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第5話
灰谷が連れてきたのは学校の屋上だった。
「ほら、叫べ」
「え?」
「言いたい事あったら言え。全部吐きだせ。聞いてやっから」
「…」
「おら、なんでもいいから叫べって」
灰谷がオレの背中をバシリと叩いた。
「はっ灰谷の…」
「デカイ声で~。あっちにいても聞こえるように」
「灰谷、そばにいるじゃん」
「今はいるけど、いつもいれねえ」
「…」
「オラ、泣きそうな顔すんな、言え」
「灰谷のバカヤロ~」
オレは大声で叫んだ。
「いいぞ。もっと言え」
泣きながらオレは叫んだ。
「なんで死んじゃうんだよ。なんで死んじゃうんだよ。オレ置いて…なんで」
「男が泣くな。しゃべれ。叫べ」
「もっともっといっしょにいたかったよ。もっともっと色んなとこ行って、もっともっと…」
オレは灰谷の顔を見た。
「なんだよ」
「抱き合いたかったよ」
灰谷の顔がみるみるゆがんだ。
「この野郎が」
灰谷がオレの胸ぐらをつかんだ。
反射的に目を閉じたら口を塞がれた。
激しいキスとともに熱く狂おしい灰谷の気持ちが流れこんできた。
ガクリとヒザの力が抜けた。
「はっ…灰谷……」
灰谷はオレをギュッと抱きしめた。
「お前バカ。ホント、バカ」
「…なんでだよ」
灰谷はオレの顔を見て言った。
「オマエはさ、生きてんじゃん。オレはさ、もう死んでる。死んでるってことはさ、そこで止まったってことなんだ。この先、お前が二十歳になって、三十になって、でも、オレは十七のままなんだ。わかるか」
「……」
「オレの全部をオマエにやるってのはそういうことだ。オマエが思い出してくれる限り、十七歳のオレは真島、オマエの中で生き続けるんだ」
「灰谷」
「お前がいやだって言ってもしょうがねえ。忘れたいって思ってもしょうがねえ。これはオレがオマエにかけた呪いだ」
「呪い?」
「〈はじめて〉の呪い。どうだ一生忘れられねえぞ」
「いやだなんて絶対思わない。忘れるか。忘れてたまるか」
悲しそうにでも嬉しそうに灰谷は微笑んだ。
「オマエがサエないおっさんになってもオレはいつまでもカッコイイ灰谷のまんまだ。くやしいだろう」
「オレだってムッチャカッコイイおっさんになるわ」
「そうだな。カワイイおっさんになるな、多分。でもオレは、その時そばにいられねえ。どうだどっちがくやしい」
「灰谷…」
灰谷はオレの頭に頭突きした。
「いってえ!」
「真島、カワイイおっさんになって、じいさんになって、会いに来てくれ」
「じいさんになったオレが灰谷にはわかんのかよ」
「わかるさ。オマエが一言、『灰谷』って言えばわかる。オレが真島をわからないわけねえだろ。な?」
「ん…ん…」
オレは何度もうなづいた。
そしてまた、涙が出た。
「泣~くな。カワイイから」
「カワイくないよ」
「カワイイんだよ」
灰谷の手がオレの涙をぬぐう。
温かいその手で何度涙をぬぐってくれたんだろう。
「灰谷はカッコいいよ」
「おっ、初めて言った」
「そんなことないよ」
「あるよ。まあオレは誰が見てもカッコイイけどな」
「うん」
灰谷が呆れたように言う。
「オマエ…デレすぎだろ」
「それは灰谷だろ。カワイイカワイイ言いすぎだろ。カワイくねえし」
「カワイイんだよ」
「カワイくねえわ」
「あ~うるさい」
「ふぐっ」
口を塞がれた。
「ん…んっ…ん…ふぅ…んん~。ぶはっ……溶けるわ!」
「オマエほんとにベロチュー好きな」
「灰谷だろ」
「まあな」
「バカップル」
「だな」
オレたちは笑った。
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