも行ったことあるの?」 「光は大学に入ってから連れてった、優と一緒にな。光が初めてランと会ったときは、俺より美人がいるーってギャーギャー言って騒いでたけど」 兄ちゃんより美人な男の人って、いるんだ。 「兄ちゃんが美人って言ったなら、ランさんって人は相当お綺麗なんですね。兄ちゃん、俺より綺麗な男はいないって、冗談でよく言ってるから」 「確かにランは美人だけど、年齢だけは訊くなよ。俺もランがいくつなのか知らねぇーんだ、歳訊くと機嫌悪くなるから気をつけろ。それさえ守れば、ランはいいヤツ……な、はず」 良い人だと断言するのは不服なのか、白石さんは曖昧に言葉を濁して溜め息を吐いた。

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