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第126話 色違いのバイク
中田の兄が働く工場の片隅に二台の色違いのバイクが並んでいた。
原付免許を取った後、中古のバイクを探していた真島が街中で見かけて、カッコイイと言っていたバイクだった。
バイト先でバイク雑誌を見て灰谷は思いついた。
真島と二人でツーリングに行きたいと。
「いいじゃん灰谷。ちょっとベスパっぽい」
案内してくれた中田が言う。
「ああ」
「ケツのラインがティアドロップだ。シャレてんな。シートゆったりだし。ハンドル幅広。おっ、メットインじゃん」
元々バイク自体に興味がなかった灰谷は初めてのピアスを選んだときと同じ様な感覚で、真島が欲しがっていた車種の色違いにしようと思った。
「イメージとしては真島がシルバーで灰谷がブラックだけど、きっと真島ブラック選ぶな」
「オレもそう思う」
「おっ、そうだ。このメット、兄貴から二人にって」
新しいヘルメットが二つ、置いてあった。
「マジで?中田の兄貴ホントにカッコイイな」
「それでな灰谷」
中田は灰谷の肩に手を置いた。
「近日中に第二回長渕ナイト開催でヨロシク!」
「ゲッ!マジで?」
「マジだ」
「長渕ナイト」
「しかもそれだけではない。矢沢ナイトも控えている」
「……」
灰谷の脳裏に悪夢が蘇った。
それはジャイアンリサイタルと同義語だった。
長渕剛ファンの中田の兄がカラオケで長渕を熱唱するのに合わせ、マジハイサトナカがただただ盛り上げ気持ちよくなってもらうという長い長い夜。
中田兄の声が枯れて出なくなるまでそれは続いた。
「長渕はわかるとして、なんで矢沢?」
「矢沢ファンの知り合いが見つけてくれたんだってこのバイク。で、その人のご希望で初の矢沢ナイト開催決定!そこんとこヨロシク」
「OKよろしく。…んで真島はともかくとして。中田もそこんとこOK?」
「マジハイの事なんだから、しょーがねえだろ。頼まれたOKヨロシク」
「でも佐藤、イヤがるだろうな」
「あいつには何も言わせねえ。元はと言えばあんなクレージーナイトが開かれるようになった原因はあいつだからな。兄貴あれで味しめたんだ」
「まあそれもそうだな」
「つうことで灰谷、オマエ長渕と矢沢のヒット曲、さらっとけよ」
「わかった」
オレはマズイ人に頼んでしまったのかもしれない。
開催決定したナイトを想像して灰谷は少し震えた。
「あ、中田、写真撮ってくんない?真島に送るから」
「お、まかしとけ」
灰谷はヘルメットをかぶり、バイクにまたがった。
パシャパシャ。
「こんな感じ?」
「うん」
灰谷はすぐに真島に写真を送る。
『バイク二台ゲット。オマエどっちにする?』とメッセージも送る。
「何?今日も既読つかねえの」
「うん」
「何日目だっけ。真島が旅に出てから」
「四日目?かな」
「そっか。あいつも頑張るねえ。何してんだろな真島」
「だな」
灰谷はバイクを眺めた。
まあでも、これ見たらあいつだって帰りたくなるぞ。
見たら、なんだけどな。
真島とツーリング。
これなら自転車と違って海にだってすぐ行ける。
灰谷は小さく微笑んだ。
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