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第8話 二人の間に割りこむ
その日の仕事終わり。
バックルームで明日美ちゃんに声を掛けられた。
「真島くん、お疲れさま」
「お疲れ~」
とっとと帰ろう。
「あのね、真島くん、この後って時間ある?」
「え?何?」
♪~
明日美ちゃんのスマホが鳴った。
「あ、ちょっとごめんなさい」
イヤな予感がする。
画面を確認した明日美ちゃんが言う。
「灰谷くん、もう少しで着くって。でね、三人でいっしょにご飯食べて帰ろうって言われてたんだけど」
そう来たか。
「ワリぃ、オレ、家でメシ待ってるし」
「真島くんのお母さんには灰谷くんが連絡するって」
読まれてる。
「いや、オレ、金ないし」
「今日は灰谷くんがごちそうするって」
灰谷のやつ、三人じゃ会わねえつったのに。
ぜってえヤダ。
「ワリぃ、オレ今日寄るところあるんだわ」
「え?」
「明日美ちゃんも灰谷と二人のほうがいいだろ」
「え?そんなことないよ~」
と言っている顔に二人でいたいという本音がにじんでいるように見えた。
オレのやっかみか。
「んじゃ、オレ表から行くわ。灰谷にはテキトーに言っといて」
「え?真島くん……」
灰谷のやつ。ふざけやがって。
明日美ちゃんの返事も待たずにオレは店を飛び出した。
*
灰谷が店のバックルームに顔を出すと明日美が一人待っていた。
「灰谷くん」
灰谷の顔を見てニコニコ笑った。
「あれ?真島は?」
「帰っちゃった。寄る所があるって」
「寄る所?ちょっと電話するわ」
呼び出し音はするが、真島は電話に出ない。
「出ねえな」
「灰谷くん、また今度でいいんじゃない?」
「え?まあそうなんだけど……」
今までと大して変わらないって所を真島のやつに早めに見せとかないと……。
「灰谷くん、あたしと二人じゃいや?」
「え?」
「やっぱり三人がいい?」
「いや、そんなことはないけど」
「もしかしてあたしが、割りこんだみたいになっちゃうのかな」
明日美が淋しそうな顔をした。
割りこむ?
オレと真島の間に?
――そういえばあいつもそんなこと言ってたっけ。
オレと真島の間に誰かが割りこむなんて、意味不明なんだけどな。
そういうのと違う……。
灰谷は心から不思議に思った。
電話は留守電になってしまった。
「そういうんじゃないよ。じゃ今日は二人で行こっか」
「うん」
明日美の顔が輝いた。
「高梨さん何食べたい?」
「灰谷くんは?」
「オレ?オレは~なんだろう~肉?」
「お肉、いいね」
「ええと……そしたら……」
女の子を連れて行くお店のデータが灰谷には不足していた。
「灰谷くん、前に真島くんと三人で行ったファミレスにしない?あそこならなんでもあるし」
「そうしよっか」
「うん」
明日美がさり気なくお店を提案してくれた事に灰谷は気がついた。
こういう気遣いのできるところがとてもいいと思った。
明日美と二人、ファミレスまで歩きながら灰谷は考えた。
真島のやつ、本当に三人じゃ遊ばないつもりだな。
メシぐらいいっしょに食ってもいいじゃねえか。
逃げるとかなんなのあいつ。
やっぱ高梨さんのこと……。
灰谷がハッと気がついたら、隣りを歩いていたはずの明日美の姿がなかった。
振り返ると明日美は灰谷の後ろを少し遅れて早足でついてきていた。
身長百八十近い灰谷。一方明日美は百六十センチもない。
歩幅が違った。
「ごめん。歩くの早すぎた」
「ううん。足の長さが違うから。ごめんね」
明日美に合わせて灰谷にしてはかなりのスローペースで並んで歩く。
お店を決めることも含めて真島と三人でいる時には意識したことのない事だった。
いつでも真島がおしゃべりを途切れさせず、先に立ってくれていた。
明日美と初めて二人きりで会った時に気がついたことが灰谷にはあった。
真島がいないと話が転がって行かず会話が弾まない。
灰谷自身、あまりベラベラしゃべる方ではないし、明日美は明日美でどうも緊張しているようで、どうしてもギクシャクしてしまう。
佐藤にいろいろと聞かれても答えられなかったのは実はそのせいもあった。
自分と高梨明日美を真島がうまくつないでくれていた事を灰谷は改めて感じた。
なぜ真島じゃなくてオレなんだろう。
真島と話したほうが楽しいだろうに。
灰谷はそう思いながら明日美を見つめた。
「灰谷くん?」
「腹へったね」
「うん」
それでも微笑む明日美はカワイかった。
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