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第124話

自分が黙ってさえいれば、他の誰かがターゲットになることはない。大人しい性格の裏では、そんな小さな優しさがあったと弘樹は話していく。 「でも独りになっていくセイに、俺は心のどこかで安心してた。俺だけのセイでいてくれる気がしてたから……俺、最低ッスね」 一度溢れ出したら、止まることのない独占欲。 幼いながらにその感情に気づいた弘樹は、良いヤツのフリをして星の傍にいたのだと、己の行いを見直して落ち込んでいくけれど。 「俺、本当はどさくさ紛れでセイに告白したんッスよ。でもアイツ、俺の話まったく聞いてなくて。キスマのことも、これはただの内出血だからキスマークじゃないとか言い始めるし。俺も付けたいって言ったら、ムリっつって即答するし」 誰も話せなどと言ってはいないのだが、過去の話から今日の星との会話まで詳しく語る弘樹の体勢が、段々とテーブルに近づき、そして。 「……セイには返事、まだいらないからって。俺だけを見てもらえるようにって、カッコつけて。結果なんて、なんとなく分かってんだけど……それでも俺は、アイツが好きだから、諦めることが、できねぇ……」 見事に突っ伏した弘樹は、俺ではなくテーブルに向かいブツブツと念仏を唱えていた。 真っ直ぐすぎる弘樹の想いが、俺には少し眩しく見える。それがたとえ実らない恋心だとしても、頭をもたげて唸っている無様な姿だとしても。長年、その想いを内に秘めてきた弘樹を俺が嘲笑うことはできない。 残念ながら俺は、綺麗な恋愛をしたことがないから。愛なんてない、身体だけの関係ばかりだったから。俺はつい最近、星に出逢って……初恋というものを、知ったばかりの人間だ。 正直、弘樹の淡い恋心を受け入れられるほどの余裕は持ち合わせていない。けれど、こんな俺でも伝えてやれることはあるだろうと。 煙草を灰皿に押し付け、二本になった吸殻を視界に入れつつ俺は口を開いた。 「弘樹、とりあえず顔上げろ」 生気が抜け、そのうちミイラにでもなりそうな弘樹に声を掛けると、弘樹は無言で顔だけを持ち上げる。そして顎をテーブルに付けたまま、視線のみを俺に向けてきた。 「俺から諦めろとは言わねぇー、俺がどうこう言える問題じゃないしな。お前の想いを星に伝えるのも、ソレはお前の好きなようにすればいい」 「いや、でもっ」 諦める必要はない、と。 そう言ってやった途端、テーブルから生えていた弘樹の顔面は引っこ抜かれ、肩や胸が露になるけれど。 肝心なことを伝え忘れた俺は、あたかも弘樹が起き上がるのを待っていたかのように、一呼吸間をおいてからこう言った。 「……ただし、お前からアイツに触れるのは禁止だ。この条件さえ満たすことができるなら、お前が星にナニを言おうと、告白しようと、俺は構わねぇーよ」 欲しいものは、どんな手を使ってでも掴み取る。一度諦めてしまうと、チャンスなんてもんは永遠に来なくなる。だから、弘樹が納得できる結末を迎えられるまでは、無理に諦める必要はない。 ……全力で奪いにこい、弘樹。

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