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第86話

外の雨音に耳を傾け、家に独り残してきてしまった星のことを今更ながらに心配する。俺が外出中の間に星が起きてしまっても、もしものときのために俺は書き置きを残して家を出てきたけれど。 昨日の一夜を共に過ごしただけだから確信は持てないが、星はきっと一度眠りに就いたらなかなか起きないタイプだと俺は思っているから。 今は心配してもどうにもならないことを考えていた時、スマホのバイブが車内に鳴り響いた。 暗い車内では、やたらと明るく見えるスマホのディスプレイ。俺は通知を確認するためにソレを目に入れ、そして通話の許可を出す。 『雪夜、今いいかしら?』 着信は、ランからだった。 「あー、まぁ、いいけど」 ランドリーの乾燥が終わるまで、まだ時間がかかる。ランと話したいわけではないが、暇を潰すには丁度いい相手からの連絡。 『今日は、星ちゃんをお店に連れてきてくれてありがとう。本当にとっても素直で、まっすぐないい子ね。容姿も光ちゃんとはまた違う愛くるしさがあって、貴方が惚れたのも納得したわ』 ランの店に行ったのは今日だったのか、と。 ランの声を聞く俺は、そんなことを思っていた。 『それにしても、雪夜にあんな独占欲があったなんて知らなかったわ。私が触れるだけで妬いてたら、貴方この先やっていけないわよ?』 「……うるせぇー、オカマ」 俺の独占欲が強いことを知って、一番驚いているのは俺自身だっていうのに。人の気も知らずにペラペラ喋るオカマがうざくて、俺は電話に出たことを後悔するけれど。 『……あのね、雪夜。星ちゃんのことはひとまずおいておいて、光ちゃんには早いうちに貴方の気持ち、ちゃんと伝えておいた方が良いと思うの。あの子、人一倍勘が鋭いから……きっと、星ちゃんと貴方の異変にすぐ気付くハズよ。もしかしたら、もう勘付いてるかもしれないわ』 揶揄うことを止めたランは、酷く真剣に話し出した。俺と星の関係を、光に伝えるべきか、否か。 『光ちゃんが拒めば、貴方は星ちゃんと関わりを持てなくなるかもしれない。雪夜は大事な友達も、初めて自分から愛したいと思った人も、どちらも失うことになるかもしれないのよ』 考えてなかったわけじゃない、むしろ逆だ。 ランに言われる前に、俺はその覚悟を決めていた。だからこその決意、今の俺が星を残して外にいるのは服を乾かすためだけではないのだから。 「そんでも、俺はアイツが好きだ。光に駄目だと言われようが、嫌われようが、軽蔑されようが。もし光に殺されたとしても、それでも俺は星がいい。アイツじゃねぇーと駄目なんだよ。アイツが俺を拒まない限り、俺は星を求め続けると思う」 想いを声に出すと、胸の中に閉まっていた感情が一気に溢れてくる。ランに告白しても無意味な内容かもしれないが、それでも俺はランに本音を打ち明ける必要があったのだ。 『雪夜……』 案の定、電話越しで俺を呼ぶランの声は震えていた。

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