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第114話

「興味ねぇーって言うクセに、お前は毎回女抱いてんじゃんか。俺なんかついこの間、やっと童貞卒業したばっかだってのに」 「あぁ……まぁ、抱くのは別。俺にもそれなりに性欲はあるし、それに向こうから求められたら抱いてヤんのが男だろ」 煙草の煙りを吐きながら、そうは言ってみたものの。我ながらクソ野郎な人生を歩んでいたのだと、俺は自分の発言で再確認した。 だが、しかしだ。 「誰からも求められてない俺は、どうしたらいいんだよ。俺、筆下ろしすんのに三万かかったんだからなッ!!」 俺と同等、ある意味それ以上のクソ野郎が目の前にいることを忘れてはいけない。 「バカだろお前、知ってるけど。今どき筆下ろしとか言わねぇーし、三万も払ってセックスするとか本当バカ」 「素人童貞だと、ちゃんと卒業できたことになんねぇもん。バイト代注ぎ込んで手に入れた俺のセックスを笑うな、白石。そしてお前は、これ以上無料でオイシイ思いをするな」 「別に、旨くもなんともねぇーし。金のやり取りがないだけで、お互いに身体目当てだったら愛もクソもねぇーから……ない愛情を求められても、俺は与えねぇーだけ」 ……つい最近までは、だけど。 心の声が洩れることのないように、俺はそう言ったあとに煙草を咥える。すると、康介は顔を顰めて俺を睨んできた。 「分かってたけど、お前はすげぇ嫌なヤツだッ!」 「まぁーな」 吐き出す紫苑は細く長く、そして康介に向ける視線は片目を瞑りウインクで。わざとイヤなヤツを演出した俺と、両手でテーブルを叩き出した康介。 「イケメンがたいして興味もないくせに、そういうコトすっから女が勘違いすんだよッ!簡単に女の子たちにモテやがって、クソがッ!!」 「んなもん俺に言うな、向こうから勝手に寄ってくんだから。案外、モテるのも面倒くせぇーんだよ……ってかさ、誰に向かってクソっつったか分かってんの、お前」 星のように、好きになった相手から好意を抱いてもらえるのなら嬉しい限りだが。興味のないヤツらからの積極的なアピールほど、うっとおしく面倒なものはない。俺の目の前でキャンキャン吠えている康介も、かなりウザいことは言うまでもないだろうけれど。 「……白石、俺はお前が嫌いだ」 いくら康介が俺に罵声を浴びせ騒いだとしても、俺に力で勝てないことを分かっている康介は、急に大人しくなると口を尖らせ呟いた。 「嫌いで結構、ありがとさん」 「その余裕そうな態度も、表情も、様になりすぎててすっげぇ腹立つッ!!」 康介だけが吠え、俺は終始声のトーンを変えることがないってのに。余裕があるとか、ないとか、俺にしてみればそんなことはどうでもよく、単純に人としての常識的にカフェで騒ぎたくないだけなんだが。 周りを気にせず店内で騒ぎまくる康介の連れじゃ、他者からしたら俺も同じ穴の貉に見えているんだろうから。 「勝手に腹でもナニでも勃たせとけ、バカが。今日は女の子とすげぇー気持ちいいセックスができるといいな、ヤりたがりのこーすけクン?」 俺は、盛りのついた猿のように顔を赤くする康介のことを煽るだけ煽ってやった。

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