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第1話

【此れも、無数に在る本の内の一つ】  月が迚も大きく耀く夜だった。  暗く冷たい海の中、一人沈む。  何かを待って居た気もしたけれど今は其の記憶すらも朧気で。  躰が少しずつ魚に侵食されて行く感覚が心地佳かった。  頬に触れる液体が、自らの体液で有るのか、揺れる水面の滴で有るのか判別は付かない。  何故、此処に独り浮かんで居るのか。其の理由すら今はあやふやで。  手を伸ばし、空に浮かぶあの球体を手に入れる事が出来たのならば、何かが変わったのだろうか。  此れが唯の悪夢ならば、私はあの月を手に入れる事が出来る。

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